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台湾映画『本日公休』〜コスパでは計れないもの

下町の理髪店の店主アールイさん。
常連客だった先生が、高齢でもう動けないことを、電話で知らされる。

「だったら私が散髪に伺います。」と
お店を休みにして
1日がかりで遠くまで出かける理容師の母親に向かって
「そんなことしてたら赤字になるでしょ」と
非難をする、ピンク色の髪をした美容師の娘。

一人の人間の生の終わりが
ある親子の価値観の違いを露わにする。


現代の台湾なの!?

昔ながらの理髪店の風景や
アールイさんの髪型、服装から
最初は『花様年華』のような時代背景なのかと思ってしまったけれど
設定は、現代の台湾。第二の都市である台中。

子供達の様子は、確かに現代の様子ではあるものの
全体を通して、アラ還女性の視点を中心に展開するため
30年前くらいの時代を投影し、懐かしさを生んでいた様子。

現代なのに、少し昔の風景に見える不思議。


あらすじ

いつもどおりで?
いつもどおりで

常連さんたちが集う、台湾の町はずれの理髪店。
時が止まったように見えるけど、
でも少しずつ、そして確かに季節は巡る。
ある晴れた朝、店主のアールイさんは
店を閉めて、あの人の髪を切りにゆく…。

公式サイトより
公式サイトより

号泣ポイント

個人的に、こういう人間模様を描いた作品では、どこかでうるっとしたい。泣くという行為は、ストレス発散になるらしく、やはり人は無意識的に
「泣ける映画」を求めているのだと思う。

ただ、この作品の予告からは、そこまでのカタルシスを期待していなかった。少しコミカルで、淡々と話が進むのだろうと。
その予想は裏切られ、あるシーンでがっつりと泣いてしまった。

それはアールイさんが、もう動けない先生の散髪をするシーン。

家族が見守る中、手際よく散髪を始めるアールイさん。
無口だった先生の思い出を家族に話し始める。

家族の知らない先生の姿が、彼女によって蘇っていく。

アールイさんは、泣くのを堪えて淡々と話をするけれど
先生の子供達は、父親の愛に触れて涙が堪えきれない。

それでも静かに、静かに。
ハサミとカミソリの音が部屋に響いていく。

共感ポイント

ご縁を大事に理髪店を経営してきたアールイさん。
そんな母親のやり方を批判する美容師の娘のリンは「コスパ重視」。

どちらが正しいわけでもなく、それぞれの人生があり、事情があり
どちらも生きていくために、頑張っている。

そんな親子の葛藤とは別に、途中、アールイさんが田んぼのど真ん中で
出会う男性に、この時代を象徴するものがあった。

髪がぼさぼさの男性は、今は農業を営んでいるが、元々は企業に勤めていたサラリーマン。自然と共に生きたいと思ったと語る彼は、
両親とは5年間も連絡をとっていないことを告白する。

「ご両親に連絡とってあげてね」と伝えるアールイさん。

何が成功なのか、何が幸せなのか。
そのバランスはあるのか。

お金を稼ぐことは大事なこと。
シングルマザーになって、私は実感する。
かといってただ「稼ぐ」だけでは、私たちは幸せになれない。

人はみな、それを模索しながら生きている。
そんな様子が描かれる。

公式サイトより

セラピーポイント

アールイさんの子を想う気持ちと
子供達だって、それなりに頑張って生きている
その想いが、上手く交差しない。

実の親子は複雑だ。

ここで、娘婿チュアンの存在が癒しになる。
リンとは離婚はしたものの、アールイさんの元に
孫を連れてやってくる。
子供達とはできない優しいやりとりが、ここにはある。

高齢で動けなくなった先生の散髪時、家族ではないアールイさんによって
父親の愛情を再確認する子供達のシーンが描かれた。
家族以外の存在が、家族の絆を深めることがある。

台湾映画の記憶

台湾の映画といえば、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督、エドワード・ヤン監督を思い出す。

実は、この作品の製作は、彼らと仕事をしてきたウー・ニェンチェン(呉念真)氏が担当。
人間味のある空気感は、こうした流れを汲んでいるのかと納得。

台湾に行ったことのない私が、この作品に懐かさを感じた根底には
若い頃に見た彼らの作品の記憶があったのだった。

公式サイトより

年齢層高め!?

監督は、1973年生まれで、私(1975年生まれ)と同世代。
感覚としては、近いものを感じたけれど、映画館に来ていた方達の
年齢層が完全にアールイさん(アラ還?)だった。

シネスイッチ銀座というロケーションなのか
平日、午前10時の回という時間なのか。

とはいえ、年齢問わず、ミニシアターが好きな方達には
おすすめの作品。
温かい空気感があり
忘れていた大事な感覚を取り戻すことができる
心に残る物語と風景だった。

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