ペンギンの夢【掌編小説】
眠りに落ちると私はまた夢の中でペンギンに生まれ変わっていた。
南氷洋の水は密度の濃い碧色で、分厚い雲のような氷の下を私は仲間達と泳ぐのだ。
ペンギンは悩める哲学者である。
その悩みとは詰まるところ「鳥であるのに飛べない」という一言に尽きる。
ペンギンたちはそのアイディンティティの欠如、コンプレックスと向き合う煩悶、絶望と希望の輪廻に身をシロクロさせながら、氷の海を泳ぎ続けるのである。
実のところ、ペンギン達は泳いでいるのではない。
空を飛んでいると夢想しているのである。
私達は空を飛びながら、魚を追いかけている。
誰もここを海の底だとは思わない。
ペンギン達は示し合わせて、共に空を飛ぶ夢を楽しむのである。