
読書感想文 『令和元年の人生ゲーム』
【令和元年の人生ゲーム】
・第171回直木賞候補作
第1話 平成28年
第2話 平成31年
第3話 令和4年
第4話 令和5年
大学を舞台にした第1話から語り手が代わりながら話しが進んでいくんだけど、全編に登場する脇役「沼田」が痛快すぎる。
語り手含む人物たちは、章ごとに年齢も立場も性別も違うけれど、みんな希望に満ちた未来に向かうことにキラキラして見える。
そんな中で異質なのが「沼田」という人物。
常に一歩引いたところから他人を見ているような態度で、入社式では「総務部あたりに配属になって、クビにならない最低限の仕事をして、毎日定時で上がって、そうですね、皇居ランでもしたいと思ってます」と言ってのける。こんな新卒普通にやばい。でもいざ働くとなると一生懸命全力で働いている人を嘲笑うかのように成功を収める。
こんな奴が(あえて奴と言わせてもらおう)、意識高い系ビジコンサークル(第1話)だろうが、キラキラメガベンチャー(第2話)だろうが、Z世代シェアハウス(第3話)だろうがコミュニティ型銭湯(第4話)だろうが、何か結果を出そうと頑張っている人のすぐ近くで、難しいこともせず常に笑顔を浮かべて気持ちよさそうにいて、心底幸せそうなのである。
語り手含む人物たちが物語の主役であり、この時代の主役でもあるのは間違いないのだろうけれど、私には沼田がそんな世間ではZ世代と呼ばれるような人物たちの数世代先をいっているように映った。
常にキラキラしててバイタリティがあって成功すること、結果を求めることはとても良いことだとは思う。けれど、沼田を見ていると「そんなに一生懸命にやらなくても成功できるし幸せになれるじゃん?」と思われているようで、確かにそれもこの時代の正解の一つとして間違いないと感じる。むしろ、最高の答えのようにも思えてしまうのが何だか悔しい。
これから社会に出る若者たちは、どこを人生ゲームのゴールとして生きていくのかうまく、早めに見つけられるといいと思う。この物語に出てくる人たちを否定するわけではないけれど、いくらいいポジションにいても、挑戦する機会があっても自分の人生に迷子になると絶対に気持ちよくないし、幸せにはなれないだろうから。
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