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有時での戦略策定と事業開発を「アンゾフのマトリックス2.0」で整理する

この2ヶ月、STAY HOMEで体は動いていないものの、頭の中は激動でした。

3月からこの状況を打開するためのアイデアや企画を準備し始めて、4月で3つの施策をスペースマーケット社としてリリースしました。

この2ヶ月、市場環境が大きく変わっていくなかで、急ピッチで動きながらも、できるだけ合理的・戦略的な判断をできるようにさまざまなことを同時並行で考えていました。今回の事例の振り返りと、世の中に出ている他社の事例も踏まえながら、改めて「事業開発」で考えるべき戦略について整理したいと思います。

今の状況下で、ピンチをチャンスに変えるべく戦略策定や事業開発に挑戦しているBizDevやマーケティングに携わっている方にとって、少しでも参考になる情報となれば幸いです。

2ヶ月で事業開発、4月にリリースした施策3つ

①「オンラインイベント支援サービス」:4/10リリース

動画や配信の企画、撮影、編集など各分野で活躍する企業とパートナーシップを組んで、「オンラインイベント」の企画から実施運営まで一貫でサポートするサービスです。今後、社員総会や株主総会やオンライン化・リアルとのハイブリット化することを想定して開始しました。

②NTT東日本との「かんたんサテライトオフィスサービス」:4/24リリース

スペースマーケットが初期費用ゼロで1日から借りられるオフィスを提供、NTT東日本さんにインターネットやIoT機器(スマートロックや防犯カメラなど)を導入支援をしていただく座組みです。

急遽テレワークが導入されたことによる、家庭での仕事環境の課題(椅子やデスクがなく腰痛になる、インターネット環境がない、など)やBCP対策や自社オフィスのソーシャルディスタンス確保のためのセカンドオフィスニーズの高まりを想定して企画しました。

③subsclifeとの「オフィス間借りマッチングサービス」:4/30リリース

スペースマーケットがオフィスを間貸ししたい(自社オフィスの一部を貸したい)企業とオフィスを間借りしたい(一部を借りたい)企業のマッチングと、間貸ししたい企業から物件オーナーへの同居承認のサポートをするサービスです。subsclife社には、フレキシブルに短期間でオフィス家具をサブスク提供していただく座組みです。

すでに、スタートアップや中小企業を中心に自社オフィスを解約・縮小する流れがでてきています。

個人的には、オフィス/ワークプレイスは「全員で集まって作業する場」から、「必要な時に集まる場」「企業がブランドを表現する場」に変わっていくと考えています。このような流れは引き続き進行し合理的にオフィスを縮小、分散化する企業が増えるのでは、という仮説からリリースした施策です。

アンゾフのマトリックスをさらにマトリックス化させたマトリックスたち

今回は、事業開発のフレームワークとして有名なアンゾフのマトリックスを軸に、自分なりに再解釈して詳細化させた「アンゾフのマトリックスをさらにマトリックス化させたマトリックスたち」で整理してみます。

アンゾフのマトリックスでは、大きな事業戦略の方向性を定めるためには有効ですが、戦略から具体的な事業や施策に落とし込むまでには少し距離があるのでは、と感じています。なので、「戦略から事業や施策を作る」ことを意識しながら、アンゾフのマトリックスを再構築してみました。

まず、こちらがベースとなる、おなじみ「アンゾフのマトリックス」です。

アンゾフのマトリックスとは、「経営戦略の父」とも呼ばれるイゴール・アンゾフ氏によって提唱された、事業の成長・拡大を図る際に用いられるマトリックスのことです。事業の成長を「製品」と「市場」の2軸におき、その2軸をさらに「既存」と「新規」に分けて表しています。企業の成長戦略をシンプルに表現しており、「アンゾフの成長マトリックス」や「製品・市場マトリックス」などとも呼ばれます。

このアンゾフのマトリックスをもとに、各象限でとるべき戦略の方向性を、さらに詳細にマトリックス化する試みをしてみました。4象限それぞれについて、事例も踏まえつつ順に追っていきたいと思います。

