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道路交通法 違反点数の算出方法

道路交通法の違反点数の算出方法をまとめてみた。

ある妨害運転事案の解説Youtube動画で、行政処分の判断に用いられる違反点数の算出に関する説明に疑問を感じた。調べたところ、適切でない解説だと感じた。そこで、この点をまとめることとした。

以下のつぶやきの掘り下げでもある。

以下、道路交通法を単に法、道路交通法施行令を単に令と略記する。

なお、交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介書籍、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。

(2024/09/10)
良書『
点数制度の実務 九訂版』を入手したため、瞬間的同時違反の誤りを訂正した。


記事の範囲

単一の違反行為における違反点数の算出方法を中心としている。つまり累積点数やそれに伴う行政処分は、今回の記事には含んでいない。ただし、交通事故と救護義務違反がどのように扱われるかという点は記している。

個人的に、累積点数やそれに伴う行政処分にはそれほど強い関心がない。とはいえ、交通違反はともかく、交通事故は誰しもが起こし得るものであり、誰の身にも起こり得るもの。交通事故に伴う違反点数の算出方法となれば関心事である。

妨害運転事案

問題とする解説動画、そこで解説されていた妨害運転とは、以下の報道に関するもの。

後続バスに煽られたと誤解した者による、バス運転者への傷害容疑、それに先立つバス前方での停止に伴う道路交通法違反容疑である。

問題と感じた解説内容

どこに公開されている解説動画かということには触れない。その解説動画では主に、道路交通法違反が妨害運転に抵触することを前提に、妨害運転の処罰規定を中心とする解説動画となっていた。

疑問に感じた解説部分のうち、このnote記事に関わる部分がどこかといえば、行政処分に係る違反点数と傷害事件の関係である。煽り運転停車後の傷害事件が、違反点数における付加点数となるのかというもの。

解説では「ここの部分(傷害事件)は(付加点数に)該当しないのではないか」と、明言を避ける形で説明し、「(付加点数に)該当するとすると」と該当する想定での違反点数の算定を行っていた。

こんなものは該当しないのが当然である。それを該当しないと明言できない点に、適切でない解説だと感じた。

以降、違反点数の算出方法を説明し、なぜ「該当しないのが当然」と言えるのか、その点を説明する。

違反点数の算出方法

条文

違反点数の算出方法の定めは、令別表二の備考に規定されている。
これだけでは読み解きにくいものの、解釈の基本はここに立ち返る必要がある。

一 違反行為に付する点数は、次に定めるところによる。
1 一の表又は二の表の上欄に掲げる違反行為の種別に応じ、これらの表の下欄に掲げる点数とする。この場合において、同時に二以上の種別の違反行為に当たるときは、これらの違反行為の点数のうち最も高い点数(同じ点数のときは、その点数)によるものとする。
2 当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)には、次に定めるところによる。
(イ) 1による点数に、三の表の区分に応じ同表の中欄又は下欄に掲げる点数を加えた点数とする。ただし、当該交通事故が建造物以外の物の損壊のみに係るものであるときは、1による点数とする。
(ロ) 法第百十七条の五第一項第一号の罪に当たる行為をしたときは、(イ)による点数に、五点を加えた点数とする。
3 二の119から128までに規定する行為をした場合において、法第百十七条の五第一項第一号の罪に当たる行為をしたときは、1による点数に、五点を加えた点数とする。

道路交通法施行令 別表二 備考一

点数算出の基本構造

条文だけでは分かりにくいかもしれない。上記の条文を図にすると、以下の構造となる。

違反点数の基本構造

上図に示されている「悪質なもの」「極悪なもの」「極悪でないもの」は当方で説明のためにつけた呼称である。正式な用語ではない。

一般違反行為と特定違反行為は、排他的、択一的である。条文との対応では、一の表に含まれるものが一般違反行為、二の表に含まれるものが特定違反行為である。

特定違反行為は悪質・危険な違反行為を指すものである。そのうち、とくに悪質性の高いものは、付加点数の算出で別扱いとなっている。ここではそれらを「極悪なもの」と呼んで区別することとした。条文との対応では、「二の119から128までに規定する行為」という部分を「極悪なもの」と呼んでいる。

これら分類のうえで、上図左の基礎点数、そして事故の場合に上図右の付加点数を合計したものが最終的な算出結果となる。

違反行為名と道路交通法の条項の対応

前節で「一の表に含まれるものが一般違反行為、二の表に含まれるものが特定違反行為である」と記した。表の中には違反名称が記されている。このそれぞれの違反名称が道路交通法の何条違反であるかは、表の下にある「備考二」に記されている。

