■2024年を象徴する出来事【5月 京都・八坂神社の一件を振り返る】動画さらし、集団ネット私刑、ミスリード、デマ■随時更新中
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途中で読むのをやめてしまいそうなほど長文化してきたため整理編集を進め、また要約版作成や記事分割を含めたリニューアルを計画中です。また、ゆくゆくは別プラットフォームにて英語版も展開します。
この一件の風化を防止するためには、より多くの方に知っていただいて関心を寄せていただくことが不可欠だと考えています。裾野を広げるべく、予備知識がまったくない方へと想定読者層をあらため、また語り口もやわらかくして、より多くの読者の皆さんに届くようスタイルを変更する予定です。この機会に、以前から頂いている声やご不満を反映させるとともに、意図しない誤解を招かないよう努めて参ります。
京都・八坂神社の件とは
2024年5月23日夜、京都市東山区に位置する八坂神社において、外国人ガイドが率いるツアー客4名のグループの参拝行為をめぐって、日本人女性(Xアカウント名:藤野氏)が注意したとされ、その後口論に発展。その後に撮影された口論の様子を映す動画が同撮影者の手によって公開されると、ネット全体に飛び火して壮絶なガイド攻撃が見られた。
初期報道を2例。不確かな情報に基づき、動画のみを切り取って「ガイドが注意されて逆ギレ」と色づけする報道が中心だった。
■共同通信47ニュース/地元紙・京都新聞 2024年5月27日
取材はされたのだろうか。
■「日刊ゲンダイ」2024年5月31日
「迷惑行為」と言い切っているものの、記者はどんな行為があったか知っていたのだろうか。
動画拡散後に見られたガイドへの攻撃を取り上げたメディアは今なおない。
口論動画のほぼ全発言
2024年5月23日夜
京都市東山区/八坂神社境内
日本人女性撮影者
イギリス人男性ガイド
顧客は70代4名(顔が出たのは男女1名づつ)The Times インタビューによりグループサイズが明らかに
アメリカアクセントの居合わせた女性
その後の流れ
撮影者はXに動画をあげた
ガイド住所指名が拡散
「違法ガイド」「闇ガイド」「旅行業法違反」など間違った情報が出回った
「日本から出て行け」など、外国人嫌悪を露わにする投稿が目立った
動画をさらっと視聴すると圧倒的にガイドの印象が悪く見えるものの、動画前および動画後(拡散やネット民の反応)を俯瞰してみたい。
動画前に何があったか 撮影者側とガイド側、双方の視点/主張
【撮影者側】
藤野氏自身の状況描写が複数ある。
①Day 1:2024年5月23日の最初の投稿
「次々に鈴緒を柵に叩きつけて遊びながら参拝していた」
「注意したところ多数から罵られた」
②2024年5月24日の投稿
下記動画(別人)を示して「これに近かった」と説明
③2024年5月25日の投稿(抜粋)
④2024年5月27日の投稿
下記アベマテレビでの発言に準じる内容
⑤2024年6月4日 Abema TV
鈴の緒の鳴らし方について、6月4日に放送されたアベマテレビの通称アベプラ https://abema.app/s2Bk に音声出演(顔出しせず)。番組中は「藤野さん」と呼称された。
藤野氏の発言書き起こし全文
差別的な発言があったというのはどの部分か
外国で興奮してくると母国語で話したいものかもしれない。「英語話せますか」はそれだけのことのように感じた
英語で「十分です、十分です」と距離を置こうとしていたなかで、ヒートアップしていったと見えた
動画の前は何分くらいのやり取り?
そこまでの流れは?
ガイド側の主張について
お客様が鈴緒を柵に叩きつけて遊んでいたという事実はない
日本の文化やマナーを尊重している。お客様にもご理解いただいていた
藤野さんが拡散した、男性による鈴緒を振り回す動画は全くの無関係
鈴の振り方の強さはどれくらい?
どんな感じで注意を?