①市場浸透:既存製品×既存市場

そろそろマトリックスがゲシュタルト崩壊してきたころですが、まずは第一象限の市場浸透です。

市場浸透の方向性を検討するために、「用途軸」と「チャネル/タッチポイント軸」でさらにマトリックス化しました。

1-1.既存用途×既存チャネル:改善・効率化

既存の用途で既存チャネルを活用して成長させようとした場合、同一顧客のリピートを増やしたり、単価をあげたりなど、改善や効率化が施策の基本になります。

1-2.新用途×既存チャネル:用途開発

第二象限はチャネルはそのまま、新しい用途を開発する考え方です。たとえば、スマニューさんが「英語でニュースを読めて学べる」「乃木坂などアイドルの情報をウォッチできる」などの新しい用途を開発されていて、いつも上手いなあと。

1-3.既存用途×新規チャネル:チャネル開発

第三象限は既存用途で新しいチャネルを開発する考え方です。マーケットバスケット分析で有名な、「ビールとおむつを一緒に買う人が実は多かったので、ビールをおむつの横に置いたら売れた」的なやつです。

1-4.新用途×新規チャネル:リニューアル

第四象限は新しい用途を開発し、さらに新しいチャネルも活用する、いわば「リニューアル」です。たとえば「もともと健康食品として薬局で売っていたカロリーメイトを、運動時の栄養補給という用途を開発し、スポーツ用品店でリニューアル販売する」など。

②新商品開発:新商品×既存市場

次に、アンゾフのマトリックス第二象限の「新商品開発」です。これもさらにマトリックス化し、「製法・技術」と「素材」の2軸で分けてみました。

2-1.既存製法×既存素材:"パッケージ"リニューアル

製法や技術、使う素材もそのまま商品を開発するケースです。中身はかわらないので、パッケージ=見せ方を変えて新商品に見せる考え方です。

実は、先に紹介した「かんたんサテライトオフィスサービス」はこの"パッケージ・リニューアル"にあたります。もともと会議室やイベントスペースとして使われていたスペース(=素材)はそのまま、貸し借りする際のコアなマッチング技術も基本そのまま。会議室を「サテライトオフィス」というパッケージに変えた形です。ただ見せ方を変えるだけだと本質的に意味がないので、オペレーションを組み直したり、NTT東日本さんにご協力いただいてサテライトオフィスというパッケージに必要な「オフィス環境整備」の部分も提供可能になったりもしました。

2-2.新製法/新技術×既存素材:テクノロジーピボット

従来の素材と新しいテクノロジーを組み合わせて新商品を開発する考え方です。たとえば、Netflixはもともと「オンラインDVDレンタルサービス」を運営していましたが、「映画の視聴データ」という素材はそのまま、「レコメンドとオンデマンド配信」という新しい技術を活用してストリーミング配信サービスを開始しました。(あくまでも「映画市場」という市場の中で。)

「コンビニコーヒー市場」にペットボトルという新技術を持ち込んだ「クラフトボス」も一例です。

先に紹介した「オンラインイベント支援サービス」はこのテクノロジーピボットに当てはまるのかなと思います。大きく捉えると「イベント市場」はこれまでオフラインイベントの会場手配を中心に携わっていました。イベントのオンライン化に伴って必要になる「撮影、編集、配信」といった新技術は「アライアンス」「パートナーシップ」という「他社から借りる」手法によって補っています。特に有時の際に早急に新技術を調達する方法として、アライアンスは非常に有効です。

2-3.既存製法/既存技術×新素材:新素材適応

既存の製法と技術を活かして、新しい素材で新商品を開発する考え方です。たとえば、日清さんの「カレーメシ」をはじめとする「カップメシ」シリーズ。公式サイトにも「即席麺で培った乾燥技術を応用!」と書いてある通り、カップヌードルで長年かけて育てた乾燥技術を、麺ではなく米に適応させています。

2-4.新製法/新技術×新素材:多ライン化

新しい素材で、新しい製法/技術を活用して開発する考え方です。キリンビールさんが一番搾りとは別に展開しているクラフトビールブランド「グランドキリン」は、独自素材である希少ホップを使ったり、グランドキリン専用に開発した「デイップホップ製法」という新技術を活用したりなど、ビール市場に対して「多ライン化」を実現している事例かなと思います。