たとえば、一の表に含まれる「指定場所一時不停止等」であれば、備考二の46に、以下のように記されている。これにより、道路交通法43条違反だと分かる。

二 一の表及び二の表の上欄に掲げる用語の意味は、それぞれ次に定めるところによる。
46 「指定場所一時不停止等」とは、法第四十三条の規定の違反となるような行為をいう。

道路交通法施行令 別表二 備考二

瞬間的同時違反

二つ以上の違反を同時に行うと、それらのうち最も点数の高い違反に基づいて違反点数が算出される。これは条文の以下の部分に基づく。

一 違反行為に付する点数は、次に定めるところによる。
1 一の表又は二の表の上欄に掲げる違反行為の種別に応じ、これらの表の下欄に掲げる点数とする。この場合において、同時に二以上の種別の違反行為に当たるときは、これらの違反行為の点数のうち最も高い点数(同じ点数のときは、その点数)によるものとする

道路交通法施行令 別表二 備考一

世間では瞬間的同時違反と呼ばれているらしい。ただ、公的な機関等でこのように呼んでいるところを見たことはない。

(2024/09/10追記)
書籍『点数制度の実務』にこの点が詳しく解説されていた。

 「同時に」とは、厳密な意味での時間的な同一性が要求されるものではなく、時間的、場所的に近接していて、しかも自動車等の運転の実態からみて、社会通念上、同一人の人格的態度の発現と見られる違反行為を連続して行った場合は、「同時に2以上の違反行為をした」場合に該当する。

点数制度の実務』p.75

点的な違反と線的な違反、たとえば、信号無視と無免許運転のようなものでも、「同時に」と扱われることが例示されている。ただし救護義務違反は、時間的、場所的に近接していても、別と扱われるようだ。この点は後述する。

(2024/09/10削除)
ネット情報を見ると、観念的競合と同様の扱いをしているように見える。つまり点的な違反同士、線的な違反同士は、違反のタイミングが重なり合う限り、それらのうち点数の高いものを用いるようだ。おそらく、それらのうち、重なり合う点的な違反同士を瞬間的同時違反と呼んでいるように見える。
観念的競合は別の記事にまとめてあるので、参考まで。

違反の分類

前項で、違反の種類に応じて算出の扱いが若干変わることを説明した。図を再掲する。

違反点数の基本構造

上図のとおり、違反の種類は大きく以下の3種に分けられる。

① 一般違反行為(一の表)
② 特定違反行為(悪質なもの)(二の表、119~128以外)
③ 特定違反行為(極悪なもの)(二の表、119~128)

この分類をそれぞれ説明する。説明の都合上、③②①の順に説明する。

◆③ 特定違反行為(極悪なもの)

③は、以下の違反に限定される。
括弧内は、令別表二備考二の用語に付された番号を意味する。

運転殺人等(119)
運転傷害等(121、123、125、127)
危険運転致死(120)
危険運転致傷等(122、124、126、128)

③ 特定違反行為(二の表、極悪なもの=119~128)

「運転殺人等」「運転傷害等」は故意による死傷行為をいう。

「危険運転致死傷等」は故意犯に準ずる行為として規定された危険運転致死傷罪の2条~4条をいう。

つまり、車を用いた故意の死傷行為、それに準ずる故意性を持つ危険運転行為による死傷行為、これらが③に分類されている。

条文を読む限り、「車を用いた故意の死傷行為」を事故とは表現したくない意思が感じられるところ、この記事では区別せずに事故に含めて表現している。

「運転傷害等」「危険運転致傷等」には複数の番号が割り当てられている。これは、傷害程度によって細分化されているためである。以下の4種に分類されている。

加療3か月以上 あるいは 後遺症あり
加療30日以上
加療15日以上
加療15日未満 あるいは 建造物損壊

上記分類にあるとおり、故意による建造物損壊も、「運転殺人等」「運転傷害等」として扱われる。死傷者がいる場合は「運転殺人等」「運転傷害等」、つまり故意による死傷と同等に扱われる。死傷者がいない場合は、「運転傷害等」の一番軽微なもの、「運転傷害等(治療期間十五日未満又は建造物損壊)」で扱われる。

◆② 特定違反行為(悪質なもの)

②は、以下の違反に限定される。

酒酔い運転(129)
麻薬等運転(130)
妨害運転(著しい交通の危険)(131)
救護義務違反(132)

