丘本さちを

短編『脳みそとみみずくん』第五回新脈文芸賞を受賞。既刊本『往復書簡 傑作選』『続 往復書簡 傑作選』。購入はコチラ→ https://t.co/BQahVMProJ 会社経営者。 謎の団体 ケシュ ハモニウムのメンバー。https://note.mu/kesyuhamonium

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マガジン

  • 奇妙な味のショートストーリーズ

    これまでに書いた掌編、短編、ショートショートをまとめています。奇妙な味の作品が多いです。

  • 午前中のエッセイ集

    自分の書いたエッセイをまとめたものです。

  • 子育てのエッセイ

    自分が書いたエッセイの中で子育てに関するものをまとめています。

  • 弟くんは自閉症

    自閉症の弟についてのエピソード集です。

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赤ん坊の娘が発見したもの【エッセイ】

生後5カ月の娘が、急にワガママになってきました。 気に入らないことがあると、すぐに泣く。とにかく泣く。 おしゃぶりがうまく口に入らない。それだけで朝六時から絶叫です。 赤ん坊は泣くのが仕事。そうです。 でも、あやすのは親の仕事なのです。 抱っこの時間が増えて、ちょっと筋肉がついたのは嬉しいのですが、それよりも背中と腰へのダメージが蓄積されているようです。 朝起きた時点で、背骨に沿ったエリアがもう痛い。 ぼくはどうも無理な体の使い方をする癖があるみたいで、気が付くとずっと

    • 【掌編小説】鉄塔の見える家 #2000字のホラー

      夕暮れになると香奈恵は景色を眺める。 家の裏手にある窓の前で、つま先立ちになって、じっと時を過ごす。 そこから見える物は三つしかない。 空、山、そして鉄塔。 携帯の電波も届かないような限界集落の外れ。 壁まで歪んだボロボロの民家が、香奈恵と父親、二人の住まいだった。 香奈恵はいつも一人で家にいた。 「外に出てはいけない」 ここでの生活を始めるにあたって、父は香奈恵に強く言い聞かせていた。 山の中には大きなヘビや、毒を持つ虫がいて危ないからと。 だから香奈恵は本を読んだり、絵

      • 【掌編小説】あいちゃんはネコがすき #2000字のホラー

        あいちゃんはね、ネコがすきなの。 おうちでいっぱいかっているの。 ママもネコがすきだから、いつもひろってきてくれるの。 さわるとホワホワして、とってもきもちいいんだよ。 あいちゃんにはパパがいないけど、ネコがいるからだいじょうぶなの。 いつもネコといっしょだったら、しんぱいなんかないよ。 あいちゃんちにはおかねがないから、ママはジチタイからホゴっていうのをもらってる。 だからママとスーパーにいっても、おかしはかってもらえないの。 でもおかしをたべると、からだにどくがたまるっ

        • 【掌編小説】カサンドラ #2000字のホラー

          地を這うように低い走行音にまじって、心地よい女の声が聞こえる。 ──何か音楽をかけましょうか? 「ああ、落ち着いたやつを頼むよ」と私は答える。 リン、と小さな鈴を鳴らすような音。それがカサンドラの応答だ。 コンソールのディスプレイに描かれるオーロラのような模様。 ほんの数秒間、彼女は思考する。 わずかな空白の後、車内スピーカーから静かで重いチェロの響きが流れてきた。 そうそう、こういう曲が聴きたかった。素晴らしい選曲だ。いつも通りに。 「いい感じだ」私がそう褒めるとカサ

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          古書店の敷居は高い

          近所に古書店があるのだけど、一回も足を踏み入れたことがない。 なぜか古書店への敷居は高い。 古書店の店主は、まさしく本のプロという気がする。 相応の目利きができなければ、ネット書店全盛のこのご時世、生き残ることは難しいはずだ。 生き馬の目を抜くような古書店業界。 彼ら彼女らの手は血に染まっている。 そんなプロを目の前にして、悠々と本を選ぶ度胸がぼくにはない。 絶対にこちらが客としての値踏みを受けているはずである。 軒先に出している棚に目を向けようものなら、おそらくアウト。