外国人と見られる女性が「ガイドは、あなたの言葉を通訳した」と話していた ※質問者の誤った理解に基づく質問
注意した段階でガイドは通訳したか
最後にひとこと
わかること
鈴の緒を叩きつけていた事実はなかった?「遊んでいた」という表現なし
「手を離してた際に当たってしまうこともある」とのこと。「叩きつけて」とは大きくニュアンスが異なる
振り回す動画について別人だと明言
「次々に」に呼応する描写が見当たらない
迷惑行為と称するに匹敵する行為の描写が見当たらない
【ガイド側】
2024年5月 ガイドが知人に書いたとされるコメント
https://x.com/oliver1383860u?s=21&t=Pyw1n_9KgpM7BTieZ3rK1Q
2024年6月 アベマテレビで発表されたコメント
お客様が鈴緒を柵に叩きつけて遊んでいたという事実はない
日本の文化やマナーを尊重している。お客様にもご理解いただいていた
藤野さんが拡散した、男性による鈴緒を振り回す動画は全くの無関係
2024年7~8月 本記事独自・情報筋によるガイド主張
藤野氏が主張する注意直後の第一声が「オマエ、うるさい」であったことについて、事実無根と否定
ある女性によるナンパや素行不良嫌疑に関連し、「警察に呼ばれて要注意人物になっている」と吹聴されていた件について事実無根と否定。
ある女性によるナンパや素行不良嫌疑について、複数証言をもって事実無根を証明できると否定。
問題の整理
「次々に鈴緒を柵に叩きつけて遊びながら参拝していた」のインパクト
動画だけ見るとガイドが圧倒的に悪い印象を与える(筆者自身、初見で大変なショックを受けた)
動画前の話がハッキリしていないにもかかわらず、迷惑行為や悪質行為があったと半ば事実認定されて一方的にガイドを糾弾する投稿が多数見られた
ガイドが顧客に注意したかどうか、情報がないにもかかわらず「ガイドは注意をしていない」と考える投稿が多かった
確かにガイドは動画中で暴言を発しているが、その後に受けた被害を見るに「ここまでの仕打ちを正当化できるのか」と少数派から声があがった
「規範を逸脱している」とみなす価値観には個人差がある場面や状況がある。京都市は「電車内の化粧」を例えに
不慣れな訪日客には寛容な姿勢で接するべきではないか(八坂神社の鈴は重厚で鳴らしにくい)
偽情報、誤情報にあふれたSNS
両サイド支持者によって議論となった箇所を「論争ポイント」として後方で6ポイント列挙
動画拡散のその後 間違いやズレた論点、攻撃で埋め尽くされたSNS
SNSは必ずしも一般の人たちの意見をのぞける場所ではなく、簡単に「いかにもそれが多数派」のような投稿をびっしり埋めたり、フェイク情報やミスリードを発信したりできてしまう。このことに今回気づかされた。
明らかに事実と異なる意見やミスリードを掲げて擁護にする声であふれていたが、興味の喪失も同時進行したと見られ、2024年6月前半をピークに時間を追うごとに沈静化が進んだ。
誤情報、未確認情報、フェイクニュース、ズレた論点リスト
違法ガイドだ、闇ガイドだ(2018年からガイド資格は不要。”ライセンス”という表現もそぐわない)
旅行業法違反(旅行業の基本は宿泊と運送。街歩きツアーには不要。また宿泊ありでもガイド料金のみ徴収している限りは案内業には不要。予約代行[立て替え]も同様) ※本記事筆者は国内旅行業務取扱者資格を保持
会社登記なし、違法ツアー会社だ(個人事業主ではないだろうか)
脱税(根拠は?)
事案以降に出現し始めた真偽不明のトリップアドバイザー低評価レビュー(ほとんどが事案以降に記述されたもの)
ガイド男性の謝罪動画へのリンクがあると記載する、ガイド本人を名乗るのインスタアカウントが流布 同リンクは無関係なゲーム系サイトへのもの
撮影者が例示した、ありえないほど乱暴に若い男性が鈴緒を振り回す動画について、当該客らだと誤認したり実際にそのように振り回したと思い込んだりする人が続出
本殿が破壊された(痕跡は?)