③ 特定違反行為(二の表、悪質なもの=119~128以外)

③にあるような人身加害や建造物損壊の故意は認められないものの、他の違反に比べて悪質と扱われるものが、②に分類される。

なお、上記のうち救護義務違反以外の3つは、人身事故となれば危険運転致死傷罪に問われる可能性が高いと思う。死傷行為との間に因果関係が認められるかによる。危険運転致死傷罪となれば、扱いは②ではなく③である。そのため、②と扱われる場合の多くは、人身事故を起こしていない場合に限られるものと思う。

129 「酒酔い運転」とは、法第百十七条の二第一項第一号の罪に当たる行為(自動車等の運転に関し行われたものに限る。)をいう。
130 「麻薬等運転」とは、法第百十七条の二第一項第三号の罪に当たる行為(自動車等の運転に関し行われたものに限る。)をいう。
131 「妨害運転(著しい交通の危険)」とは、法第百十七条の二第一項第四号の罪に当たる行為(自動車等の運転に関し行われたものに限る。)をいう。

道路交通法施行令 別表二 備考二

第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
三 第六十六条(過労運転等の禁止)の規定に違反した者(麻薬、大麻、あへん、覚醒剤又は毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号)第三条の三の規定に基づく政令で定める物の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転した者に限る。)
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた

道路交通法117条の2第1項 1号、3号、4号

◆① 一般違反行為

上記②③以外の違反は、一般違反行為と扱われる。大多数の違反は一般違反行為と扱われる。交通事故の原因となる安全運転義務違反などもこれに含まれる。

②のところで触れた点と同様、①の違反の一部には、人身事故となれば危険運転致死傷罪に問われるものがある。危険運転致死傷罪となれば、扱いは③である。「速度超過」「無免許運転」「信号無視」「通行禁止違反」にはその可能性がある。

「速度超過」は場合によっては高速度類型の危険運転、
「無免許運転」は場合によっては無技能類型の危険運転、
「信号無視」は殊更赤信号無視類型の危険運転、
「通行禁止違反」は通行禁止道路類型の危険運転、
それぞれ危険運転致死傷罪となり得る。

基礎点数

すでに説明したとおり、基礎点数は条文1により、一般違反行為あるいは特定違反行為に基づいて決定される。

違反点数の基本構造

1 一の表又は二の表の上欄に掲げる違反行為の種別に応じ、これらの表の下欄に掲げる点数とする。この場合において、同時に二以上の種別の違反行為に当たるときは、これらの違反行為の点数のうち最も高い点数(同じ点数のときは、その点数)によるものとする。

道路交通法施行令 別表二 備考一

一般違反行為の基礎点数は、多くは違反行為それぞれで点数が定まる。酒気帯びと速度超過は例外的である。酒気帯びは血中濃度によって、速度超過は超過速度によって、それぞれ細分化されている。

特定違反行為の基礎点数は、以下のように分かれている。

極悪なもの
 殺人/致死 → 一番重い扱い
 傷害/致傷 → 加療期間と後遺症の有無によって細分化
 建造物損壊 → 傷害/致傷の一番軽い扱いと同等
極悪でないもの
 一般違反行為同様、違反行為によって決定
 ただし現状は一律同じ点数

一般違反行為は25点以下、特定違反行為は35点以上となっている。多くのありがちな違反は一般違反行為であり、3点以下となっている。一発免停の6点に達しない最高点数は3点であり、一発免停に到達しないからありがちな違反になるともいえる。

付加点数:交通事故

付加点数は、基礎点数に加算される点数を指す。付加点数として加算される点数には大きく2種類ある。その一方は、交通事故を起こしたことに対して加算されるものである。

2 当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)には、次に定めるところによる。
(イ) 1による点数に、三の表の区分に応じ同表の中欄又は下欄に掲げる点数を加えた点数とする。ただし、当該交通事故が建造物以外の物の損壊のみに係るものであるときは、1による点数とする。

道路交通法施行令 別表二 備考一

上の条文を読み解くと、付加点数は「交通事故の加害程度」「交通事故の主要因となる運転者か」の2つの指標で決定される。「交通事故の加害程度」で下記に従って分類し、三の表を参照する際に「交通事故の加害程度」「交通事故の主要因となる運転者か」に従って表にあてはめる。