③新市場開拓:既存商品×新規市場

次に、アンゾフのマトリックス第三象限の「新市場開拓」です。既存の商品を新しい市場に対していかに売るか?を考える成長戦略です。これもさらにマトリックス化し、「サイコグラフィック軸」と「デモグラフィック/ジオグラフィック軸」の2軸で分けてみました。「サイコグラフィック軸」は、ライフスタイル、行動、信念(宗教)、価値観、個性、購買動機、あるいは商品使用程度など心理的要因によって顧客を分類するための軸です。「デモグラ/ジオグラ軸」は、性別や年齢、住んでいる地域や所得や職業や学歴や家族構成などを社会的な特質データで分類するための軸です。

3-1.サイコグラフィック的に似ている×デモグラ/ジオグラ近い:関連市場開拓

まさに今飲食業界で起きている、「飲食店→デリバリーやテイクアウトへの進出」はこの象限の一例です。beforeコロナの外食とwithコロナでの中食・家食はサイコグラフィック的にも(好きな店の美味しいもの食べたい)デモグラ・ジオグラ的にも(近所の店で)近しいところにあります。

3-.2サイコグラフィック的に異なる×デモグラ/ジオグラ近い:インサイト発掘

心理的性質が違うターゲット層の新しいインサイトを発掘して既存商品を拡販する考え方です。「ワークマン&ワークマンプラス」が、「アウトドア好きな人」から「安くておしゃれしたい人」にターゲットを広げていったのは現在進行形で注目すべき事例です。

3-3.サイコグラフィック的に似ている×デモグラ/ジオグラ遠い:市場拡張

実は似たインサイトを、デモグラ/ジオグラ的に遠い人も持っていたのを発見し、ビジネス展開エリアを広げるパターンです。地方進出、海外進出が一番わかりやすいですね。同一プロダクトで海外進出している事例としては、メルカリさんがUS、wantedlyさんがシンガポールに進出するなど、アセットライトなITサービス事業でよくみられます。

3-4.サイコグラフィック的に異なる×デモグラ/ジオグラ遠い:ローカライズ

コロナ影響でまさに「ローカライズ型」でピボットに成功し、最近大きく資金調達をしたCheetahという米国のスタートアップを紹介します。

もともとは、飲食店向けに食料品の卸売を展開しており、コロナ流行前には3000もの顧客を抱えていました。しかし、ロックダウンによりその多くが営業停止。その影響を受けて、ベイエリアの「一般消費者向けに食料品を卸売価格で大量に購入できる」サービスとしてピボット。実証実験ではすでに高いリピート率を記録したそうです。

・飲食店事業者:次の日の食料品の仕入れは前日直前に行いたい

・ベイエリアの高級住宅街に住む一般消費者:ロックダウンで大量に安く食料品を購入したい

という、デモグラ、サイコグラフィック両軸で異なるターゲットに対して、うまく既存ソリューションをピボットさせた事例です。

④多角化:新商品×新規市場

最後に、第四象限、「多角化」です。市場にも製品にも取っ掛かりがないため、比較的リスクの高い成長オプションです。

この「多角化」にはすでに先行して経営理論が多数揃っており、今回はバリューチェーンを使った戦略オプションを組み合わせてマトリックス化してみました。

4-1.同領域への多角化:水平型統合

同じ業種・分野で水平的に事業を拡大するパターンです。最近だと、トヨタのKINTOやボルボのスマボなど、自動車メーカーが自動車サブスク市場に参入している事例はこれにあたります。

4-2.自社が顧客となる多角化:垂直型統合

バリューチェーンの上流または下流へと事業進出を展開する考え方です。仕入れ先を統合するパターンを「川上統合」、販売先を統合するパターンを「川下統合」と呼びます。

AmazonがECプラットフォームから倉庫業や配送業を統合していったのはわかりやすい事例です。

4-3.類似領域や自社アセットを活用した新領域への多角化:集中型多角化

コアとなる技術やアセットに関連する分野に対して事業拡大を図る考え方。既存商品と新商品との間でマーケティングや技術の面で関連性を持たせ新たな市場に進出することにより、新規参入のハードルを下げることができ、技術・人材・販売の効率化やブランド力などのシナジー効果を期待することができます。