迷惑・不敬・悪質は実質なかったにもかかわらず事実認定 。「暴れた」「狼藉」などの類似表現も同様
「教会モスクで~(とんでもない行為を挙げて)したら」と本件と比較して大げさすぎる例を列挙
靖国神社の件だとか明かに次元の違う事象とくくる
八坂神社は被害届を出すべき(被害がなかったので出す必要がない)
神社や行政は対応を(裁くのは司法。日本は法治国家)
オーバーツーリズム論へ誘導(当日を発端とする一連の出来事とは無関係)
食い違い/ある女性が、ガイド男性のナンパや素行といった真偽不明の一連の情報を投稿
女性側/2024年6月、ガイド男性のナンパや素行不良についてXで投稿を開始。「飲み屋で男性から声をかけられた」「男性はナンパを繰り返している」「しつこく付きまとわれた」「神社で騒いでいた」「ケガをさせられた」などと糾弾。
ガイド側/2024年7月、情報筋からの確かな証言では事実無根を主張。
「飲み屋で男性から声をかけられた」については、複数証言が女性主張を否定。
誤認ポイント① 迷惑行為があったなら、実際どんな迷惑行為だった?
報道関係者含め、この質問には誰ひとり答えることができなかったはず。誰もが何が起こったかたよく分からないまま、まるで事実のように受け止め、あの振り回す動画は当該客らだと見なす声までがあった。
悪気があったのか、不慣れだから音が大きかったのか。メディアにおいてもそういった考慮は一切なかった。「あの振り回す動画と同等のもの」と匂わせる罪深い編集により、SNSで大量の誤認を生み、「無知でおバカな外国人グループが、ガイドに率先されて破壊行為を楽しんでいた」なる曲解が横行した。
誤認ポイント② 「証拠がない」の誤解
動画以前の様子を映す動画がなく「証拠がない」と有名インフルエンサーも気後れしていたが、実は、ある意味、あの口論動画が決定的な証拠だというこという見方もできる。それは晒すことに法的リスクがあるからだ。肖像権はなにも芸能人だけのものではないことは広く知られるところ。
重要報道を振り返る
①2024/5/29 デイリー新潮
ガイド側、八坂神社、京都市が回答したこと
ガイドは訴訟準備中と回答。これ以降は訴訟の可能性についてコメントをしていない(2024年9月3日時点)
②2024/6/4 The Times(有料) 趣旨&発言全訳
Richard Lloyd Parry記者による両サイドを取材しての記事。この件において唯一ガイドが記者に直接語った。藤野氏に割いた紙面が少なかった点は気になったが、それまで圧倒的に藤野氏寄りの報道が中心であったため、公平の範疇と言えるのではないか。
ガイド男性側
知らない人々が電話をかけてきて不快な発言を浴びせ、電話を切るまでやめない
見知らぬ人々が住まいの周りをうろつく
匿名Xユーザーが放火予告を思わせる投稿をした
白ブタ、クソ外国人、国へ帰れ、などを罵声を含むメールを複数受けた
家財を勝手に運び出すためなのか、運搬トラックを手配したものがいた
6歳の子どもは学校に行けなくなった
妻はパニック障害を発症し、薬を服用している
不安から、しょっちゅうカーテンの陰から外を見る
注意を受けたあと、ガイドと英国人ツアー客は謝った
悪意を感じさせる日本人が電話をかけてきてプライベートツアーを希望した
「2週間寝ていません。極右勢力にリンチされないか不安です」
「彼女は謝罪を求めていたように見えなかった」
「敵意をむき出しにしてました。出来事の始まりから、何かトラブルを探していたように見受けられた。ささいな出来事でしたが、私たちの生活に甚大な影響を与えています。日本社会の暗部を見せられたようです。すてきで、愛らしくて、親切。そんな日本人が本当にたくさんいます。でも残念ながら、過激な人々も間違いなく存在しているのです」
藤野氏
投稿がガイドとその家族にもたらした影響について後悔の念はまったくない
