法の下に生きる人間〈第9日〉
私たちが、死ぬまでの間に、いつ認知症になるかは誰にも分からない。
もちろん、認知症にならずに、最期まで不自由なく生きられることが一番の幸せである。
しかし、不本意ながら自分がボケてしまったり、家族が認知症になったりすると、認知症基本法に則り、国や自治体、サービス事業者が提供する施設のお世話になるわけである。
今日は、認知症基本法の第18条第3項に規定されている内容をみていこう。
【第十八条】
3 国及び地方公共団体は、認知症の人の状態に応じた保健医療サービス及び福祉サービスが提供されるよう、医療従事者及び介護従事者に対する認知症の人への対応を向上させるための研修の実施、医療及び介護に係る人材の確保、養成及び資質の向上その他の必要な施策を講ずるものとする。
以上である。
この条文に記載されている「保健医療サービス及び福祉サービス」を提供する施設として、私たちに身近なものが、「特別養護老人ホーム」(=特養)であるわけだが、この特養は、1963年に制定された老人福祉法に基づく名称である。
今では、特養は、1997年に成立した介護保険法に基づいて「介護老人福祉施設」と呼ばれるのが一般的であるが、名称が変わってもサービス内容や入所条件は同じである。
昔は、特養の順番待ちがなかなか回ってこなくて、入所条件が「要介護2以上」から「要介護3以上」に引き上げられてからは、少しマシにはなったが、それでも人気が高い施設である。
なぜなら、費用が安い上に、地方自治体や社会福祉法人が運営母体となっているから、経営が安定しているのである。
しかし、今後ますます後期高齢者が増加し、少子化によって若者が減少するならば、上記の条文で謳われている「医療及び介護に係る人材の確保」は果たして十分にできるのだろうか。
今では「65才以上の人が特養に優先的に入所できる」ことになっている年齢要件も、労働者の定年延長に伴って引き上げられるかもしれない。
そして、人件費などの財源確保が必要となれば、ますます介護保険料は上がっていくだろう。
知らない人もいるかもしれないが、介護保険料は、退職しても死ぬまでずっと払い続けなければならないのである。
認知症基本法の成立に伴って、関係法令の改正がいろいろと必要になってくるのも時間の問題であろう。