交通事故(極悪でないもの)
 建造物損壊を伴わない物損事故
  →0点(条文2(イ)但書)
 建造物損壊を伴う物損事故
  →条文2(イ)、最も軽微な扱いで三の表にあてはめる
 人身事故
  →条文2(イ)、死傷程度などに応じて三の表にあてはめる
交通事故(極悪なもの)
 →なし

三の表は、「交通事故の主要因となる運転者か」により、適用される点数が変わってくる。表に記された表現では「専ら当該違反行為をした者の不注意によつて発生したものである場合」かによって変わってくる。

道路交通法施行令 別表二 三の表より

「交通事故(極悪なもの)」には、この種の付加点数はない。これは、「特定違反行為(極悪なもの)」の基礎点数には、交通事故の付加点数分が織り込み済みであるため。基礎点数を42をとして一般違反行為と同じ計算を行えば、「特定違反行為(極悪なもの)」の基礎点数と一致する。

道路交通法施行令 別表二 二の表と三の表の関係性

付加点数:救護義務違反(物損事故等)

付加点数は、基礎点数に加算される点数を指す。付加点数として加算される点数には大きく2種類ある。前記、交通事故を起こしたことによるもの以外に、救護義務違反(物損事故等)によるものがある。

この部分に対する算出方法は、交通事故のうち、「極悪でないもの」「極悪なもの」を問わず共通となっており、付加点数は一律5点である。

2 当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)には、次に定めるところによる。
(イ) ……
(ロ) 法第百十七条の五第一項第一号の罪に当たる行為をしたときは、(イ)による点数に、五点を加えた点数とする。
3 二の119から128までに規定する行為をした場合において、法第百十七条の五第一項第一号の罪に当たる行為をしたときは、1による点数に、五点を加えた点数とする。

道路交通法施行令 別表二 備考一

救護義務違反(物損事故等)は、注意深く読まないと対象を理解しづらい。

先にまとめると、法72条前段違反のうち、「軽車両でない車両等」+「人身事故」+「運転者」は一段強く処罰され、「軽車両」「物損事故」「運転者以外の乗務員」のいずれかに該当する場合は一段弱く処罰される。そして後者の付加点数は5点となる。このように捉えると理解しやすいと思う。

このまとめを、条文と照らし合わせて掘り下げてみる。

車両等(軽車両以外)の運転者
 人身事故で救護義務違反
  他責 → 法117条1項
  自責 → 法117条2項
 物損事故で危険防止措置義務違反
  → 法117条の5第1項第1号 → 付加点数5点
車両等(軽車両以外)の運転者以外の従業員
  救護義務違反・危険防止措置義務違反
   → 法117条の5第1項第1号 → 付加点数5点
車両等(軽車両)の運転者
  救護義務違反・危険防止措置義務違反
   → 法117条の5第1項第1号 → 付加点数5点

救護義務違反を規定する法72条前段を記す。ここには、救護義務違反だけでなく、危険防止措置義務も規定されている。また、義務が課されているのは、「運転者その他の乗務員」となっている。「その他の乗務員」とは、バスのガイド等、運転者の運行を補佐する者である。単なる同乗者は含まれない。

第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。……

道路交通法72条前段

車両等(軽車両以外)の運転者の場合、人身事故で救護義務違反となると、法117条1項が適用される。自責なら法117条2項が適用される。

第百十七条 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

道路交通法117条1項、2項

物損事故は前記117条1項の「人の死傷があつた場合」を満たさないため、法117条1項や2項は適用されない。しかし、人の死傷がなくとも危険防止措置義務は課されている。これに違反となると、法117条の5第1項第1号が適用される。

第百十七条の五 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反した者第百十七条第一項又は第二項に該当する者を除く。)

道路交通法117条の5第1項

運転者以外の乗務員の場合、前記117条1項の「車両等の運転者」を満たさないため、法117条1項や2項は適用されない。しかし救護義務違反や危険防止措置義務違反となると、法117条の5第1項第1号が適用される。

軽車両の運転者の場合、前記117条1項の「軽車両を除く」を満たすため、法117条1項や2項は適用されない。しかし救護義務違反や危険防止措置義務違反となると、法117条の5第1項第1号が適用される。

法72条前段違反のうち、「軽車両でない」+「人身事故」+「運転者」は一段強く処罰され、「軽車両」「人身事故でない」「運転者以外の乗務員」のいずれかに該当する場合は一段弱く処罰される。そして後者の付加点数は5点となる。

