【3083字】2024.07.04(木)|耳栓を着け忘れただけなのに
昨日の就寝時から今日の起床時に至るまで、もう、散々だった。
まず、すこぶる寝付きが悪かった。「えっ?なんでこんなに意識落ちないの?」と、泣きたくなるぐらい、寝付きが悪かった。たまにこういうことが起きる。眠くて眠くて仕方ないのに、身体も疲労していて早くグッスリ寝たいのに、意識が落ちてくれないことが。
「泣きたくなるぐらい」という表現を用いてみたが、既に僕は、メチャクチャ泣いていた。そう。アクビで泣いていたのだ。就寝時、僕は、ホットアイマスクを着用して眠る習慣があるのだが、もう、グッショリ濡れているのが分かるぐらい、アクビが出っぱなしだった。それでも意識が落ちてくれない。汚れで例えるなら相当ガンコだ。コイツは。あの手この手を用いた挙げ句、「まいった!降参だ!」と、白旗をあげるレベルの。
それでも、大抵の場合、どこかのタイミングで意識が落ちて、気が付いたら朝を迎えている。「昨日は寝付き良くなかったなぁ…。」と、寝ぼけ眼で振り返って、覚醒状態に戻す。そこから新しい一日が始まる・・・はずなのだが、今回ばかりは、違った。
もう、どうしたって、寝付けないのだ。僕のホットアイマスクは、一回の充電で「30分×2回」の使用が目安とされているのだが、2回目の温熱機能がオフ(30分経ったら自動的にオフになる仕組み)になっても、僕はまだ、意識が落ちていなかった。
さぁ困ったことになった。ここまで追い込まれたら、僕はもう、寝付けない。なんてったって、ここから寝付けた試しがないのだから。それには二通りの理由が挙げられるだろう。
一つ目は普段と環境が異なるから。ホットアイマスクの温もりで眠気を喚起させていたのが無くなってしまうと、やはり目が冴えやすくなる。二つ目は気が急くから。「あぁ、寝付けぬまま1時間経ってしまった…。」という事実は、僕をひどく焦らせる。「早く寝ないと…。」と思えば思うほど、目が冴えて来る。気が付いた頃にはアクビも出なくなっていた。こうなると、もうおしまいだ。眠るのを諦めてベッドから出るのが賢明である。
僕は子どもの頃から睡眠に関する悩みを抱え続けている。そこで学んだことは「寝付けないと思いながらベッドでゴロゴロするのはやめるべき」というものだ。これには僕も驚いた。「たとえ寝付けなくとも目をつぶるだけでもリラックス効果を得られる」という話も耳にしたことがあるからだ。「それって矛盾するのでは?」と訝しんだ感覚はハッキリと記憶している。
その理由としては、寝付けないままずっとベッドの中で過ごすことは、「ベッドに入る → 目が冴える」という条件付けを行なっているようなものであって、自らの手で、睡眠に関する悩みを深刻化させることに繋がるから、とのことだった。
それを受けて、僕は、両者を使い分けることにした。ベッドに入って、すぐに寝付けなかったとしても、心身の力を抜いて、腹式呼吸を意識して、音がほとんど出ないぐらい静かに、深呼吸を行なう。そのまま、意識が落ちるのを待つ。それで寝付けたらOK。それで寝付けなければ、一旦、眠るのは諦めて、ちょっとした作業等を片付けて、再び、睡眠への準備を整えるようにしている。
「寝付ける・寝付けない」の基準は、前述した「気が急いているか否か」が、個人的には分かり良いかと思われる。普段は意識せずとも行えている深呼吸等が上手く出来ない時は、やはり、なかなか寝付けないものだ。「もうなんでもいいから意識落ちて…!」と懇願したことは、数え切れないほどあるが、敢え無く敗れ去ったことが、ほとんどである。体感的には、97~98%、敗北している。わざわざ勝算の薄い賭けに出ることもないだろう。
