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【魚を求めて】生きているものに吸い込まれる

慌てたか、悔しいのか、彼はぺっと何かを吐いた。ばらばらになった蟹だった。真紅のハサミ。それを食べて、自らも真紅に染まっていくのだろうか。

釣れた魚を目の前にすると、その輝く身体に吸い込まれるような気がしてくる。そこに魚はいるんだけれど、その身体の輪郭線というものが曖昧で、透き通っていて、周りの水や岩、波、空、風、それら全てと緩やかに繋がっている。そんな魚に触れると、自分もその繋がりの中に入れるような気がして、心臓の内側から笑顔がこぼれる。

これがどうしたことか、命を絶って、クーラーボックスに入るととたんにその透明な繋がりは切れてしまう。蓋を開けると、「あぁ」とため息が出て寂しくなる。それを知った上で「食べる」という行為を行う。すると、小さい声で、その魚は語りかけてくる。その語りでその魚の一生は静かに終わる。そんな気がする。

写真でも、映像でも伝わらないであろうこの感覚。アナログの中に無限の広がりがある。

ありがとう。そういって放すと、波間に紅はゆっくり消えた。

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