高度プロフェッショナル制度(高プロ)に関する厚生労働省の報告(高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況)について『「過労死ライン」を月に125時間も超過 高度プロフェッショナル制度導入で働きすぎ助長の懸念が現実化』(2022年7月20日配信)にという記事を東京新聞のサイトに掲載され、その後、記者が関連質問を後藤厚生労働大臣に二日(ふつか=7月22日と7月26日)にわたってしているが、後藤大臣はまともに答えていない。そして「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」(高プロ適用者アンケート調査)についてはまったくふれていなかった。
高プロ制度報告状況資料と東京新聞記事 7月20日
東京新聞(デジタル版)は(2022年)7月20日、厚生労働省の資料「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」(令和4年3月末時点)を基にした記事を配信し、「高度プロフェッショナル(高プロ)制度で、在社した時間と社外の労働時間が月間400時間以上だった人が、2カ所の職場でいたことが厚生労働省への報告で明らかになった」と報じた。
高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況(令和4年3月末時点)(PDF)
なお、「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」については昨年(2021年)の6月に厚生労働省は令和3年3月末時点版を公表しているが、共同通信(2021年6月30日配信)は「高収入の一部専門職を労働時間規制から外す『高度プロフェッショナル制度(高プロ)』を3月末時点で導入していた17事業所のうち6事業所で、在社時間と社外で働いた時間を合計した『健康管理時間』が月300時間以上の長時間労働になった適用者がいたことが30日、厚生労働省の集計で分かった」と報じていた。
つまり「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」の令和3年3月末時点版と令和4年3月末時点版を比較すると、令和4年3月末時点版の状況はさらに深刻なことになっている。
後藤厚生労働大臣記者会見 7月22日と7月26日
厚生労働省のサイトによると、記者が「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」(令和4年3月末時点)関連質問を後藤厚生労働大臣に二度も(7月22日と7月26日)しているが、後藤大臣はまともに答えていない。
また、後藤大臣は(7月27日に開催された労働政策審議会 労働条件分科会の配布資料となっていた「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」(高プロ適用者アンケート調査)についても、まったくふれていなかった。
労働政策審議会 労働条件分科会 7月27日
後藤大臣の記者会見後、(2022年)7月27日に開催された厚生労働大臣諮問機関・労働政策審査会の第176回 労働条件分科会(議題は無期転換ルールについて、「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書について<報告事項>、その他)で「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」は資料として配布された。こちらの資料の方が詳しく、「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」(速報)まで記載されている。
労働政策審議会 第176回 労働条件分科会 資料4 高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況等について(PDF)
厚労省「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書公表 7月15日
厚生労働省の裁量労働制や高度プロフェッショナル制度などの労働時間制度見直しに関する検討会(正式名称「これからの労働時間制度に関する検討会」)が(2022年)7月15日に開催されて報告書(案)が議論したが(この第16回「これからの労働時間制度に関する検討会」が最後の検討会になると思う)、厚生労働省は同日(7月15日)報告書(報告書全文と概要と参考資料)を公表している。
厚生労働省は今年(2022年)1月~2月に「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」(高プロ適用者アンケート調査)を労働政策研究・研修機構(JILPT)に委託して実施していたならば、何故、7月15日に最後の「これからの労働時間制度に関する検討会」を開催して報告書をとりまとめて、しかも、その日に報告書を公開したのか。