過ぎ去ったことは仕方あるまい。僕は、起床予定時刻のアラームを見直して、それに伴うスケジュール調整を軽く行なった。結局のところ、現状(当初の予定通りに寝付けなかった事実)を受け入れて、今、自分は何を為すべきかを整理するのが、一番の近道なのだ。何事も「急がば回れ」である。
そうこうしていると、自然とまどろんでくる。僕の場合、気持ちが後ろ向きの状態から前向きの状態に変わったタイミングで、眠気が再びやってくることが多い。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」という言葉があるが、僕の場合は「健全なる身体は健全なる精神に宿る」と言った方が、しっくり来るなぁと感じる。「心」が先か。「体」が先か。この類いの話は、人それぞれ考え方が異なって、大変興味深い。
そんな哲学チックなことに思索を巡らせながらベッドに入り直すと、不思議なくらい、スーッと、スムーズに、眠りにつくことが出来た。「早く寝付きたい」という欲求を、良い意味で一旦諦めたことが、奏功したように思える。入眠に関するノウハウは、調べれば山のように出て来るが、最終的には、自分の気持ち一つで決まって来るものなのだなぁと、改めて思う次第である。
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「ピンポーン」(チャイムの音)
「おはようございます~。」
「今日もよろしくお願いします~。」
「はい~。それではまたのちほど~。」
「はい~。失礼します~。」
僕は、アラームの音ではなく、祖母のデイサービスの送り迎えの音で、目が覚めた。こんな早くに目を覚ます予定ではなかった。なんなら、予定通り寝付けていたとしても、もっと後に目を覚ます予定だった。ゆえに、メチャクチャ瞼が重たい。時間にすると、3時間寝たか寝てないか、それぐらいだ。
「(なんで音で目が覚めてしまったんだろうか…。)」
寝不足の感じが強く残る頭でボンヤリと考えながら、二度寝出来る感じでもないし、とりあえず体を起こすしかないか、と思って、僕は、耳元に手を伸ばした。
「(あれっ、耳栓が無い…。寝てる間に取れちゃったのかな…。)」
これも、まぁよくあることだ。僕はベッドの辺りを探してみる。見当たらない。ベッドから落ちてるのでは、と思って、近辺の床を探してみる。それでも見当たらない。
「(あかん。見当たらん。ちゃんと探さないとダメか…。)」
これも、まぁたまにある。ベッドメイキングしないと見つからないパターンだ。正直、ちょっとストレスが溜まるが、そのまま無くなったことは一度もないので、「そういうこともある。しゃーないしゃーない」と思うことにした。
起き抜けに飲むホットミルクを用意した後、ベッドメイキングに取り掛かる。それと並行して耳栓を探す。しかし、それでも見当たらない。さすがに心配になってきた。「もしかしてベッドの隅っこの窪みみたいなところから落ちたのでは…。」と考え出した。言葉で説明するのは難しいのだが、一部、デッドスペースのようになっているところがあるのだ。容易には取り出せないエリア。もしもあそこに落ちてしまったなら大変だ…。
僕は、ウームと思案した後、ハッとした。
「・・・いや、待て。もしかして…。」
僕は、恐る恐る、耳栓を保管しているケースに、手を伸ばした。するとそこには、おお、なんということだ、耳栓が入ったままになっているではないか!
「・・・俺、着けないまま、寝てたのか…?」
どうやら、そうらしい。そうとしか考えられない。ひとりでに耳栓がケースの中へ入るはずがないのだから。
「・・・だから、昨日、寝付き悪かったのかなぁ…。」
「・・・ぜんっぜん、気付かなかったなぁ…。」
「・・・あっ、だから、玄関の人の声で目が覚めたのか…。」
「・・・耳栓の着け忘れで、全て、繋がってしまったな…。」
(・・・・・・・・・・・・・・・)
「耳栓を着け忘れただけなのに、こんなことって・・・。」