「外国人旅行客の増加現象は、日常生活に組み込まれてしまったようです」
「スーパーマーケットやコンビニで外国人旅行者を見かけます」
論争ポイント① ほぼ全報道から切り取られた女性客の言葉 <悪質ガイド行為の否定>
投稿で、番組中で、藤野氏自ら「まずガイドが参拝を説明していた」との趣旨の説明があった。また、動画中で女性客が「音が大きかったのは悪かった。彼のせいじゃない」との趣旨で発言。つまり、「ガイドが無知な顧客に変なことを教えて、叩きつけるように遊んでいた」などの行動を主導した可能性は否定できるのでは。
論争ポイント② 4名のツアー客は高齢。少なくとも2名は70代 <乱暴に振り回すことは身体的に可能なのか>
あの出回った振り回すような動作が身体的にできるのだろうか。また日本人でも、やや鳴らしにくい場合は大ぶりに頑張って鳴らそうとすることもあるはずだ。高齢者である点は初期にスポットライトが当たっていれば誤解を防げたのでは。一般常識をもった高齢者が宗教施設で柵にたたきつけながら遊ぶだろうか。
論争ポイント③ 先制攻撃「Rudeはオマエや」<ガイドの罵声のみ非難することの理不尽>
藤野氏の「rudeはオマエや」で口火を切るかたちで、一定の冷静さを保っていたガイド男性が声を荒げた。にもかかわらずガイド男性の発言だけを非難する報道が多かった。SNSでも同様の避難が非常に目立った。
論争ポイント④ さらし自体や拡散によってガイドが被った権利侵害
さて、あのガイドの罵声は確かにショッキングだったが、見るべきポイントはそこだけなのだろうか。また、鳴らし方も罵声も注意も、あの動画に映ってない境内での出来事も、事実を把握する上で重要なだけであり、ガイドが動画拡散によって受けた言われなき権利侵害の事実を帳消しにすることはできないようにも見える。境内の出来事では傷害等もなく、詰まるところケンカ両成敗の口論ではないだろうか。当初の京都市は「電車内での化粧」を引き合いにして微妙さを説明していた。
論争となっていたのだが、今回の最大の論点は境内の外で起こったのではないかという点。それは、特定、拡散、業務妨害疑惑、名誉棄損、外国人嫌悪、集団ネット私刑といった一般SNSユーザーを含めた一連の行動だ。
この件を取り巻く議論は、「動画の内容はもはや関係なく、境内のみならずその後に起きた一連の流れを俯瞰してガイドが権利侵害など大変な目に遭った」と考える人たちと、「動画前にガイドに不手際があったのだから(未確認情報)、ガイドの自業自得であり、またガイドは動画内で暴言を吐いたことから、女性は正当性をもって動画をさらしたのだ」と考える向きとで意見は二分され、SNS上では後者が圧倒的だった。
論争ポイント⑤ 行為全容とやり取りが不明瞭ななかで「ガイドは注意しなかった」「ガイドに落ち度」と言えるのか
「注意そのものおかしい」とまでは追及される必要はないし、またガイド男性の技量によってうまく穏やかにその場を取りなせた可能性もある。一方で、注意に対して「ちゃんとやってますよ」という反応もあっていい。「気を付けてくださいね」で双方が事なきをえた可能性もある。
本当に「叩きつけて遊んでいた」などショッキングな行為があったなら、それこそガイド側に絶対的な非があったわけで、ガイドの丁寧な謝罪は大きなポイントになったはず。ただ、その “迷惑行為” がおそらくはなかったことがアベマテレビで明確になり、どんな行為だったか双方の合意が見られない以上、悪質行為を前提に議論することはできなくなった。
規範があいまいな場合、"注意"する側に自動的に絶対性を付与されて謝罪されるのが当然というわけではないのでは。"注意"と思っていても相手はそう思っているとも限らない。そして、自分が思うような謝意を見ることができないこともありえる。
