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編集者が企画を詰めていく段階でやっていることを料理にたとえてみた

一般的に、編集者ってそもそも何をする人なのかよくわからない、という人が大半だと思います。

強いていうなら、「文章を添削する人」というイメージがあるくらいでしょうか。

赤ペンを握って、人の文章に赤字を入れる人。

最終的な成果物である本や記事などのコンテンツに、編集者としてどう関わったのか、いちばんわかりやすいのが「文章の添削」なので、「まぁ、そうですよね」と私も思います。

もちろん、見出しを調整したり、内容を整理したり、文章を磨いて伝わりやすくするのは編集者の重要な仕事のひとつです。

しかし、私はこう考えています。

編集者の仕事の半分は、実は「対話」でできている。

文章の添削よりも、重要度としては対話のほうが高いかもしれません(主に書籍など大きめのコンテンツ編集を想定して書いています)。

そのあたりをわかりやすく伝えるために、今回は企画を詰めていく段階でやっていることを料理にたとえてお伝えしてみます。


メニューと材料はこうやって決める

著者さんのお家にお呼ばれした編集者である私は、「どんな料理をつくりましょうか?」と、著者さんに声をかけます。

この時点で私は、著者さんがどんな料理をつくれる人なのか、すでにその方が発表されているメニュー(すでに世に出ているコンテンツ)をチェックして、大まかに把握している状態です。

すると、著者さんは、

「やっぱりミートソースパスタですかね。あ、カルボナーラもつくれますよ」

と、手持ちのメニューの中から「これを世に出したい」と思っているものを答えます。

しかし、それを聞いた私はこのように考えます。

「ミートソースとカルボナーラか……。すでにそのレシピは世の中に山ほどある。著者さんならではの独自性がどこかに潜んでいないかな」

そして、私は

「なるほど、そうなんですね。ちなみに材料としては何を使う予定ですか?」

と聞きます。

すると、著者さんは、冷蔵庫や戸棚の中から使う材料を取り出して、並べていきます。

その中に意外な材料があれば、すかさず「これは何ですか?」と聞いて深掘りすることもありますし、オーソドックスな材料ばかり並んでいた場合はこう聞きます。

「ちなみに冷蔵庫の中って他に何が入っていますか?  こういうものってあったりしますか?」

すると、著者さんは少し考えて、「あ、そういえば……!」と奥にあった材料を出してくれます。

「これはこの料理に使わないだろう」と思っていたものや、著者さん自身が存在を忘れていたものを含めて。

著者さんに出せる限りの素材を目に見える形で出してもらったうえで、改めて全体を俯瞰してみます。

すると、私はふと気づきます。

「著者さんは、自分のベストメニューはパスタ料理だと思っているけれど、この材料だったら煮込み料理もつくれるかも。むしろそのほうが独自性のあるおもしろいものが生まれるのでは?」

あるいは、ミートソースのつくり方を聞いてみたら、意外なこだわりをたくさん持っていたり、信じられないほど多くのバリエーションのミートソースがつくれる人だったりする場合もあるでしょう。

「そもそも、なぜパスタ料理ばかりつくっているんですか?」

と聞いてみたら、著者さんの意外なこだわりや、こだわりを持つに至った過去の経験を掘り出せることもあるかもしれません。

こうやって対話による深掘りをしていると、最終的につくる料理が変わってきたりするんですよね。

イタリアンをつくる予定が和食になったり、同じパスタでも意外な材料を使ったオリジナルパスタになったり。

深いところにあるコンテンツは「対話」で引き出す

著者さんの深いところにあるコンテンツは、メールやチャットでやりとりしていても、なかなか出てきません。

対話を重ねていくことで、やっと表に出てきます(対話はリアルでも、オンラインでもOK)。

もちろんテキストでのやりとりが対話と同じくらい効果的な方も、中にはいらっしゃいます(ハイブリッド型)。

しかし、私の体感ですが、まだ固まっていない考えは、書くよりも話すほうが表現しやすい方が大半です。

特に企画を立ち上げる段階においては、テキストでのやりとりは、あくまで補足的なものと考えておいたほうがよさそうです。

著者さんの奥に眠っているものを引き出したり、深掘りしたりするときは、やっぱり「対話」が強い。

最終的にでき上がるものがまったく違うものになるくらい「対話」の影響力は大きいと感じています。

また「誰が」その対話をするかによっても、最終形は違ってくると思います(編集者の個性や問題意識、あり方が影響を与える)。

編集者の仕事としてイメージしやすい「文章添削」の部分は、料理でいうならば「この材料を増やしましょう」とか「この調味料を減らしましょう」といった料理の後工程の部分です。

もちろんそういった微調整をすることも重要ですが、

☑️そもそもどういう料理をつくるか
☑️その料理のどの部分を打ち出せば、他にはない独自性をアピールできるのか

といったテーマや切り口の設定は、材料や調味料の増減をしたところで大きく変えることはできません。

パスタをつくっている途中で肉じゃがにメニュー変更することができないのと同じです。

もちろん「対話」は企画の立ち上げ期だけでなく、実際にコンテンツをつくっている最中にも重要な役割を果たします。

最初に決めたレシピから変更を加えたほうがおいしい料理ができそうだとわかったら、

「何をどれくらい変更するべきか」
「どの部分を切り取って、どう説明するとよりわかりやすいか」

といった部分は、対話によって落としどころを見つけます。

編集者が編集しているのは、文章だけではありません。

文章が生まれる前のコンセプトの部分、著者さんが文章を書くときの思考、心構えの部分も対話によって編集しているわけです(あくまで主体は著者さんです。編集者はアレンジしかできません)。

そして、その編集作業が、実はコンテンツづくりの土台であり、最重要ポイントでもある。

そんなことに最近やっと気づいたよ!というお話でした。

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