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「侍タイムスリッパー」映画としてのまとまりはいいが、粗がない分、映画的な面白みにかける感じはする

やっと時間を作って観た。なんとか今年中に見られたと言うことだが、最初に封切ったシネマロサは、いまだにお客さんがそこそこ入っていた。平日ということもあるが、歳とった夫婦みたいな感じの人が多かった。時代劇ということもあるし、近くの老人たちの口コミもあるのだろう。本当に、映画ってやつは時代を超えても、何が当たるがわからない。

インディーズでの映画ヒットは「カメラを止めるな」以来という話の中で、客が集まってきているところもあるだろうが、そんな気を衒った映画ではない。正攻法の時代劇として見ることができるし、まあ、作り手の映画に対する真摯な態度がこのヒットにつながった?と解説すればいいのかもしれない。しかし、私はかなり物足りなかった。「カメラ〜」を見せられた後は、他人にその映画を見てもらいたくて仕方なかったが、今回はそういうことは一切ない。そして、時代劇を面白くないと思う人に見せれば、毛色の違いは思えど、そんなにインパクトが強い映画ではないと思う。でも、時代劇復興を狙ってるみたいな話だから、それではダメなのでは?

で、侍がタイムスリップする話なわけだが、タイムスリップ映画としてうまくできているかといえば、その辺りは全く静かな内容で面白みがない。まあ、幕末に闘っていた、幕府側と長州側の人間が、一緒に時代を飛んだにもかかわらず、ついたところに30年のタイムラグみたいなものができたというのは、面白いが、タイムパラドックスがどうとか、彼らの子孫が出てくるとか、そういう話がないし、二人とも幕末に帰りたいみたいなことがないのも面白みにかける。

あと、140年後の世界に飛んで、その生活に驚くことがなさすぎるだろう。まあ、最初はそういうのも書いたのかもしれないが、あえて、この結果にしたというのが作り手の心なのかもしれない。その、話としてSFチックにしなかった分、役者たちの面白さでうまくカバーされているのはなかなかすごいところだと思う。

しかし、全てが私の知らない役者、知らないスタッフが作った映画としては完成度が高いのは確か。本当のプロが作ったってこれよりつまらない作品はいくらでもある。そういう下剋上的な部分が支持され、映画賞まで席巻してるということなのでしょう。だけど、こういう映画が作品賞取るのは、日本映画が本当に厳しいということを言っているようなものなわけでやはり悲しい。

で、主役の山口馬木也をはじめ、多くの歳をとった役者たちは結構なベテランなのね。それを知ったら、まあ完成度の高さは納得というところ。そして、実際の助監督もやっている、助監督役の沙倉ゆうのも、個性的な印象でこの映画を上手く引っ張る役になっている。そんな感じで、皆が適材適所で努力した結果、こういう映画ができたということだろう。

で、見ていて、なんでこの映画に太秦の撮影所が借りられたんだという疑問があったが、俳優たちの経歴を見ると、まあわかるような気もする。だが、この映画の撮影ができるほど、撮影所が空いているということに悲しみも感じた。

そして、この映画、当たり前のように、CGとかは使っていない。普通の殺陣師がつけた殺陣だけでアクションを見せている。そこの部分はしっかり決まっているので、見ていて緊張感はある。

私もこういう映画に対し、拍手は送りたいのだが、話題になったことをいいことに、映画賞がそこに食いつてくるのはちょっと違う気がする。あと20年くらい経った後で、この映画をベストワン作品とか言われて見せられたら「なんで?」ということになるのが見えているからだ。そう、娯楽時代劇は賞とは無縁のところでお金儲けして欲しいのが私の本音である。最近の映画マスコミには信頼感が全くないということだ。

監督のプロフィール見ると、ブライダルの撮影や企業ビデオなどを撮っていたようですが、これからは、そういうところから劇映画に進出したり、YouTuberが思いもよらない傑作を出してくる時代になると私は考えている。その先駆けとしては、なかなか微笑ましい一作であった。

で、最後にタイトルが出る前に、最後の一人がタイムスリップしてくるオチは大好きでした。



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