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教育に興味が持てなかった私と、ピアノを習いたい娘

子供の教育には、関心のないママだった。

「こうなってほしい」みたいな期待を、
ほとんど子供に持ったことがなかった。

「子供の頃は、自由に遊んだら良い」
というと何やら聞こえはいいが、
私は私のことで、いっぱいいっぱいだったのだ。

その日の仕事と、
その日の家事と、
その日子供が食べて風呂に入って寝付くこと。

それだけで、わたしの小さな器は表面張力ぎりぎりだった。しっかり手元を見て器を押さえていないと、溢れてしまうと思っていた。

子供が大きくなったらどんな風になってほしいなんて、そんな先のことまで考える余裕はなかった。


同じ頃に子供を産んだ、職場の先輩は、
子供が3歳から毎日チャレンジのドリルをさせていた。
そして、年中さんになると、
スイミングと体操に通わせるようになった。

私はそれを聞いて、ひぇーと思った。思ったことはすぐに口をつくので、先輩本人にも言った。

「この仕事をして家に帰って、子供にドリルを解かせる気力も時間もない。
さらに休み2日間を子供の習い事に割くなんて、信じられない」と。

先輩は、
「私は趣味もないし、超インドアだし。
 だけど、パワーはいくらでもあるからね。」
と、笑った。

そのパワフルさが羨ましかった。



年中さんを境に、
同じように仕事をしているママパパを持つ保育園の子供たちも、1つ2つ習い事をするようになっていった。

そんなある日、娘は言った。

「わたしも、何か習いたい」




私は、おののいた。
そういうパターンもあるのか、と。

習い事って、何かしら親から子へのはたらきかけにより始まるものだと思っていたのに、
娘は娘からやりたいと言ってきた。



「お父さんもお母さんもお仕事があるから、行くなら、お休みの日になるよ?」
「うん、それでいい」
「今までみたいに、自由に本を読んだり、遊べなくなるよ?」
「分かってる」



意思は固いようだ。
私から何かさせようとは、
髪の毛一本分も思っていなかったのだけれど、
娘発信となると、無視できない。

私が私の人生を見つめて、

「子供の習い事に、休日を割くなんてまっぴらだ!」

と思っていたのと同じように、
娘は娘の人生を見つめて、

「習い事って楽しそうだし、やってみたい。
 そのためなら、休日を割いても構わない」

と思ったのだろうから。



それに、
「子供の頃は、自由に遊んだら良い。」と思っていたけれど、
きっと、この子にとっては習い事も、
「自由に遊ぶ」のうちの一つ
だったんだと思う。



貴重な休日の使い方について、
親だから優、子だから劣という差はない。

私の都合で、娘の願いや可能性を潰すことは、
出来るだけしたくなかった。

そして、自分が幼い頃のことを思い起こし、
何か1つくらいは。と覚悟を決め、聞いた。


「習いたいものは何?」

「保育園の先生が弾いてる、ピアノ。“小さな世界”が弾けるようになりたい」 



そうきたか。
ピアノって毎日練習がいるやつや。
1日練習しないと、3日分、弾けなくなるやつや。
未就学児は、親も一緒にレッスンに出ないといけないやつや。

私も3歳から、10年ほどピアノを習っていた。

最後の2年くらいは、練習が嫌で仕方なかった。
10年弾いても、私にはほとんど何も残らなかったと思っていた。今、そらで弾ける曲は、何もなかったから。



けれど、「保育園の先生みたいに弾けるようになりたい」という、なんとも可愛らしい娘の思いを叶えてあげたかった。
私と娘は、別人格だ。

かくして、娘はピアノを習い始めた。





✴︎
レッスンは、親一人子一人のペアで8組ほどが参加するグループレッスンだった。

その時間は、娘と二人。
息子も、夫もいない。

娘のことを、久しぶりによく見た。

あ、初めての場所だとそんな風に恥ずかしがるのね。
あ、初めて聞いた曲は、先生に「歌いましょう」と言われても、テコでも歌わないのね。
あ、でもめっちゃ家では練習するのね。
完璧にできないことは、人前ではやらずに、見えないところで練習するタイプなのね。

保育園の先生づてに聞く印象とは、また違った。
赤ちゃんではなくなった、社会の中での娘の姿。

小学校に入る前のこの頃に、
じっくり見守ることができたのは、
本当に幸せだったと、振り返って思う。





それに他にも、
習い事から得るものは、
想像していた以上に沢山あった。
やってみて初めて気づいたのだけれど。




保育園と家庭の他にも、
世界があると、娘が知れたこと。


上手に弾けない悔しさ。

弾けなかった曲が、
練習することによってだんたん弾けるようになり、
最後には先生に花丸をもらえるという達成感。


毎日、椅子に座って練習する習慣。
小学校に入ってから、毎日する宿題に繋がったと思う。

姿勢の良さ。

発表会でお客さんの前で、一人で弾くという緊張感と、それに立ち向かう度胸。



将来の役に立つか、
職業に直結するか、
と言う視点で、習い事の要否を考えていた気もする。けれど、直結しなくても、
娘が得たものはこんなにあったんだ。


これは娘の例だけれど、
その子によって、習い事によって、
きっと得るものは違うのでしょう。



私のように、
子供に習い事をさせるか迷っている方がいたら、
もしも時間と経済と体力が許すのなら、
(何事もムリは禁物です。)
させてみると、見えることはきっとあります。

子供たちは、何かしら自分で学びとり、私たち親に「ほらっ」と広げて並べて、見せてくれると思います。
とても誇らしげな笑顔で。





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せやま南天
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