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連作三十首 火球と巻貝
階段を入り日はそよと流れ落ち床にゆらめく光の渚
霞立つ書斎へつづく鍵穴を覗けば夜の砂丘が展く
とおく焚火は白雨のうちより鳶を呼ぶ桟道歩むごとき随想
月光に蛙は掌をかざす骨の隧道透かし見るまで
火があった あなたの頬で揺れる穂へ手渡すだろう二三の巻貝
冷えきった砂原の底に置くときの琉金の鰭のつややかな水辺
――今晩は珊瑚の小指が降るでしょう。錆びない傘と祈りの準備を――
月を孕む淡い双
連作三十首 雪明りの観測
朝雨にけぶる彼方のビル群の間を泳ぐ巨大なアロワナ
振り向けば秋の舗道を駆け抜ける銀狼の散らす落葉のあと
しんしんと骨片のふる地下書庫で灯火にひらく菌類図鑑
頭部なき埴輪ばかりが並び立ち祈りへ向かう顔を知らない
布という声がして近づけばカーテンの芯にひらく果樹林
雨上がり飛び立つものにPapilioと呼びかけてみる虹彩のなか
音もなく栞紐を揺らし秋宵は通り過ぎゆく悪寒を置いて
くちばし