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美容院に行けない

今日、やっとの思いで美容院の予約をした。
前に髪を切ったのはいつ?

指折り数える。

ああ、確か下の子が高校を卒業するので、式にあわせて切ったのが最後だから……え?
もう7年経つの?

おぎゃあと生まれた子が小学生に入っている。

そう思うと、なんでここまで行けなかったのかと、不思議に思うよね。

第一に、髪を触られるのが苦手な子供だった。
女の子だから、リボンやアクセサリーのついたゴムで髪をくくり、可愛くしようと努力した母。
それをことごとく跳ね除け、一切触らせようとしなかった娘。すなわち私。

自分でもわからないが、昔から髪を触られるのが好きじゃなかった。


第二。
「何年ハサミを入れていないんですか?」
あるとき、担当してもらった美容師さんにそう訊ねられた。

「この人、オシャレに全然興味がないんだ」

言葉の裏にそんな悪意を感じた。
でも実は、悪意など存在しない。

自分でもオシャレに無頓着なのはわかっている。
服も選べなければ化粧もまともにできない。
そんな私が、美容師さんの言葉にありもしない幽霊を見てしまい、足が遠のいた。

美容師さんに落ち度はない。
卑屈な私の、自分にかけた呪いだった。

第三は、行きつけの美容院がないということ。
一時期、美容院ジプシーになっていた。
どこに行っても、良いとも悪いとも思えない。
ここだという店が見つからなかった。

当たり前だよね。
足を運ばなければ、出会えることもないんだよ。


そして最大の理由はこれ。
体調を崩したこと。

そろそろ切りに行こうかなと思い立ったころに、病気になった。

美容師さんと会話ができない。
話題を合わせる自信がない。
髪型を提案されても選べない。
本を渡されても、女性週刊誌は全然面白くない……。

オシャレどころか、外に出たくない。
引きこもりが加速する。

そう。
せっかく成功して、リバウンドもなかったダイエットなのに、薬を飲み始めたら、ダイエット前よりも体重が増えた。

知り合いに見られたくない。
外に出られない。
運動不足がリバウンドを加速させる。
そして人と顔を合わせたくない。

恐怖の悪循環で、外出するのが怖くなった。


でも……。
このままではいけないのは、自分が一番わかっている。

夏の終わりに行きたいところがある。
せめて髪くらい整えないと、オシャレも何も始まらない。

数日間悩みに悩んで、今日やっと予約の電話を入れた。


いつまでもこのままじゃいけない。
最初の一歩には、エネルギーがいる。
でも力を加えたら、とりあえずは動き始められる。

加速するか減速するか、先のことはわからない。
でも今日は、踏み出せた自分を褒めよう。


病気にふりまわされるのはイヤだ。
まずはなんでもいい。
それがたまたま、髪を切ろうとしたってことだった。

その壁を越えたら、次に行きたい場所がある。

行けるかどうかわからない。
でも、行きたいという気持ちを持っておこう。

減速しない程度でいいからね。ムリは禁物。


美容院に行くだけで、ここまで悩むなんて。
まだまだ全快には程遠いよなぁ。

でも、ほんの少しのストレスは、私を動かす力になった。


明日はばっさり髪を切る。
動けない自分も、一緒に切ってしまえるといいのに。

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