悪質行為はなかったことは浮き彫りになってきているものの、実際にどんなやり取りがあったのかは不透明なままであり、議論の価値があるか分からないほどだ。
論争ポイント⑥ “Do you speak English?” は差別か
ガイドが発したこの言葉をきっかけに、藤野氏は「差別ですよね」「私を虐げているんですか?」と応じた。
「ただ母国語でのコミュニケーションを求めただけでは?」と思う向きと、「女性が英語ができないことを利用して優位に立とうとしてるのでは」との声で二分され、後者が圧倒的優勢だった。なかには大変強い言葉をもってガイドを差別主義者扱いする投稿も少なくなかった。
「私を虐げているんですか?」。公正を期すと、人の受け止め方はそれぞれであり、1つの極として、そういう受け止めもあるのかもしれないし、女性もそう思ったのかもしれない。ただ、世間一般の多く方は理解に苦しんだのでは。ある時その境地が分かった気がした。「君は英語を話せないんだろ。話してみろ」と聞こえたのではないか。
あるツーリズム事業者の声
インバウンド観光業従事Aさんに話を聞いた⸺
まあ、あそこはちょっと厄介なんですよ。この仕事を始めてから気づきましたけどね。業界関係者なら誰でも知ってるのでは?
①振り方、②鈴の音、③柵に当たる音と、3つの要素がありますが、一連の騒動ではそれがゴッチャになっている印象を受けました。主張や証言が曖昧だったので仕方がないですが、曖昧な「音」という表現が先行してました。あの出回った動画の影響もあり……
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食い違う、注意後の第一声
藤野氏の主張は注意のあとに「第一声は”オマエ、うるさい”」だと主張。これには筆者自身、イメージしてみて大変な衝撃を受けた。ただ、執筆者が情報筋から得た情報では、ガイド男性は事実無根であると主張しているという。藤野氏の言い分どおりであれば、もちろんガイドとして適切な対応とは到底呼べない。また、藤野氏が気持ちが収まらず付いて回ったことも筋が通る。それこそ「注意して逆ギレ」の構図だ。
根本的な話だが、ガイドに限らず接客を行う者が注意なり苦情を申し立てられて即キレるなどあり得るのだろうか。長時間揉めて顧客のあまりの悪態に手を持て余し、我を忘れて語気が強くなることはあるかもしれない。しかし第一声で罵声を? 誰もがいち早く丸く収めたいものであるところ、罵声を浴びせるなど何らメリットがない。藤野氏の主張に疑問を覚えるサービス業従事者は多いのではないか。
女性撮影者寄りの視点
あくまで仮定だが「自分から純粋な気持ちで注意したのに、あんな風に口論になって、罵声を浴びせあって終わった」のが事実なら、確かにその気持ちは察するものがある。普通に「大変な目にあったね」と言われてもおかしくない。ただ、その労いはガイド男性にも掛けられるべきものだが、ケンカ両成敗にしても1対5なら負担が異なる。
公平を期すと、ガイドは職業上どんな状況でも声を荒げるべきでないし、藤野氏にしても5人相手はそれなりに怖さもあり冷静でいられなかったことも理解できる。また荒っぽい言い方にしろ、罵詈雑言ではなく「大事にしてくれ」と伝えた。もう一つ、何もなかったのに苦情を申し立てることも考えにくい。撮影者にすれば翻訳機を介してまで言いたかったわけであり、それは「覚悟」とも読み代えることができる。
すべての出発点となった「次々と柵に叩きつけながら参拝していた」も、藤野氏には主観でそう見えたと受け取ることも可能かもしれない。しかしそれは上記ご紹介済みのアベマテレビにて藤野氏が発言した際、合致する描写は見られなかった。筆者を含め、世間は文字通り「列をなして、次々に、意図的に破壊しようと遊んでいた」の意味に捉えた。もちろん本当に迷惑行為をする訪日客がいるにしろ、大多数のツアー客をを思うと、何らかの訂正あるいは見解についてコメントを聞きたいものだ。
