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週末読書メモ81. 『トヨトミの野望・逆襲』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

超巨大グローバルカンパニーの内実とは。登場人物たちの生き様に、心を大きく揺すぶられる一冊です。


出版と同時に、経済界で大きな話題となったビジネス小説、『トヨトミの野望』、続編の『トヨトミの逆襲』。

ある人は半分、ある人は99%が真実と語る内容。

ビジネスの舞台は、愛知県豊臣市に本社を構える世界的自動車企業、トヨトミ自動車。創業出身の豊臣統一。左遷から這い上がりサラリーマン社長となった武田剛平。そして会長であり、統一の父、豊臣新太郎。この3人を中心に、彼らを取り巻く社内外、国内外の人物達。

読めばモデルが分かってしまう本作。巨大グローバルカンパニー、産業を背負った人々が、社内外でどのようなものと向き合いながら、戦うように生きているのか。通常のメディアでは取り上げないような内実が、小説という形だからこそ、ありありと描かれていきます。


本書で触れられる内容は、非常に多岐に渡ります。

創業から巨大企業にまで成長するまでの軌跡。政治をも巻き込んだ国家間での産業争い。保身と野心が入り混じる組織内政治。創業家が背負うものと社内での確執。

清濁併せ吞んだビジネス内情。愛憎混じり合う人々模様。普段では触れることも、近づくことも難しいような、グローバルトップクラスの世界で起こり得る出来事を追体験できます。

また同時に、そこでの人々の喜怒哀楽、葛藤の先にある生き様は、組織の規模が違えど似たようなものであり、人という存在の多面性、生々しさに、思わず心がざわめきます(詳細が気になる方は、ぜひ本書を手に!)。


末尾にある慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛さんの解説も、本書の内容を要点が書かれているとともに、その考察には一読の価値があります。

特に下の2箇所。

名経営者と後に言われる人たちには共通することがある。それは、ビジョン・哲学・信念である。
どんなに部下に嫌われようが、どんなに専制君主と言われようが、まともなビジョンを持ち、生き方の哲学があり、信念を持ってそれを遂行する経営者の下で社員は結束する。血筋や学歴は全く関係ない。オーナー経営者が皆ビジョンがあるわけでもないし、ストックオプションがあれば哲学を持てるわけでもない。信念を持っているかどうかはむしろその人間の生き方そのものに近い。

結局、企業を形作るのはその中にいる個人。その個人に影響を大きく与えるのが経営者。そして組織存亡の危機が迫っている日本企業に必要な経営者は、まさにリスクを感じさせるような経営者であり、貴方の所属する会社にもそういう奇人変人は埋もれているかもしれないのだ。そういう人が自分の上司になったとき、引きずり下ろそうとするか、変化にのろうとするか、それで貴方の会社人生が決まっていく。

トップのリーダーシップのあり方は、本作の大きなテーマの一つです。

数十人もの登場人物がいる中でも、やはり際立つのは、社長豊臣統一、前社長武田剛平、会長豊臣新太郎の3名。第11代社長豊田章男さん、第8代社長奥田碩さん、第6代社長豊田章一郎さんその人。

組織という枠組みの中で、各自が己の自己利益を取ろうとする中でも、誰よりも組織利益と向き合い続けたお3方。

その技量、その才覚、何よりそのオーナーシップに、背筋が伸びます。

今や、豊田章男さんのリーダーとしての実績は間違い無いものがあります。

その上で、奥田碩さん、豊田章一郎さんら、トヨタという企業、自動車という産業の歴史の一端を率い、紡いできた人の凄みも知ることができます。


上記の3名が強烈な存在であることに加え、本作に登場する各登場人物達の生き様にも、胸に残るものがあります。

一人一人が自らの背負ったものと向き合いながら、他者と関わり・ぶつかり、世界が動いていく様子。

ルイ・トルストイは、”歴史(この世界)は、一人ひとりの人間の総和によって、形作られる(『戦争と平和』)”ことを描きました。

本作を通じ、TOYOTA社と自動車産業も、傑出した一部の人間達だけでなく、取り巻く膨大な名も無き人々の総和によって、その歴史が積み重なってきたことが、まざまざと浮かび上がります。


