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映画感想文「侍タイムスリッパー」舞台は幕末、コメディの中に混じる心打つセリフに泣ける

知ってる俳優はひとりもいなかった。

演技もところどころベタだった。それでも時折涙ぐみそうになる題材選びとストーリーの素晴らしさよ。

昨年8月に池袋シネマ・ロサのみ単館上映。それが評判を呼びいま、TOHOシネマズ、新宿ピカデリーなどで上映中。舞台は日本人の好きな幕末。多くの人に見て欲しい快作。

幕末の京都。会津藩に数千人の死者を出した戊辰戦争の少し前の時代。幕府側の会津藩士の武士、高坂新左衛門は家老から、ある長州藩士を討つように命を受ける。

その男を襲い、刀を交えた激戦の最中、激しい光と共に落雷。気を失った新左衛門が目覚めたのは現代の日本。京都にある、時代劇の撮影所であった。

何の疑問も持たず武士として懸命に生きてきた新左衛門。幕府のために藩のために仲間と働くことが生き甲斐だった。自らが人生を賭けてきた江戸幕府。それが、140年も前に滅びたことを知り、我を失う。

それでも次第に彼は悟っていく。貧しい島国であったいまや日本が良い国になっていることを。

そして周囲にも助けられ、過去に自分が磨いてきた剣の腕で、少しずつゆっくりではあるがこの場所で新たな人生をみつけていく。更に意志の力で過去の怨念とも決着をつけていく。そんな新左衛門の姿が非常に清々しく心を揺さぶる。

コメディタッチのなか、琴線に触れるセリフが時折混じる。これが良い。

そして何より、人はいつからでも変われる。それは決して自分を失うことではない。自分らしさを持ったまま、バージョンアップしていくってことだ。そんな思いを新たにする本作。

主人公の新左衛門を演じた山口馬木也、撮影所の助監督役の沙倉ゆうの、この2人がとびきりに良かった。何しろ読後感が爽やかでおすすめ。

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