シェア
私は文章を書くことが好きだ。いまはエッセイのようなものを書きたい。もっと上手くなりたいと…
調子が悪いとき、私は私を閉じてゆく。自己防衛するのである。シャッターを下ろすように。きょ…
旅行から帰ってみると、いとこが長男を出産したという知らせが届いた。ふたりが電車とバスを乗…
彼はずいぶん前に紙巻煙草をやめたが、いまではパイプに凝っていた。時代に逆行した趣味なので…
彼らはふたりで暮らしている。彼女はせっせと人と会っている。家に呼び、料理をふるまい、酒を…
彼は新聞を取り続けていた。朝起きてすぐ読み、仕事帰りにも読んだ。ときには、仕事中だって読…
ふたりが引っ越してきたとき、もっとも重視した家具は、ダイニングテーブルだった。椅子も書棚も大事だが、結局はテーブルが部屋の雰囲気を決めるからだ。それまで暮らしてきた部屋で、もっとも力を入れてきたのはベッドだった。一日の中で、いちばん長い時間をその上で過ごすものだからだ。が、これからはただ暮らすだけではなく、客をもてなすことのできる部屋にしたいと考えていたのだった。 ベッドが夜に乗る草の船なら、ダイニングテーブルは客を迎える主人の顔に相当した。郊外の家具店で買った合板の組み立
古着屋で買ったツイードのコートをよく着ている。1950年代のものらしい。修理しながら着ている…
はじめて夫婦でクラシックのコンサートへ行った。聴いたのは、ヴィキングル・オラフソンによる…
※映画『ガザ 素顔の日常』の内容を含みます 雨の降る日曜日の朝、午前九時に家を出た。ドト…
週に二回、会社帰りにボクシングジムに通っている。 会員にはプロもいるが、基本的には会社員…
コンサートの開演に遅刻して、入場できなかった。 パリから来日した演奏家による協奏曲が聴け…
考えることを減らせると、楽になる。 苦しくなっているときは、たいてい考えすぎている。考え…
百歳近くで大往生した母方の祖母は、「おかあさん」とよばれるたびに、息を吹き返した。 いまわの際に、祖母の息と息の間隔は徐々に長くなっていった。 ついに息が止まったかと思われると、母と叔母が「おかあさん」とよんだ。すると、それに応答するかのように、祖母は「ハァー」と息を吹き返すのだった。 それは何度も繰り返された。ついに息を引き取るまで、彼女はよばれるたびに戻ってきた。 「人間、耳が最後やで」 通夜の席で、父はそう言うのだった。 往生際まで開いているのは目ではなく耳だとい