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長い夜が幕を閉じた

連日、原稿の締め切りに追われている。深夜まで粘った原稿はまだ完成には程遠い。まもなく時刻は1時を迎える。閑散とした住宅街の中に酔っ払いたちの声が鳴り響いた。普段ならなんとも思わないのに、余裕がないときはいつだってイライラが募る。このやり場のない感情を彼らに向けてしまおうか。そんなことをしたところで、目が覚めたときに後悔するに違いない。

長時間作業をしていたため、テーブルの上に置かれたMacBookの電池残量がまもなく尽きそうだ。隣の部屋に移動すれば充電器があるけれど、その移動すらも億劫に感じる。いっそこのまま強制的に仕事をシャットダウンしてしまいたい。ところが、期日は刻一刻と迫りつつある。重い腰を上げて、充電器を取りに行き、コンセントを挿した。ディスプレイの電池に充電マークが宿った。逃げるに逃げられない環境をこの手で作り出すことに成功した。ここから先は原稿が完成するまで終わらない。

キーボードで文字を打ち込んでいるが、なかなか気に入った言葉が出てこない。書いては消しての繰り返しの中で、才能がないという言葉が脳裏にチラつく。そんなことはないと否定したいけれど、この有様ではその言葉は意味を持たない。

天井に吊られているオレンジがかった蛍光灯を眺める。右側に目を移すと、時計の針が3時を差しているのが見えた。少しずつ外が明るくなっている。焦燥感とともに芽生える悔しさが、体内を駆け巡った。このまま夜が明けなければいい。ふとそんな言葉が思い浮かんだ。夜遅くまで作業をしていることも相まって、体が鉛のように重くなってきた。長時間椅子に座っているため、腰も痛い。何度か立ち上がって背伸びをしていたのだけれど、それの効果も感じなくなってきた。とにかく早く終わらせて眠りにつきたい。

脳内から言葉を引き摺り出して、文字の羅列を作っていく。言い回しを調整しながら1つの原稿を作り上げていく。ライターを生業にしていた頃よりも遥かに執筆スピードが落ちている。毎日noteで文章を書いているが、それはあくまで自分の体験であり、商業的な文章ではない。どうすればユーザーに刺さる文章になるかをブランクを背負った状態で生み出そうとしている。自分のために書く文章を書くのは数字のプレッシャーを背負わずに済むため、気が楽だ。もしかしたらクライアントさんはそこまでの結果を求めていないのかもしれないけれど、依頼をいただいた以上は想像を超えていきたい。

勝手に背負い込んで、勝手に潰れそうになっている。疲れ切った体から出る言葉はネガティブになりがちだ。早く寝たい。いい文章を書けない。こんな文章を誰が読むのだろう。そんな言葉ばかりが脳内に思い浮かぶたびに、自分に嫌気が差す。だが、あと少しで原稿が完成する。原稿を書き終えた瞬間にやってくる達成感と早く出会いたい。長時間の熟考によって、ようやく原稿が完成を迎えた。その原稿に、目新しい言葉は何もない。自分が思いつくような言葉はもうとっくに誰かが言語化してしまっている。その事実と改めて出会ったに過ぎない。カーテンを開けると、空が明るくなっていた。時刻はまもなく4時を迎える。鳥の鳴き声とともに、とても長い夜が幕を閉じた。


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