「高度プロフェッショナル制度の適用労働者アンケート調査」(高プロ適用者アンケート調査)の調査結果報告書を労働政策研究・研修機構(JILPT)が作成し、その高プロ適用者アンケート調査結果報告書、およびさらに深刻な状況になっていることを明確に示している「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」令和4年3月末時点版を厚労省「これからの労働時間制度に関する検討会」で議論して、その議論結果を「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書の中に反映するべきではなかったのか大いに疑問。
「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書(PDF)
追記:上西充子教授 コメント(東京新聞)
東京新聞(デジタル版)は「専門職の人の労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度の適用対象者に厚生労働省系の研究機関が実施したアンケートで、1割強が適用を『希望していない』と回答したことが分かった。高プロは本人が希望し同意しない限り適用できない仕組みだ。本当は希望していないのに同意に追い込まれている疑念が生じている」(東京新聞『「本当は嫌なのにサイン」の疑念 労働時間の上限外す高度プロフェッショナル制度、1割強「希望していない」』2022年8月13日配信)と報じた。
また、東京新聞の記事によると「今、あらかじめ定めた時間数に残業代などを固定する『裁量労働制』について、経済界の要望を受けて適用職種を拡大するかの議論が国の審議会で始まっている。高プロと似た制度で、適用の対象者ははるかに多い」が、法政大学の上西充子教授は上西教授は「(裁量労働制の議論の前提としても)厚労省はまず高プロの運用実態をきちんと検証すべきだ」とコメント。
追記:労働政策審議会 労働条件分科会 委員発言
労働政策審議会(第176回)労働条件分科会
労働政策審議会(第176回)労働条件分科会(2022年7月27日開催)議事録は、見出しもなく長文になるため「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況等について」に関する委員等の発言・質問箇所のみを抜粋。
また、抜粋した議事録中の厚生労働省・労働条件確保改善対策室長が説明した資料No.4とは「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況等について」のこと。つまり、「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況(令和4年<2022年>3月末時点)のことで、3ページには「健康管理時間の状況」が記載されている。
なお、議事録の中で冨髙委員は「資料No.4の3ページのところにある1か月当たりの健康管理時間の部分につきまして、400時間以上500時間未満の事業場が2つもあるのは大きな問題であり、果たして人間らしい暮らしができるのだろうかというと疑問であると考えているところですし、高プロ制度の適用解除も含めて厳格に対応するべきではないかと考えております」と発言している。
高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況等について(PDF)
労働政策審議会(第176回)労働条件分科会議事録抜粋
第176回 労働政策審議会労働条件分科会 議事録(厚生労働省サイト)
労働政策審議会 労働条件分科会 委員名簿
厚生労働省が2022年9月27日に公表した「労働政策審議会 労働条件分科会 委員名簿」によると、2022年9月27日現在の労働条件分科会委員は次のとおり。
労働条件分科会 委員名簿<五十音順>
(公益代表)
荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授<分科会長>
安藤至大 日本大学経済学部教授
川田琢之 筑波大学ビジネスサイエンス系教授
黒田祥子 早稲田大学教育・総合科学学術院教授
佐藤厚 法政大学キャリアデザイン学部教授
藤村博之 法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授<分科 会長代理>
水島郁子 大阪大学理事・副学長
両角道代 慶應義塾大学法務研究科教授
(労働者代表)
大崎真 全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員
川野英樹 JAM副書記長
北野眞一 情報産業労働組合連合会書記長
櫻田あすか サービス・ツーリズム産業労働組合連合会副会長
東矢孝朗 全日本自動車産業労働組合総連合会副事務局長
冨髙裕子 日本労働組合総連合会総合政策推進局総合政策推進局長
八野正一 UAゼンセン会長付
世永正伸 全日本運輸産業労働組合連合会中央副執行委員長
(使用者代表)
池田祐一 日本通運(株)人財戦略部専任部長
鬼村洋平 トヨタ自動車(株)人事部労政室長
佐久間一浩 全国中小企業団体中央会事務局次長
佐藤晴子 東日本旅客鉄道(株)総合企画本部経営企画部担当課長
鈴木重也 (一社)日本経済団体連合会労働法制本部長
鳥澤加津志 (株)泰斗工研代表取締役
兵藤美希子 (株)大丸松坂屋百貨店人財開発部部長(松坂屋名古屋店担当)
山内一生 (株)日立製作所人事勤労本部エンプロイーリレーション部長
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