参道

幾日も前から、私は骨のように白い石段を上りつづけていた。朱に染められた鳥居の一群が正確無比な間隔で立ち並び、蔦に覆われた伽藍の存在をその先に予感させた。傾く日の光を背に受け、額から一筋の汗がしたたり落ちる。忘れ去られた信仰は、夏の木立のなかで猫のかたちをして眠っていた。

誰かが夜闇に放った錦鯉の群れが、廃止された参道に沿って夜ごと徘徊している。彼らのその模式的な参拝が、あるいはその瞳が放つ鈍重な輝きが、伝承された儀式の正当な順序を乱してしまう。私がその参道を発見したときにには、儀式の正確な記録は既に失われていた。そう、彼らには舌がないのだ。

夕闇を解体せよ。
その瞬間を、私は、雲間から目撃しなければならない。
あるいは、目撃させられねばならない。
Hiatus
平原を急襲する、落雷のように。

幾日もの間、私は骨のように白い石段を上りつづけていた。口ずさんでいた詠み人知らずの歌は、いつしか意味を持たぬ祈りに代わった。舌の先で燃えていたあおいろのほのおは、いつしか実体を持たぬ刺青に変わった。いま私の手のひらの上にある、いびつな紋様、それが私のすべてなのだ。なぜなら我々を突き動かすのは、この心臓のふるえなのだから。