できる仕事って時代の流れにかなり左右されるよね、という話
私は海外に家族で引っ越すにあたり、それまで勤めていた出版社をやめました。
当時は、毎日身体を会社に運ばなければならないという縛りがあったので、
日本を出る=会社員ではいられない
という世界でした。
書籍の編集をやめていた理由
会社をやめるという決断をして海外に渡ってからも、ありがたいことにかつての同僚で、別の版元に転職した編集者の方たちから
「書籍を企画してみないか」
「部分的に編集の仕事を請けてみないか」
と連絡をもらったりしました。
しかし当時の私は、次の2つの理由から、海外から遠隔で書籍をつくる仕事はしないという決断をしました。
特に私の中で大きかったのは①です。
書籍のように、ある程度文字量があってコンセプト設計が重要な編集作業は、要所要所で著者さんとじっくり話し合って、意見をすり合わせる必要があります。
意見が食い違ってしまったとき。
著者さんが行き詰まって筆が止まってしまったとき。
そういうときはできる限り会って、直接話すようにしていました。
電話でも言葉を交わすことはできるのですが、やっぱり話しているときの表情や雰囲気から受け取れるものってあるんですよね。
込み入った話をするときほど、顔を見て話したほうがいい。
経験上、そう感じていました。
しかも書籍って、編集者の突撃メールから始まって、「はじめまして」から打ち合わせを重ね、信頼関係を築きながらつくっていくもの。
だからこそ、特に今まで仕事をご一緒したことのない著者さんと一度も顔を合わせずに、遠隔で本づくりを進めるのはちょっと厳しいのではないか……。そう思ったわけです。
コロナ禍になってからの変化
当時は子どもたちも小さく、住んでいた国(香港)には、日本の保育園のように長時間預かってくれる施設がなかったので、大きな仕事をお請けするのは難しい面もありました。
そのため、自分のできる範囲で細々と編集の仕事をつづけていました(長い暗黒期……)。
そんなこんなしているうちに、世の中はコロナ禍へと突入。
多くの人が当たり前のようにチャットツールやZoomを使うようになり、離れた場所にいてもオンラインでコミュニケーションが取りやすくなりました。
これは私にとって、とても大きな変化でした!
時代による環境の変化、ご縁やタイミングも重なり、長いブランク期間を経て、書籍の編集をさせていただく機会もちょこちょこ得られるようになりました(ありがたいことです)。
②の「書店で売れ筋の本をチェックできない」は、いまだネックではありますが、一時帰国時に書店を回って傾向をつかむようにしたり、ネットで情報を収集するようにしたり(情報がどんどん増えている)。
会社の昼休みに書店に行っていた日々(ああ、懐かしい……)には及びませんが、業界の空気をなるべくキャッチするよう心がけています。
つまり、私は書籍編集において
が大事だと思っているということですね。
ちなみにオンラインミーティングが普通となり、コロナ禍が明けてしばらく経った現在は、再度遠隔ならではの限界を感じ始めています。
何もないところからの企画立案、何も関係性がないところからの著者さんとの関係構築は、なかなかハードルが高いな……と感じているところです。
「なんでわざわざ海外にいる編集者と?」を乗り越えるくらいの強い「何か」がない限り、日本にいる編集者と仕事したほうが断然やりやすいですから。
できることは限られますが、「今の状況でもできること」「制限があるからこそできること」を考えて、自分なりのチャレンジをしていきたいです。