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連載小説「1万7000回『こんにちは』を言い続けてきた」 連載5日目

これは在宅医療に挑んだ1人の青年の『こんにちは』の軌跡。
踠き、苦しみ、それでも目の前の人々と全力で向き合った、ノンフィクション小説です。

*山口本人を除き全て仮名としています。

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5回目

 薬局の使命には医薬品の安定供給がある。供給というと非常に無機質な感じがするが、実際はとても相手目線に立った役割だ。
 病気で苦しむ人にとって、医薬品は命をつなぐものであり、ときには心の支えになる。その医薬品を、確実に、間違いなく、速やかに渡していくのは、薬局としての最低条件となる。
 そして、それはただ渡せばいいわけではない。その医薬品をきちんと飲めるのか?飲みにくくて辛い思いをしていないか?そもそもその方に合った医薬品なのか?それらを網羅できてこその“医薬品の安定供給”だ。間違った薬、飲んではいけない(体調に合わない)薬をお渡していては意味がないのだ。

 「山口くん、それじゃあこの薬の鑑査をしていこうか。」

 近藤先輩から医薬品の鑑査方法の指導を受ける。
 まず、処方箋の確認、記載内容に相違がないかどうかの確認。次にその方にあった医薬品がどうかを情報と照らし合わせて調べる。そして、取り揃えられた薬が正しく間違いがないか確認する。

 これも大切な薬剤師の役割だ。


6回目

 「じゃあ山口くん、今日はまた施設にいこうか」
 「はい!よろしくお願いします!」

 先輩と共に施設へ。2回目の訪問だ。
 今回も午前は医師や看護師と共に回診。
 回診は今日も先輩の後についてみていく。
 オレの目標は会話に付いていくこと。
 がんばるぞ!

 「こんにちは!薬局です!」
 「やぁこんにちは。」

 斎藤先生はすでに施設に到着し、事前情報に目を通している。看護師も集まってきたところで、回診のはじまりだ。

 「血圧はどうかな?ご飯は?お通じは出てる?」
 「先生、脚に水虫が」
 「見せてみて、、、わかった薬を出そう」
 「了解です。

 (ん?了解です?先生なんの薬か言うた?)

 「じゃあ今日は以上です。お疲れ様でした!」

 回診が終わってから近藤先輩に聞いてみた。

 「先輩、水虫の薬ですけど、斎藤先生は薬を何か言ってはりましたか?」
 「いや言ってなかったねれ
 「え?じゃあなんで薬をどれにするかわかったんですか?」
 「ぼくが選んでいるんだよ。それを最後の読み合わせで先生に確認とって、処方してもらっている。」
 「そうなんですか!?」
 「そう、斉藤先生はかなり頼ってくれるから、しっかり答えるようにしないとね」
 「わかりました、頑張ります!」

 処方権は医師にあり、それは絶対のものだ。しかし、薬の知識は薬剤師に豊富にある。医師が診断し、薬剤師が薬を選択、提案。そして医師とともに決定していく。
 医師と薬剤師との信頼関係があるからこその流れ。近藤先輩と斎藤先生にはそれができていた。

 (オレもがんばらないと…!)

 回診が終わり、いよいよ午後から薬剤師による単独訪問。オレが話すときがくる!

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