救護義務違反

前節「付加点数:救護義務違反(物損事故等)」で、以下のように記した。

法72条前段違反のうち、「軽車両でない」+「人身事故」+「運転者」は一段強く処罰され、「軽車両」「人身事故でない」「運転者以外の乗務員」のいずれかに該当する場合は一段弱く処罰される。そして後者の付加点数は5点となる。

では、通常の救護義務違反の場合にどのように算定されるのか。例えば神奈川県警察のサイトには以下の例が記されている。

免許の取消処分が行われるとき
例1 処分前歴なしの場合 2番目のケース

事故の原因:安全運転義務違反 = 2点
救護義務違反 = 35点
3か月以上の怪我又は後遺障害 = 13点
 → 合計:50点

点数制度による運転免許の取消し・停止

これまで記した算出ルールにあてはめると、以下の構造で構成されていることがわかる。

交通事故の原因となる違反行為に対する違反点数
 基礎点数 = 安全運転義務違反に伴う2点
 付加点数 = 事故の死傷程度に伴う13点

救護義務違反に対する違反点数
 基礎点数 = 救護義務違反に伴う35点
 付加点数 = なし

(2024/09/10削除)
この理解には、記事の上部の節「瞬間的同時違反」に記したことが絡む。交通事故の原因となる違反行為、たとえば安全運転義務(法70条)違反は、事故発生時点の点的な違反である。他方、救護義務違反は事故後の線的な違反である。
これらの違反は、時間的・場所的に重なり合わない。そのため、これらは「瞬間的同時違反」とはならない。つまり、以下条文の「同時に二以上の種別の違反行為に当たるとき」には該当しない。

(2024/09/10追記)
書籍『点数制度の実務』にこの点が詳しく解説されていた。

③ 救護義務違反に先行する交通事故に係る違反行為の点数(交通事故の場合の付加点数を含む。)については、処分理由となる救護義務違反の点数に、過去の違反行為の点数として累積される。すなわち、先行する違反行為と救護義務違反は、時間的、場所的に近接していたとしても「同時に2以上の違反行為をした」場合には該当せず、それぞれ独立した違反行為として扱うことになる。

点数制度の実務』p.80

点的な違反と線的な違反であっても、線的な違反が無免許運転などの場合には「同時に2以上の違反行為をした」と扱われる。他方、救護義務違反は独立して別の違反と扱われる。以下条文の「同時に二以上の種別の違反行為に当たるとき」には該当しない。

1 一の表又は二の表の上欄に掲げる違反行為の種別に応じ、これらの表の下欄に掲げる点数とする。この場合において、同時に二以上の種別の違反行為に当たるときは、これらの違反行為の点数のうち最も高い点数(同じ点数のときは、その点数)によるものとする。

道路交通法施行令 別表二 備考一

このような理由から、事故と救護義務違反、それぞれの違反ごとに違反点数が計算されて、それらが合算される。つまり、事故の違反点数に、救護義務違反の35点がそのまま追加されることになる。

これは、警視庁のサイトに記されている説明にも整合する。

まず、交通違反につける基礎点数は、それぞれの交通違反につけられている点数を累積します。交通事故を起こした時は、事故の種別と責任の程度及び負傷の程度に応じて付加点数が2点から20点までプラスされます。

また、交通事故を起こし救護措置を怠った場合、いわゆるひき逃げの場合は、更にプラスして基礎点数35点、物件事故を起こし措置を怠った場合、いわゆるあて逃げの場合は、5点がプラスされます。

警視庁 点数計算の原則

そして、上記の説明の「物件事故を起こし措置を怠った場合、いわゆるあて逃げの場合は、5点がプラスされます」は、前節「救護義務違反(物損事故等)」に記した付加点数である。

これを合わせると、前節「救護義務違反(物損事故等)」に記したことは以下のように言える。

法72条前段違反のうち、「軽車両でない」+「人身事故」+「運転者」は一段強く処罰され、「軽車両」「人身事故でない」「運転者以外の乗務員」のいずれかに該当する場合は一段弱く処罰される。前者は、救護義務違反35点が別の違反行為として合算される。後者は、事故に対する付加点数5点が加算される。

問題と感じた交通事故解説動画のYoutubeチャンネルで、別の交通事故解説動画を見ると、「交通事故の原因となる違反行為に対する基礎点数」と「救護義務違反の基礎点数35点」のうち、より高い点数で基礎点数を算定しているものがある。しかし、その算定方法は誤りである。交通事故に伴う違反点数と、救護義務違反に伴う違反点数は合算される。事故と救護義務違反が瞬間的同時違反だと勘違いしていることによるものだと思う。