「相手に負い目のある行動に注意をしながら、口論となり最後に殴った」と同じ
仮に本当に逆ギレだったとしても、世の中には残念ながら「注意して逆ギレ」は山ほどある。正当な理由から注意したとしても、相手側が荒げた調子で食ってかかることもある。注意する側が過剰で「なんの話?」と逆に詰め寄られることもあるだろう。いずれにしても、ここで殴ったら負け、最初の純粋な注意も泡と消えて傷害罪だ。
似たような話。この口論の末に動画を晒したことは、「(本人的には)純粋な気持ちで間違いを正しく注意したものの口論になり、最終的に殴ってケガを負わした状態」と同じではないだろうか。
どんなに正義心から注意したとしても、ほかの誰かであっても注意してたことでも、動画で晒すことや、個人情報の特定&拡散を正当化できるのだろうか。そう差し引きすると、実はあまりにも簡単な話に見えてしまう。「謝った、謝らない」など、その場の発言から考慮すべき事柄も、晒しや、その後の集団でのガイドへの攻撃で吹き飛んでしまった感がある。
ガイドは撮影者に動画削除を求め、撮影者は拒んだ
藤野氏の投稿によると、以前に外国人から着物姿の写真を撮られ、削除を迫ったという。
写真を撮られることを嫌がる権利はある
嫌な気分をしたからと「目には目を」で晒すことは法的にどうなのか
別投稿では写真を撮られたことを嫌がり削除させたという。その権利はあるだろう。では、今回ガイド男性は口論動画で動画の削除を求めていたが藤野氏は拒否した。これをどう説明するのだろう
最大限に公平を期すならば寛容/不寛容は個人差があり、そこは責められる必要はないのでは
ガイドの顔と住所が晒され、6歳女児が早々に学校に通えなくなりおびえて暮らす。妻はパニック障害に(The Times)
せっかく友達もできて、学校に慣れてきたのに⸺。そんな状況かと察する。想像するだけでも、あまりにも哀しく胸が締め付けられるよう。6歳の時にそんな経験をした大人はいるだろうか。母として父として、ひとりの大人の人間としてどう思うだろうか。過激な人が家の前にやってこないか恐怖に駆られる。脅迫まがいのおびただしい数の電話が鳴る。それでも「これは自業自得なので仕方がない」なのだろうか。
それぞれが受けた被害、与えた被害
晒しや特定、ネット総攻撃の被害を受けたガイド、余波を受けた家族
トリップアドバイザーにて殺害脅迫を受けたガイド男性
トリップアドバイザーにて殺害脅迫を行った人物と、いいねをした93人
(藤野氏言い分を正とした仮定)注意後に日本語で罵声を浴びせたガイド男性、またその罵声を浴びせられた藤野氏
「悪質ガイド」とのレッテル貼り、違法ガイド、旅行業法違反、脱税など根拠不明の糾弾を受けたガイド
「まずは精神科医で(音が苦手だと見せるために)診断書をもらおう」と謀議を企てる発言したとされる協力者
拠出真偽不明、ガイド男性の謝罪動画へのリンクがあると情報を流布した人物
ガイド男性の女性関係(本件に無関係)でおとしめようとする目的なのか、真偽不明のインスタスクショを流布した人物
誇張動画と「叩きつけて遊んでいた」発言により、言われなき信用をおとしめられた外国人旅行客全員
風評被害により言われなき名誉を毀損された外国人ガイド全員
妄信的あるいは確信犯的にフェイクやミスリードを投稿するSNSユーザー
国籍を理由とする言われなき誹謗中傷を投稿するSNSユーザー
動画拡散に協力したSNSユーザー
「特定」などの言葉を振りかざされることで声を上げることをやめた数多くのガイド支持者
正しい報道をしなかったメディア
誤報を修正しなかったメディア
ガイド男性の証言に耳を傾けなかったメディア
問題の本質をとらえようとしなかったメディア