          古書店の敷居は高い

          【エッセイ】本に関するお小言

          実家に一時避難していた蔵書が戻ってきました。 蔵書といっても段ボール箱にして12箱分。幅90cmの本棚2つに収まる量なので、本気の読書家の方からすると「なんだそんなものか」っていうくらいの量だと思います。 でも買った本が手元にないと調子が狂うところがあります。 「ああ、アレ読みたい!」とか「確かあの本に書いてあったはず!」っていう時に隔靴掻痒、すごくストレスを抱えてしまうから。 あと単純に何だか寂しいです。 家具や服はどんどん入れ替わっていくけど、本はずっとそこにあったので

          【エッセイ】本に関するお小言

          【エッセイ】大金を払って気疲れした話

          8月31日、と聞いてもまったく憂鬱さを感じなくなって、ああ僕は大人になったんだなぁと思います。 もちろん学生を卒業したのは、ずいぶん昔の話。 でも20代くらいまでは、あの地獄の門の前に佇んでいるような、夏休みの終わりの絶望感を引きずっていた気がします。パブロフの犬というか、もう心身に染み付いちゃっていたんでしょうね。あの重く沈んだ気持ちが。 誰しもそういった無意識に刷り込まれた、変なネガティブ感ってありますよね。まるっきり私事ですが、僕は「都会の夜景」がダメなんです。 以

          【エッセイ】大金を払って気疲れした話

          猫と娘と点と線【エッセイ】

          我が家には3名の小さな生き物がいる。 生後半年の娘。そしてオスメスのきょうだい猫。 ずっと一緒に暮らしているのだけど、この3名、ちょっと不思議な関係だった。 うちの猫たちは室内飼いで、ケージには入れずに自由に歩き回らせている。 だから娘の目には四六時中、猫たちの姿が飛び込んできている。 が、絶対に見えているはずなのに、すぐそばを通ってもまったくの無視。 わざと目の前に猫の顔を持ってきても、焦点は合わず視線は通り抜けてしまう。 お昼寝している時はもっと奇妙だ。娘は僕や奥さんが

          猫と娘と点と線【エッセイ】

          何の意味もなく、死ぬほど疲れた話【エッセイ】

          書いたら面白そうなネタはいくつか思い浮かんでいるんだけど、季節の変わり目のせいか、今日はいまいち疲れて元気がでてこないです。 だから「疲れた」ことについて書くことにします。 今までの人生で一番の疲れ。それは「100キロハイク」を歩き終わった後です。 「100キロハイク」というのは、ぼくが通っていた大学の名物行事で、埼玉県の本庄から東京の高田馬場までの約100キロを、一泊二日で歩き通すという物好きなイベントです。体力の有り余っている若いうちだからできる酔狂ですね。今はただの物

          何の意味もなく、死ぬほど疲れた話【エッセイ】

          ギャンブルは弱くていいです【エッセイ】

          ギャンブルが弱いです。 ギャンブルに弱い、ではなく、ギャンブルが弱い。勝てません。 競馬、パチンコ、麻雀といった、いわゆる博打だけではなく、相手と何かを賭けて勝負をするといった物事全般に弱いです。 プリンが一個残っているからみんなでジャンケンなー、というシチュエーションでも、あまり勝てた記憶はありません。 人生ゲームとか桃鉄とか、そういうボードゲームでも戦績はパッとしません。2位まではいけるんですが、どうにも1位を獲れません。 「運」とか「テクニック」の問題以前に、自分の

