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自己観察のようなもの。「印象操作について」

 私と初めて出会った人の感想はこうだ。優しそう、真面目そう、笑顔が良い。私の設定した、人に警戒心を与えないという第一印象のイメージ戦略を、しっかりクリアしている。妥当なラインである。

 2回目、もしくは3回目に会うあたりから、私は自分のアイデンティティを小出しにしてみる。メイクや服装、ヘアスタイル、アクセサリーなどを、自分のその日の気分に合わせて変えていく。

 Tシャツにチノパンや軽めのニットというラフな格好で、髪をお団子にする。財布と鍵が入るくらいの小さいアースカラーの手提げは、大人っぽい差し色として使う。眉と目元だけメイクをしてマスクで散歩に出かければ、大学生の群れが来ても最初からその一味でしたという顔ができる。

 黒に近いスーツと白いワイシャツを着て、マットなメイクで黒いカバンを持つ。もちろん髪は1つ結びだ。神妙な顔でスマホの乗り換え案内を見ながら電車に乗ると、季節外れの就活生が出来上がる。

 花柄のレース調のスカートに少し形の変わった黒のブラウスを合わせ、少し高さのあるサンダルにレジンのイヤリングを添える。時間があれば編み込みを髪に施し、ハイライトを気持ち多めにメイクへ足し算する。街に繰り出せばアフタヌーンティーが好きそうな女子である。

 ギャザーのある白いトップスに濁りのない黄色の膝丈スカートを着る。髪をハーフアップにし小ぶりのネックレスと揺れるイヤリングを合わせてみる。リュックにはお手ふきや絆創膏や蓄電池、ハンカチなどを装備し、必要だと言われる前にそっと差し出すのだ。水族館や美術館、夜景散歩に行く何処かで見た事のある誰かの彼女のような姿である。

 さて、本当の私は一体誰なのか。
 服を着ている私は、それと同じ時間だけ服に着られているらしい。

 アナウンサーみたいだね、と言われた翌月に、アイドルみたいだねと言われた。大学生と間違われることにはもう随分と慣れた。
 因みに最近追加されたのは、歯科衛生士みたいだねという言葉である。マスクも服の一部ということで良いだろうか。

 私が服に着られない日は、果たして訪れるのか。
 検証は続きそうだ。

 

 

 

 

 

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