問題と感じた解説内容……の答え

問題と感じた交通事故解説動画の解説内容は、煽り運転停車後の傷害事件、これが付加点数となるのかというものだった。

付加点数の条文は、令別表二備考二の2と3である。それらの適用条件部分を確認してみる。

2 当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合(二の119から128までに規定する行為をした場合を除く。)には、次に定めるところによる。
(イ) ……
(ロ) ……
3 二の119から128までに規定する行為をした場合において、法第百十七条の五第一項第一号の罪に当たる行為をしたときは、1による点数に、五点を加えた点数とする。

道路交通法施行令 別表二 備考一

2も3も、交通事故を起こした場合に課されるものである。2は一般の交通事故である。3は故意による事故や危険運転致死傷事故である。

(2024/09/10一部削除、書籍引用を追加)
2には「当該違反行為をし、よつて交通事故を起こした場合」とある。この「……、よって……」とは加重処罰規定の常套句である。違反行為と交通事故との間に因果関係がある場合に限るケースを表した表現となっている。煽り運転という違反によって交通事故を起こしたのでなければ、この付加点数は適用されない。

③ 違反行為と交通事故との因果関係
 交通事故の場合(物損事故の場合の措置に違反(いわゆる「あて逃げ)をした場合も同じ。)の付加点数は、「違反行為をし、よって交通事故を起こした場合」に違反行為の基礎点数が付されるが、ここでいう「よって」とは、違反行為が原因となって交通事故が発生したこと、すなわち違反行為と交通事故との間に何らかの因果関係があることを意味する。また、その因果関係は、相当因果関係まで必要ではなく、条件関係があれば足りると解されている。

点数制度の実務』p.82

そして、交通事故の定義は法67条2項にある。「車両等の交通による」という前置きがある。煽り運転が先行していても、車を停めて車から降り、傷害を起こした場合には「車両等の交通による」傷害とは言えないため、付加点数が適用されないのは明らかである。

前項に定めるもののほか、警察官は、車両等の運転者が車両等の運転に関しこの法律(……)若しくはこの法律に基づく命令の規定若しくはこの法律の規定に基づく処分に違反し、又は車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊(以下「交通事故」という。)を起こした場合において、……。

道路交通法67条2項

3は救護義務違反(物損事故等)に関する規定であるため、傷害行為の付加点数とは無関係である。

特定違反行為(極悪なもの)には付加点数が織り込み済みであることを記事上部で説明したが、これらにもあたらない。特定違反行為(極悪なもの)は、故意による事故や危険運転致死傷事故であり、こちらも自動車等の運転によって死傷させた場合に限る表現となっている。

119 「運転殺人等」とは、自動車等の運転により人を死亡させ又は建造物を損壊させる行為で故意(人の傷害に係るものを含む。)によるもの(建造物を損壊させる行為にあつては、当該行為によつて人が死亡した場合に限る。)をいう。
121 「運転傷害等(治療期間三月以上又は後遺障害)」とは、自動車等の運転により人を負傷させ又は建造物を損壊させる行為で故意(人の殺害に係るものを含む。以下この表において同じ。)によるもの(……)のうち、負傷者の治療期間(……)が三月以上であるもの又は負傷者に後遺障害(……)が存するものをいう。

道路交通法施行令 別表二 備考二

危険運転致死傷
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
……自動車を走行させる行為(1号、2号、3号)
……自動車を運転する行為(4号、5号、7号、8号)
……自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(……)をさせる行為(6号)

自動車運転死傷処罰法2条

いずれの場合も、自動車等の運転によって交通事故を起こした場合が大前提である。これは、条文を読めば明らかである。これを明らかと判断できないということは、警察などがまとめている違反点数など、要約された情報を見ているだけで、条文を読んでいないのではないかという疑念が生じる。

最後に

要約された情報は理解の手助けになるだろう。しかし、原典に立ち返って、要約された情報が正しいか、要約された情報への自身の理解が正しいか、確認する習慣を持っておきたいものである。

これは、法の分野に限った話ではない。「虚偽情報を拡散しないように」「情報の真偽を確認するために原典に立ち返る」というのは、普通に言われている話である。ましてや多数のチャンネル登録者を抱える配信者であればなおさらである。

そして法の世界であれば、原典とは法令やその条文である。他者に法を解説する者なら、正しい情報の確認のため、法令、条文に立ち返る習慣を持っておきたいものである。

noteで法を解説する者が自戒の念を込めて。


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