          ギャンブルは弱くていいです【エッセイ】

          ウィスキーを飲んでいた頃の話【エッセイ】

          最近ほどんど晩酌をしなくなりました。 タバコも吸わないし(随分前に止めた)、ギャンブルもやらないので(すごく弱い)、真っ当すぎて逆に大丈夫なのかと不安になってきます。 現在、手を付けている唯一のいかがわしいことは、こうやって夜な夜なnoteにエッセイを書いていることくらいです。 でも独身時代はよくウイスキーを買って飲んでいました。 今でもシングルモルト、特にアイラ・モルトは大好きです。「アードベッグ」とか「ボウモア」とか、ピートの強い銘柄に惹かれます。 飲み方は「トゥワイス

          ウィスキーを飲んでいた頃の話【エッセイ】

          タバコを吸っていた頃の話【エッセイ】

          タバコを吸わなくなって10年は経ったと思う。 いつ止めたのかちゃんと覚えていないんだけど、東日本大震災の時には吸っていなかったと思う。いや怪しいな。でも2012年には止めているはず。 逆にタバコを吸い始めた時ははっきり覚えています。 ぼくは大学で学生演劇を少しやっていたのですが、その公演中に吸い始めました。マチネ(昼公演)とソワレ(夜公演)の間に急いで弁当を食べるのですが、仲間から「タバコを吸うと、飯を食った腹が落ち着く」と言われて、じゃあ一本ちょうだいよってことで、喫煙生

          タバコを吸っていた頃の話【エッセイ】

          奥さんからのミッション、父娘でお出かけ【エッセイ】

          今日はじめて娘をベビーカーに乗せて遠出をしました。 遠出といっても吉祥寺まで電車で行ってきただけなんですけど。 特に吉祥寺に用事があったわけではなく、ただふらっと出かけて、ヨドバシカメラの中をうろついていただけです。 5階の家電コーナーで、冷蔵庫を見たり、空気清浄機を見たり、エアコンを見たりしていました。買う予定もなく、ただのウィンドウショッピングです。 平日の昼間なので結構空いていたんですが、そんな時間帯に中年男性がベビーカーを押して家電量販店をうろついている姿というの

          奥さんからのミッション、父娘でお出かけ【エッセイ】

          Midjourneyは生産か消費か

          先日、話題のMidjourneyを使ってみた記事を書いたのですが、その後もサブスクリプションに申し込んでAIお絵描きを楽しんでいました。 ぼくは風景写真と人物ポートレートが好きなので、適当な語句をMijourneyに入力して、あれこれ試行錯誤しながら、仕事の合間を縫って自分好みの画像を生成していました。 こんな感じ。 これはこれで面白かったんですが、延々とAIに自分好みの画像を作らせていくうちに、ちょっと変な感覚が湧き上がってきました。 何ていうか、ZOZOTOWNとか

          Midjourneyは生産か消費か

          風呂場で思考の散歩をする【エッセイ】

          シャワーを浴びながら20分程度、あれこれ考えを巡らせる時間を作っています。 時事問題だったり、読んだ本の感想だったり、小説の筋立てを考えたり。 なんだか瞑想みたいです。 でも瞑想というより、「散歩」という表現のほうが近いかもしれないです。 考えながら頭の中をぐるぐると歩いている感じ。 ひとつのトピックについて、 これは〇〇である。 ということは、□□になるのかな。 ということは、△△になりそうだぞ。 ということは、●●と結びついたら面白いな。 じゃあ結局、◆◆ということに

          風呂場で思考の散歩をする【エッセイ】

          本棚が本で埋まるわけ【エッセイ】

          本棚が完成しました。 自分で組み立てるタイプの本棚だったのですが、1ヶ月放置してやっと今日、組み立てました。 組み立てるのに要した時間は20分。 この20分に取りかかるやる気を溜めるのに1ヶ月かかったのだと思うと、自分の無精さに笑うしかないですね。 (連日の猛暑のなか、書庫にはエアコンがないので、入るのをためらっていたという別の理由もありますけど) これでやっと蔵書を回収できます。 部屋の模様替えをするために、ぼくは蔵書を段ボール詰めにして実家に送りつけていたのです。 今

          本棚が本で埋まるわけ【エッセイ】