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自由詩

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2022年4月の記事一覧

参道

幾日も前から、私は骨のように白い石段を上りつづけていた。朱に染められた鳥居の一群が正確無比な間隔で立ち並び、蔦に覆われた伽藍の存在をその先に予感させた。傾く日の光を背に受け、額から一筋の汗がしたたり落ちる。忘れ去られた信仰は、夏の木立のなかで猫のかたちをして眠っていた。

誰かが夜闇に放った錦鯉の群れが、廃止された参道に沿って夜ごと徘徊している。彼らのその模式的な参拝が、あるいはその瞳が放つ鈍重な

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群衆

世界を滅ぼす衝動にとりつかれた人間が最初にすべきことは、カーテンを開いて、眼下に広がる海のような群衆の目を、一人一人の目をよく確認することである。彼らの目に映るのは、私でも、あなたでもない。銅貨を詰めるためのほこりっぽい皮袋や、荷を運ぶために揺れる馬の肩。ひづめの音がひびく曲がりくねった街路には、チョークで描かれた黄色の汽車が走っている。問題を先送りしつづけていたのは一体誰だったのか。いま一度考え

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