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【長編連載小説】絶望のキッズ携帯 第19話 第一日目終了
午前二時。俺と嫁は眠気に耐えながらガキの相手をしている。ガキも精一杯、眠気に耐えている。いい加減にしてもらえないだろうかと思うが、これほど大人が相手をしてくれたことなど、物心ついて以来初めてなんじゃないかと思うと無碍にもできない。少しずつ愚痴が減っていき、悩み相談へと進展していった。
なんでも、先生といった権威にとにかく抵抗したいという革命家の卵でもないようで、先生に疎まれることに反抗しているのだそうだ。ガキがいうには自分は揚げ足をとっておどけるのが好きで、先生にもついそうしてしまう。だから例えば神経質なババアのような先生には気に入られないだろう。そして残念なことに小学四年生の担任が神経質なババアで、目の敵にされた末に不登校になったらしい。
不憫な話とまでは言わないが、子供にとっては可哀想な話だ。俺はガキに、神経質なババアとの相性が悪いことなど、母親である神経質なババアがシュークリームさえ与えていないあたりから察することができると伝えてやった。そして付け加えた。そういえば暴れて壁に穴を開けるとかいっていたが、よく耐えた。あのババアときたら、うちが十二時頃には寝るのを知りながら、三十分だけ話そうと言って十一時半にビデオ通話を始める。もちろん終わるのは二時過ぎだ。ブルブルのほっぺたを引っ張りながら、気だるそうに缶酎ハイを飲み、ほどよく酔ったところでバーイと言って切る。ババアのバーイ。スマホに穴を開けたくなる。
あのババアときたら話題が暗いのだ。いつも何かしらトラブルを背負い込んでいて、それに悩んでいる健気な私の構図で話を始める。もちろんこの後も全てガキに伝えた。
この間など凄い。突然ケンタの話をされた。ケンタ。俺と嫁が知らない登場人物だ。さも親戚か友人のように語っていたのでそうなのだろうと思っていたら、ババアの妹の彼氏だった。説明不要だと判断したババアの頭に何が入っているか、一度ミニドラを潜入させて調査した方がいいだろう。接続とかそういう問題ではなく、材質から間違っているはずだ。ババアの脳内が気になっている俺を尻目にババアはケンタの話を進めていった。
ケンタはどうやらダメ男らしい。建築系の学校に通っているときにババアの妹であるトモちゃんと知り合い、二人は付き合い始めたそうだ。何が起きたかというと、建築士試験に落ちるのが怖いからという理由でケンタはその試験をボイコットしたらしい。それにも関わらずトモちゃんにプロポーズし、勝手にケンタの両親と暮らす二世帯住宅を建てる話を進めるという剛の者がケンタなのだ。
ババアはまずケンタが試験をボイコットしたことに憤慨していた。一年に一度しかないチャンスに逃げ出すなんてどうかしてるという彼女の意見には同意する。しかしあんたもセンター試験をボイコットしたじゃないかという揚げ足を取る隙も与えないことはどうかと思う。あれも一年に一度しかないチャンスだ。
そんなケンタの話をガキにしたのには訳がある。このババア、なんと妹と別れるよう、ケンタに直談判しに行ったのだ。恋愛に親が登場するのは分かる。しかしここで登場できる姉も剛の者だ。
大体このババアはかなりの野武士だ。二十歳そこそこのときに五十過ぎのオッサンの家に転がり込んでいた。妻子持ち、別居中という事故物件だが、金があったからよかったんだろう。本人が言うには知的だったそうだが、俺が見たかぎりただのジジイだった。それも仕方ない。現在七十歳だ。ジジイと呼ぶべきかオッサンにするか悩むが、当時オッサンだったのだからオッサンでいく。ババアは姉ちゃんにする必要はない。あんなものババアだ。ババアはオッサンの家に住みながら、他の男と良い仲になり、シーツの海でバタフライを披露し、妊娠した。そしてオッサンに告げた。
「私、妊娠したみたい」
慌ててオッサンは離婚、再婚、挙式となった。しかし今ここにいるガキはオッサンの子供だ。一悶着あった末に浮気相手との子供を堕ろした末にできたガキがここにいるガキだ。しかしこの辺りの話は無かったことになっている。ババアは神経質な反面、大らかでもあるのだ。ここまで話したところで気付いた。ガキが笑っていない。それも仕方ない。教師によるいじめなどけしからん話だ。