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『ウンチ化石学入門』 | Book review 1

なかなかインパクトのあるタイトルだ。
帰宅する車の中で、運転席の夫に今日買った本として報告したところ、後部座席から子どもが「ウンチの話?」と割り込んでくるくらいには強烈だ。私の手元にある本書には幅広の帯がついていて、誰でも知っているスター恐竜のウンチの写真がどどんと印刷されている。これまたインパクトが大きい。
ところがどっこい、本書の内容はこの帯からイメージするものとは少し違っている。

著者の専門は「海棲無脊椎動物のウンチ化石」である。ご本人曰く、「地味な生痕化石、地味なウンチ化石の中でもさらに地味なほう」である。本書でも、著者ご本人の研究分野に関する知識が大いに発揮され、時に熱く、時に脱線しながら(?)ウンチ化石を含む生痕化石(足跡や糞、巣穴など生き物本体ではなく本体が残した跡の化石)の研究あれこれや、ウンチ化石に含まれる化石たちの話などが展開されていく。
本書は"華々しい恐竜のウンチ化石"をメインテーマに据えてはいない。第三章で恐竜と首長竜のウンチを取り上げてはいるものの、恐竜がメインの本ではない。

「ウンチが化石になるだって?」という疑問を入り口に、生き物が残した生き様の化石ともいえる生痕化石の魅力を語り、そうした生痕化石を研究するとはどういうことか、生痕化石の研究者はどんなことをしているのかといった話に広がっていく。「ウンチ化石(をフックにした生痕化石)学入門」の書だ。

化石、特に生痕化石を理解するためには、今生きている生物も理解しなくてはいけない。ウンチの化石を見つけて、一体それがどのくらいの体長のどんな生き物のウンチなのかを知るには、今生きている生物とウンチの関係を知ることも大切だ。そこで、著者は学生や共同研究者と動物園でウンチのサイズ計測をしている。ウンチ化石のために、ゾウやキリンの糞についても調べているわけだ。一読者として、こうした研究者の着眼点や地道な作業を間近に感じられるところが、本書の一番の魅力だと思う。

第六章では「自分のウンチを生痕化石として残すには」「生痕化石を実際に探してみよう」といった興味深いトピックも多々登場する。

一つだけ残念な点を挙げるとしたら、写真の理解がやや難しいところだ。地層や切片の中の生痕化石は、白黒写真から読み解くことが難しいものも多い。スケッチを併用してもらえたら、首を傾げながら写真を睨め付ける時間がだいぶ減るのではないかと思う。

前述の通り、本書には華々しい恐竜の話はほとんど登場しない。恐竜のウンチのことが知りたくてたまらない読者なら、肩透かしを食らった気分になるかもしれない。一方で、化石研究者とは何を知ろうとして何を調べているのか? どうやったら(生痕)化石研究者になれるのか? ウンチの化石から一体何がわかるのか? といった興味をもつ人には良い入門書だ。
気になる章やコラムから読んでも楽しめる。電車で読むにはカバーか勇気が必要そうだが、ちょっとした移動や隙間時間でも読めるのでぜひ “とりわけ地味なほうの” 生痕化石研究の世界を覗いてみてほしい。


【紹介した本】
『ウンチ化石学入門』
著者:泉 賢太郎
出版社:集英社インターナショナル
Amazonへのリンクは上部の本文中にあります。

※ この note では、Amazonのアソシエイトのリンクを貼っています。

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