部屋の写真【掌編小説】
彼の部屋にはおびただしい数の写真が貼られている。
本当におびただしい数だ。
貼られているというより、幾重にもかさなった写真の下に壁が塗り込められている、と言ったほうがいい。
彼は写真家を目指しているのだ。
彼には大きな情熱があった。
しかし、その情熱の器の中に才能は満たされてはいなかった。
それでも彼は毎日写真を撮って部屋に貼り続けた。
何十年かが経った。
彼は写真家にはなれなかった。
“もう終わりにしよう”
彼は部屋の壁から写真を一枚ずつはがしていった。
写真がはがされていく度に、
部屋の時間が写真一枚分ずつ巻き戻っていった。