事例としては、元々車で人を運ぶプラットフォームだったUberが、自転車やバイクで飲食品を運ぶプラットフォームUber Eatsを展開していますね。Uberはリアルタイムな位置情報マッチングというコア技術を「タクシー」から「デリバリー」へと転用させました。

先述した「オフィスの間借りマッチングサービス」もここに位置します。これまでスペースマーケットとして対峙していた「会議室市場」に類似した「オフィス市場」に対して、コアとなる「スペースのマッチング」に関する技術やオペレーションを活用しています。

4-4.自社アセット関係なく新領域に参入する多角化:コングロマリット型多角化

従来の事業領域とは全く異なる分野で、新しい製品やサービスを開発し、新市場への進出を図ります。従来事業とのシナジーが見込めずリスクの高い戦略なので、進出する市場の成長性が見込めることが重要です。一方、事業が成功すれば、将来的な企業のリスク分散を図ることができます。

コロナ影響で家電メーカーや医療メーカー、自動車メーカーまでもがマスクを開発・販売開始しているケースはこのコングロマリット型にあたります。

さいごに:有時の際にこそ「戦略」が必要、あるいは「戦略的」でないとどうなるか?

ここまで、「戦略から事業や施策を作る」ことを意識しながら、アンゾフのマトリックスを再整理してみました。

この2ヶ月で状況は大きく変化しましたが、こんな有時にこそ「戦略」が重要だと個人的には信じています。

野中郁次郎氏著、「失敗の本質」では、第二次世界大戦で日本が尽く失敗を繰り返した要因について、以下のように述べています。

日本人は俯瞰が苦手
日本人は「大きく考える」ことが苦手であり、俯瞰的な視点から最終目標への道筋を作りあげることに失敗しがち。
「空気の支配」
日本特有の「集団の空気」の存在。誤った判断は集団感染する。作戦実施の可否に対して、本来極めて小さな正当性しかないこと(残りの九九%は別の要因で決断されるべき)を利用して、問題への疑問を封殺し結論を押し切ってしまう。

「失敗の本質」は戦争という有時の際に日本軍内で行われた意思決定や言動を詳細に分析して課題を炙り出し、企業経営に生かしていこう、と提案しています。日本人がこれまで苦手とされてきた有時の対応。打開するためのキーワードは「俯瞰」と「戦略」です。

この今の状況で「俯瞰的でなく、戦略的でない」組織であれば、どのように誤った意思決定や行動を起こしてしまうか?想像に難くありません。

たとえば、何の製造技術も持ち合わせていないゲームアプリ開発企業がマスクを作る、という意思決定をしてしまった場合。「今マスクが売れているらしいから、マスクを作ろう」という「空気」が組織を「集団感染」させてしまうと、潜在的なリスクや課題が表面化しなくなります。その結果、製造技術力や検品体制が整わず、不良品多発しリコールになる、などワーストシナリオに陥る可能性があります。

市場環境や自社のアセットをもっと俯瞰して、戦略的に思考できれば、「マスクを作るのではなく、マスク製造会社に対して、安定的に稼働するECシステムや関連アプリを提供する」などなどもっと別の選択肢も取れるはずです。

刻々と変わる状況に対して、僕たちは何ができるか?

「withコロナで世の中はどうなる?」
「ポストコロナに備えて考えておくべきことは?」
「今後のキャリア、どう歩むべき?」

など、「考える・思いを巡らせる」のももちろん重要ですが、個人的にはもうそのフェーズは終わったかなと思っています。すでに、多くの企業では、考えをもとに仮説を立てて物事を動かすフェーズに入っているはずです。

世の中を少しでも前に、良い方向に進められるよう、一歩ずつアクションしていきましょう。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

ご紹介した、各マトリックスの名称は僕がなんとなくネーミングしてみたものなので、もっとマッチしそうな名称を思いついた方は、ぜひ、コメント欄やtwitterで教えてください。

最後までお読みいただきありがとうございました! サポートいただいた金額は、さらなるインプットにあてさせていただきます。 今後とも何卒よろしくお願いいたしますm(__)m