ドラスチックな面白さがあるのはもちろん、心が揺すぶられるものが余りに多く、読んだあとに平静を保てなくなってしまった本はいつ以来だろう…

きっと読む人によって、印象深い点は異なると思われますが、ビジネスや政治の世界で身を置く人であれば、一読の価値がある内容でした。


【本の抜粋】
トヨトミは国内海外双方の市場で減速しつつある。新社長はシビアな現実を直視し、旧体制のトヨトミに引導を渡すがごとく、高らかに宣言した。
「トヨトミの敵はトヨトミです。わたしが社長に就任する以上、お公家集団のぬるま湯は許しません。社員諸君はなにも変えないことがもっとも悪いと気づいてほしい。現状維持イコール堕落です。改革に意欲のない頑迷固陋な守旧派はせめて仲間の足を引っ張らないよう、邪魔をしないでいただきたい」

トップガンは本題に斬り込む。
「昔のトヨトミは違いました。多くの重役はテストコースに足を運んではエンジニアやテストドライバーと”感覚””フィーリング”で話をしていました。クルマの性能はともかく、乗り心地は数値では表せません。クルマが心底好きな連中にしかわからない独特の感覚ってあるんです。その共通の感覚がない限り、おれたちと込み入った話はできません」
言葉が熱を帯びる。
「会社が巨大化して莫大な利益を追い続けているうちに、よいクルマとはなにか、というごくベーシックなことを考えなくなった。重役も社員も本気でクルマに乗らなくなった。若者のクルマ離れを嘆く前に、クルマに情熱と愛情をもたなくなったわがトヨトミ社員のことを心配したほうがいい」

〈いまさらですが、豊臣家はたいしたものです〉
便箋の二枚目に入り、文章のトーンががらりと変わる。
〈技術もカネも人脈も資材もない、ほぼゼロの状態から、尾張の名もなき貧しい鍛冶屋がロマンだけを燃料に突っ走り、ついにはウォード、USモーターズを凌駕し、社員三十万人の世界一のトヨトミ自動車を作り上げたわけですから。その間、たったの八十年。大仰でなく、日本の、いや世界の奇跡です。だからこそ、一介の使用人にすぎなかった私は夢想するわけです。豊臣家の人間ならいまの状況を打破できる、幾千、幾万の罵声を浴びようが、コケにされようが、踏みつけられようが、あなたの御先祖さんたちが信念を持ってやり遂げたように、世界が瞠目する奇跡を再び巻き起こせる、と。〉

〈ビジネスは戦争です。社長はその最高指揮官です。最高指揮官の仕事は会社が進むべき方向を社員に示すことに尽きます〉
(中略)
〈進むも地獄、退くも地獄。ならば統一さん、進みませんか。想像を絶する逆境のなか、ひたすら戦い続けて、前のめりに斃れていった豊臣家の人々の、その強靭な気高き魂を引き継ぐあなたであれば、必ずや成し遂げられます。私はあなたの力量を信じています〉

いいか、統一、と父は噛んで含めるように言った。
「リーダーシップ、いや、あえて言う、独裁には技量と才覚がいる。おまえにはそれはない。耳に痛い意見を受け入れろ。本当に重用すべきはそういう人間だ」

「トヨトミのことが頭を離れたことは一日としてない。豊臣家に生まれた以上、人生はトヨトミ自動車とともにある。それ以外の人生はありえん」
これはおれに言っているんだ、と統一は直感した。まだまだ甘い、もっとトヨトミ自動車に命を捧げろと言っている。望むところだ。何だってやってやる。悪魔に魂を売ろうともトヨトミを守りきってみせる。

名経営者と後に言われる人たちには共通することがある。それは、ビジョン・哲学・信念である。
どんなに部下に嫌われようが、どんなに専制君主と言われようが、まともなビジョンを持ち、生き方の哲学があり、信念を持ってそれを遂行する経営者の下で社員は結束する。血筋や学歴は全く関係ない。オーナー経営者が皆ビジョンがあるわけでもないし、ストックオプションがあれば哲学を持てるわけでもない。信念を持っているかどうかはむしろその人間の生き方そのものに近い。

結局、企業を形作るのはその中にいる個人。その個人に影響を大きく与えるのが経営者。そして組織存亡の危機が迫っている日本企業に必要な経営者は、まさにリスクを感じさせるような経営者であり、貴方の所属する会社にもそういう奇人変人は埋もれているかもしれないのだ。そういう人が自分の上司になったとき、引きずり下ろそうとするか、変化にのろうとするか、それで貴方の会社人生が決まっていく。

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