古典100選(3)枕草子
藤原道長とほぼ同時期に誕生し、ほぼ同時期に死没したとされているのが、清少納言である。
清少納言は、993年から約7年間、一条天皇の后だった藤原定子に仕えていた。
藤原定子は、『大鏡』にも登場した藤原道隆(=道長の長兄)の娘である。
『枕草子』は、清少納言が宮仕えの日々を送りながら書きためていった随筆作品である。
西暦1000年、藤原定子が子どもを出産した際に帰らぬ人になり、清少納言も宮仕えを辞めてしまう。
『枕草子』は、翌1001年に完成したといわれている。
では、その中で有名な第72段を取り上げよう。
ありがたきもの
①舅にほめらるる婿。
②また、姑に思はるる嫁の君。
③毛のよく抜くる銀(しろかね)の毛抜き。
④主そしらぬ従者(ずさ)。
⑤つゆの癖なき。
⑥かたち、心、有様すぐれ、世に経るほど、いささかの疵なき。
⑦同じ所に住む人の、かたみに恥ぢかはし、いささかのひまなく用意したりと思ふが、つひに見えぬこそ、難けれ。
⑧物語、集など書き写すに、本に墨つけぬ。よき草子などは、いみじう心して書けど、かならずこそきたなげになるめれ。
⑨男、女をば言はじ、女どちも、契り深くてかたらふ人の、末まで仲よきこと、難し。
以上である。
「ありがたきもの」は「有り難し」ということで、めったにないものという意味である。
①②は、現代にも通じるだろう。舅に褒められる婿と、姑に気に入られる嫁。めったにいないだろう。
③は、毛(=眉毛)抜きの道具のことで、一般的には鉄製なのだが、銀製だと見栄えはよいが抜きやすさは劣っていた。
④は、あるじの悪口を言わない家来という意味。上司の悪口を言わない部下は、めったにいないだろう。
⑤⑥⑦は、人としての欠点について触れている。まず、癖のない人はめったにいない。容姿や心ばえが素晴らしくて、まったく欠点のない人はめったにいない。同じ所で寝泊まりしている(=宮仕えしている)人で、最後まで自分の隙を見せずに振る舞うことができる人もめったにいない。いつかは、油断してボロが出てしまう。
⑧は、当時のあるあるネタで、今はほとんどないことだが、物語や和歌集などを印刷する時代ではなかったので、筆で書き写す作業があった。
一応、きちんとした紙に書き写して「写本」を作るわけだが、その際に墨が誤って付くこともなく、きれいに仕上がることもめったにない。
最後の⑨は、男女の仲もそうだが、女同士でいくら深い絆で結ばれていても、最後まで仲が良いままで終わることは難しいとのことである。
この段は、比較的読みやすいので、興味があれば他の段も読んでみることをオススメする。