映画感想文「本日公休」監督が母をモデルに描いた、ある女性の人生。昭和の世界がここにある
時々、思うのだ。
もしかして美容師さんが私をいちばん理解しているのかも、と。
何年も同じ人に髪を切ってもらってる。1-2ヶ月に一度通ってる。毎回、最近どうですかと近況を聞かれ、徒然に応える。その繰り返しが何年も続いてる。
それはもう、誰よりも私の歴史を知っているのではないか。正にそんな美容師さん、ならぬ、理髪師さん、のお話。
派手なアクションはない。ドラマティックなどんでん返しもない。静かに淡々と市井の人々の人生を描く台湾映画。
それでも心にじわじわと沁みる温かさ。まるで三丁目の夕日みたいな、昭和感溢れるあったかい物語だ。
台中の小さな街にある理髪店。昔ながらのレトロな構え。3人の子供を女手一つで育ててきたアールイが、ひとりで切り盛りしている。
40年営業を続け、仕事に誇りを持っているアールイ。客の好みを知り尽くし、丁寧で手を抜かない仕事ぶりに常連客も多い。長年通うなじみ客とは、もはや仕事を超えて信頼関係で結ばれている。
だから、時には回収できる以上のサービスをすることもある。それが回り回って返ってくると言う彼女。しかし、目先の利益に拘る子供達世代には理解されない。
お母さん、そんな割の合わない仕事していつまでやってるの?と口々に言う。そんな母の仕事ぶりのおかげで成人したというのに。若さゆえのそんな見えてなさが腹立たしいやらため息が出る。
でも子供達のことはさておき、どうでも良い。ともかくこのアールイが素晴らしい。子供達の横槍も受け流し独自の道を行く(本人がそうなんだから、外野が気を揉むことではないのだ)。
自分の美学を貫き、仕事に真摯で真っ直ぐ取り組む。とても清々しい。この年齢(推定年齢60-65歳くらいか)になると、引退世代も多いのに、まだまだ役割があると誰にも甘えず自分の生活も楽しみながらイキイキ働く姿が美しい。
こんなシニアになりたいと思うお話しだった。どうやら監督が自らの母をモデルに描いた作品だと言う。これ以上の親孝行があるだろうか。子供が母の人生を肯定する映画を作る。これ以上の親孝行があるだろうか。
最後にその点にもジワリとさせられた作品である。