営業損失額算定の基礎データ
ある日のツアー収入 18万円 [30ポンド x 30 名] (The Times)
業種特性により売上は季節によってばらつきが大きいと考えられる。
春秋が繁忙期であろう。
SNS運営会社による処罰のあり方
2chなど伝統的に過激な発言が許容されたネット黎明期のプラットフォームの弊習もいまなお名残があるのか、X/Twitterでも驚くようなヘイトスピーチが当たり前のように繰り広げられていることに今回気づかされた。
活発な言論が保証される一方で、他人の権利を侵害したり人格を傷つけてはいけない。根本的な対策としては、匿名でなく実名で登録する仕組みづくりを導入することで、アカウントをまたがった健全なオンラインアクティビティの担保になってゆくだろう。また、AIを導入することにより通報することなく自動的に検知してアカウント凍結とする体制が今後確立していくはずだ。
SNS全体についてサイバー犯罪課と連携を緊密に取ることが望ましいのではないか。軽々しく聞こえてしまうが、交通違反の切符のようにSNSの枠組みを超えた共通のスキームがわかりやすいのではないか。
記事の目的
この記事の目的の一つは、初期報道によって盲目に不正確な情報を信じてきた方々に"開眼"していただくこと。デマやフェイクニュースが多く、エコチェンバー化するSNSにあって、気づかぬうちに認知の歪みが生まれてしまう。ごく一部の方々だけでも今までの異なる視点で見つめるようになればと願っている。
「注意して逆ギレ」を超えて、この騒動全体を俯瞰する。顔をさらされて(肖像権侵害リスク)残酷な私刑にあったのは誰か。図らずも公になっていたGoogleマップやツアーサイト「Get Your Guide」で知り得た情報を、悪意をもって拡散した人物は誰か。制止あるいは静観を求めるべき人物は誰だったのか。思いをめぐらす機会になればと思う。
いまこそ、晒しについて考えるとき
ネットの世界でゲーム感覚やリベンジ感覚から生まれ、誰の手にも負えなかった晒し。アップロードのワンクリックで、安全な日常を奪って基本的人権を侵害し、家族を追い込み、仕事を失わせ、メンタル崩壊をももたらす。一方の当人は、名前も顔も明らかにせずにゲームに興じるかのような悪びれないありさま。それがまかりとおってきた。誰も手をつけられなかった。利用してきた者もいた。そして悪事の意識すらなかった人々がいた。晒しは、見過ごされてきた無法地帯だった。
"晒し動画型"のケースとして、これほどまでに"劇場型"で、かつ、たった一人の人物がおびただしい数の人間によって、爆発的な量の言葉にもできないようなガイドへの嫌悪感と偽情報を流布でネットリンチされたのは、おそらくネット史上初めてかもしれない。
誰がどんな目に遭うのか。画面を超えて想像力を働かせ、どれほどペナルティがふさわしいのかを社会全体で考える良い機会かもしれない。ネットリテラシーの「ニューノーマル」が生まれる契機となる可能性すらある。
私刑の違法性とは。その意識は多くが希薄だが、まぎれもなくネットは治外法権ではなく法的にリアルと地続き。たったひとつの投稿で民事や刑事の対象になる。そこに目を向けるきっかけにもなる社会問題であることは間違いない。
今回は「外国人」「神社」の2大要素があり、急進的な方々の心情に火に油を注ぐかたちとなり、誤った情報が過失としてまたは確信犯的に広がっていた。拡散者の手を離れて過激に暴走する人たちをコントロールすることは難しいにしろ、「冷静に」「落ち着きましょう」「間違いやミスリードが含まれていますよ」など、冷静な議論を呼びかける誠実な声明を出すことが抑止になったはず。ネットリテラシー文脈から議論がなされてもよいのでは。
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