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週末読書メモ142. 『トヨトミの世襲』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

「継ぐ」とは。


衝撃の巨大自動車企業小説の第3部作であり、完結編。

『トヨトミの野望』、『トヨトミの逆襲』に続く最新作が、本書の『トヨトミの世襲』。

どこまでが真実で、どこまでが創作なのか物議を醸す本シリーズ。

過去2部作以上に、生々しくシビアなテーマを扱う本作は、企業経営/継承に関わる人、物語小説好きともに読み応えのある内容となっています。


しかし、と統一は思う。創業一族による経営の承継、つまり世襲のどこがいけないのか。
いまの日本の企業は、どこの馬の骨かもわからないサラリーマンあがりの社長が三十年もトップに居座り、さらには息子を社長にする「エセ世襲」で上場企業を私物化している恥知らずばかりではないか。

織田は首を振った。
「世襲なんて流行らんよ。息子やというだけで器量のない人間に跡を継がせても不幸になるだけや。本人もやけど、会社も不幸や」

継ぎたい者、継がせたくない者、継がされる者、取り入る者、翻弄される者、抗う者。事業継承を軸に、様々な立場の人間が織りなす物語が詰められています。

外から評価・非難することは簡単ではありますが、当事者の身になれば、そんな生優しいものでは決してありません。誰が正解、何が正解とは言い難く、人は置かれた立場ごとにそれぞれの正義があることも、まざまざと感じさられます。


「あなたはトヨトミの御曹司だ。いずれトヨトミ・グループの頂点に立つのでしょう。世襲はもっとも愚かな事業継承のあり方だと私は考えていますが、全否定はしません。というのも、世襲によって企業が飛躍するケースが一つだけある」
「子が親を殺した時です」

子が親を殺した時、世襲によって飛躍するケースがあると。

これは、一理あります。歴史を鑑みれば、日本では武田信玄、海外ではアレクサンドロス大王等々、確かにその事例はいくつも思い浮かびます。

しかし同時に思い返すのは、飛躍する一方で、次代が続かないケースも枚挙に遑がないこと(もちろん、歴史上に名を残すほどの偉業/偉人が2人続くことなど求めるべきではないのかもしれないが)。

長く続いたローマ帝国やヴェネツィア共和国。飛躍と存続の両立には、(まだ自分の中でも理論化できていないけれど)「子が親を殺す(超える)」の他にも、何かが必要なのだろうなあ。


事業の承継に必要なのは、創業者のやり方・考え方をそのまま踏襲することでもなければ、ましてや血統ではない。創業の精神とそこで働く人々の情熱を、時代に合わせてつなぎ合わせることだ。

そのヒントは、本作終盤に出るこの言葉。きっと、筆者が最も言いたかったメッセージはこれである。

「創業の精神とそこで働く人々の情熱を、時代に合わせてつなぎ合わせることだ」

事業継承の方法云々は、組織の数だけあるわけで。どんな方法だろうど、その精神と情熱を、時代に合わせて繋ぎ合わせられるかどうか。

過去2作以上に、本当に真実だろうか(笑)と思える描写も多い第3作ではあるけれど、どんな組織だろうと直面する課題を客観的に捉えることもできる1冊。

当事者ですら扱いづらい問題ではあるが、後回しにすればするほどロクなこともなく。自分自身も継ぐ立場として、(将来は)次代へ継がせる立場として、目を背けずに立ち向き合っていきたい。


【本の抜粋】
しかし、と統一は思う。創業一族による経営の承継、つまり世襲のどこがいけないのか。
いまの日本の企業は、どこの馬の骨かもわからないサラリーマンあがりの社長が三十年もトップに居座り、さらには息子を社長にする「エセ世襲」で上場企業を私物化している恥知らずばかりではないか。

織田は首を振った。
「世襲なんて流行らんよ。息子やというだけで器量のない人間に跡を継がせても不幸になるだけや。本人もやけど、会社も不幸や」

その織田は悠然と問うた。
「十年後にクルマの値段はいくらになると思いますか?」
「五分の一」
「その時にEVは爆発的に普及する」
売上でいえば、トヨトミ自動車の三十兆円近くの売上は、織田の言うように「五分の一」とまではいかないだろうが、三分の一くらいにはなってしまうのではないだろうか。その時、日本経済へのインパクトは、と考えてゾッとした。

宗教というなら、トヨトミも同じだ。コーポレートガバナンスを創業一族の威光に頼っているのだから。昔はトヨトミのこの体質に疑問を持ったこともあったが、林はいつからか、この体質を利用することを覚えた。
創業家が統治するのなら、創業家の信頼を得ればいいだけだ。そこに楯突いても、いいことは何もない。少なくともトヨトミはそうだし、おそらく織田電子も同じだろう。

「あなたはトヨトミの御曹司だ。いずれトヨトミ・グループの頂点に立つのでしょう。世襲はもっとも愚かな事業継承のあり方だと私は考えていますが、全否定はしません。というのも、世襲によって企業が飛躍するケースが一つだけある」
「子が親を殺した時です」

父から霊能力を承継できなかった宮司は思い悩み、大学で宗教学を専攻して、世界中のさまざまな宗教の死生観を学んできた。織田は手放すことができないだろうと思った。
織田がしがみついているのは、「地位」なのではなく、自分自身の「生命なのだから」。

事業の承継に必要なのは、創業者のやり方・考え方をそのまま踏襲することでもなければ、ましてや血統ではない。創業の精神とそこで働く人々の情熱を、時代に合わせてつなぎ合わせることだ。

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