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貴羽るきの詩

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詩です。
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記事一覧

なにもない

置きもののように
生きたら 楽かな
つまらないだろう
ほこりにまみれて

うごく身体があることを
幸せと思わない
か細い声をもつ
わたしと あなたと 会って
ふたりで話すのも か細い

生きていたい
向かいあって
見つめあって
なにを考えているか知らない

知りたい
知られない
今すぐ会いたい

20200808

デンジャラスサーカス

からだを使って
わたしたち それぞれ綱をわたり
どちらかが落ちてもたぶん助けられない

ひびく声の まっすぐ美しく
今を正しくする
あなたみたいに生きられたら
お互いをそう思う

若いからだは
若くなくなっていく
使い切るまで

20200309

2020年3月7日に梅田ムジカジャポニカで聴いたデンジャラスサーカス(井手健介+ゑでぃまぁこん)の歌がすばらしく、自分もなんか創りたい気持ちが再燃して

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坂の町で

なんども同じひとを好きになって
思いだす
血の色
赤やみどりの
葉脈をたどって生まれた
言葉たち
見捨てられたのは季節ではなく私だった
いちども眠ったことがないみたいに言うから
その唇の乾いたかんじ
私はいつまでも見てしまう
荷物が増えていく
私は次第に痩せて
さいごに海が遺される
海を焼いてあなたは
しょっぱい、と少し笑う

20180407

声の蛇

消しごむが溶けて

音楽たくさん聞かされて

なんにも憶えられない

声は蛇だよ

生まれたとたんの森

お母さんのカメラ投げとばして

そのまま走って旅にでた

髪を切った

音を切った

からだのことがよくわからない

わたしの声の蛇はまだ

このあたりにいる

胸の、この、あたり

かわかない唇がいいね

ずっと話していて

生まれた日のこと

20171003

どうしようもない時の、

おぼえなくてもいい歌をおぼえられなくていらいらとする。わたしは人生に必要ないものだけど言葉はたくさん話せたほうがいい。人間を選んだところで諦めなければならなかったことをいつまでも根にもっている。脳が重い。あした日が射すかどうかわからないから目をとじている。何もしないで、部屋にこもって、ほろびたあとのことを想像して。美しい? 骨はきっと真っ白で、ほろほろと風化して月がのぼるたびに舞いあがる。空に

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あたまをとって

音をあつめて
画集にばらまく遊び
忘れていた声と
失くしたはずの色
血を流さずにすむ方法を
夢中で探しているうちに
ラップトップに落ちる夕日
髪を伸ばして守る
みんなのきれいな頭蓋骨
並べて自撮りして
業務スーパーではたらくおかあさん
その細い腕の
継ぎ目に棲む魚
銀色の鱗がひかるとき
ヨーグルトに朝を沈める
嘘のない生活から
おおきく一歩、で海に出る
目にしたものはいつか消えて
伝言板は風に還る

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はさみをもって、

おなかがいたいと嘘をつく子どもなんてどこにもいないということだけが言いたかった、息をしよう息を、見なくていいものはたくさんあって、それにしてもどこまでも素晴らしい名前だね大福は。ふにふに持ってたらいつの間にか溶けていた。わたしのこうふくが、甘い風になってだれかに当てられる、かくれんぼしてたらいつの間にかひとりになっていて首筋が、すん、とした記憶。ストーブであたためた体温計、きょうはもうかえろうね。

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うつくしいお土産

ふつうの人のふりをして
歩いていると
いろんな人に
あごを外される
たのしくないのでにこにこした
目がかわいて
映画だったらきっといちばんに
死んでしまうような目

わたしはわたしに裏切られる

生ものだったのだ、
箱を開けるまで知らなかった
おばあちゃんの手
わたしの手よりきれいでうれしい

チョコレートをひとつずつ
ていねいに数える
これからをひとつずつ
ていねいに数える

20170202

忘れていた手紙

やぎの革でできたものを買って
(めったにそんなことしないけど)
きれいな色の、ごはんをたべようか
目にみえるものはほとんど
燃えれば灰になってしまう
髪の毛をすこしずつ風に溶かしながら
今年最初で最後のけんか
言葉をひろうために
ずっとうつむいて
みんなが木になることを
期待して

正しい人たちが集まって
正しくののしりあうのを
遠くから見る

わたしがこれからたくさん触るやぎの革
運ばれてゆくお

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月は遠く

雨が降っている、と嘘をついた

声だけで話すときは

声の色を消して

届ける 震えだけを

わたしたち、何かの力を借りなければ

わたしたちでいられない

ひかる画面や音の出る穴

プラスティック

そのほか

たとえば未来にゆけば

わたしは、もっとたくさんの

わたしたちを、つくる

はぁ

なんにも終わらない

雨はまだ止まない

ずっと、止まない

(『現代詩手帖』2016年11月号掲載

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