続きが気になる!『ハリー・ポッターと賢者の石』まるまる一冊 音読した話
あぁ、のどがヒリヒリする。
ヒンヤリとし始めた空気をゴクリと飲み込んで、
もう一度確かめる。
やっぱり。
このご時世、これは良くない。
プロポリス入りの蜂蜜のど飴を舐める。
口の中にまったりと甘さが広がる。少し遅れて、プロポリス特有のピリピリを舌に感じる。
この「効いてる」感じが好きで、お守り代わりに持ち歩いている。実際効くのかは、分からないけど。
のどに負担がかかった原因は、分かっている。
のど飴を、口の中で転がしながら、
娘との夕方のやりとりに思いを馳せた。
「ちょ、ちょっと、一回休ませてくれない?」
「ダメー!良いところだから読んで!」
娘が言う。
「じゃあ、この章が終わるまでね」
たしかに良いところだ。
私が折れる。続きを読む。
「”二人は透明マントを棟のてっぺんに忘れてきてしまっていた。”
・・・はい、ここまでね?」
「えーえー!気になる!読んで読んでっ!!!!」
2歳児のように、床に寝転んで足をバタバタさせる。
気になるよね。分かるよ。普段なら、
「ここまでって約束でしょ」で強制終了するのだけれど、この本、とにかく面白い。何を隠そう、私も続きが気になる。
「じゃ、じゃあ、次のキリのいいところまでね」
娘はコクコクうなずく。とにかく、早く読めといった様子。
「はいはい。
”第15章 禁じられた森。最悪の事態になった。・・・”」
ひと月ほど前。
実家の母から連絡があった。
「本の整理をしているのだけど、南天が子供の頃読んでいた『ハリー・ポッター』シリーズ、読む??読まないなら、古本に出しちゃおうと思うんだ」
私は食い気味に答えた。
「読む読む読む!!!
娘も少ししたら、読むかもしれないし」
「じゃあ送るね。あと、他にも読みそうなの入れておくわ」
その後、
実家から送られてきたのは、小さい段ボール1つ。
けれど、百戦錬磨の宅配の方も、ちょっと体制を崩すほど、
見た目に比して重かった。
箱の中身は、
第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』
第2巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
第3巻『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』
第4巻『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』
第5巻『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
第6巻『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
第7巻『ハリー・ポッターと死の秘宝』
それから、『指輪物語』の全7巻。
いずれもハードカバーで1冊400ページ前後。そりゃ重い。
しかし、題名を眺めているだけでも、ワクワクしてくる。
賢者の石に、秘密の部屋に、囚人に・・・。
抑えきれずに開いてみる。
ほとんどの漢字にはふりがなが打ってあるけれど、小学校3年生くらいまでの漢字には打っていない。小1の娘には、まだ少し早いかな。
一人では読めそうにない。
けれど、見ていると、
物語に夢中になってページを繰っていた、
20年以上前の自分を思い出し、懐かしくなる。
あらすじはなんとなく覚えているんだけれど、
細かい部分は、記憶のかなた。
映画は見ていないクチだから、
読んだ時から記憶が補強されていない。
あー、今すぐ読みたいな。
私は、送られてきた中の1冊を手に、娘を呼ぶ。
「娘、娘。
ばーばが送ってきてくれた本だよ。
お母さんが昔読んでたの。」
「なんていう本?」
「『ハリー・ポッターと賢者の石』。魔法使いのお話だよ。
ちょっと、娘にはまだ漢字があって難しいかもしれないけど、せっかくだし、初めの方だけ、読み聞かせてあげるよ」
自分が読みたい、とはなんとなく言えなくて、
返事も待たずに、読み始めた。
音読というのは面白い。
細かい情景が、浮かび上がってくる。
昔読んだときは、難しい漢字や言葉は流して、
読み飛ばしていたのかもしれない。
情景はもっとにじんでいた。
あの時は、とにかく話の筋が面白くて、先が気になって仕方なかったから。
読み聞かせていると、一言一言ゆっくり話すせいか、
部屋に置かれている魔法の道具1つ1つ、
不思議な生き物の表情、
建物の彫刻の彫りの影まで、見えるみたいだ。
楽しい。
しかし、だんだんのどが枯れてくる。
音読の難点は、ここだ。
一日中読み続けることはできない。
「今日はここまで」
と言いたいけれど、上述のとおり、
それを許さない娘。
わかるよ。ずーーーっと切れ目なく面白いもんね。
だいたいの本には中だるみかな?みたいなところがあるもんだけれど、
ハリーポッターにはそれがない。
ちょっとこのへんで休憩するか、みたいなところが一か所もない。
私も新刊が出ると、一日中読んでいた。
私の声帯と、娘の駄々っ子になる気持ちが分かる私、
とのせめぎ合い。
その末の、のどのヒリヒリ。仕方ないな。
のど飴とお友達の日が続いて、
なんと、私は、あの分厚い『ハリー・ポッターと賢者の石』をまるまる一冊読み終えた。音読でだ。
はじめ少しだけ、と思って読み始めたし、全部終わる日が来るなんて予想もしていなかったけれど。
私やったよ!達成感半端ない!!!
いやぁ、それにしても面白かったなぁ。
軽く浸っている母に向かって、娘は言う。
「お母さん、次はこれ読んで」
娘の手に抱えられていたのは、言うまでもない。
第2巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』。
1巻に負けず劣らずの分厚さに、めまいがした。
容赦ないぜ。娘。