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マリーナで朝食を
真っ赤なワンピースに身を包んだおばあちゃんが、笑顔でお客さんを見送っている。そんな場面にちょうど出くわした私。
「入れますか?」
「もちろん。どうぞ」
神戸で迎えた最初の朝は、喫茶 マリーナで一呼吸。
店名は港町神戸の何らかの由来だろうか。
腰の曲がったおばあちゃん。その背中に、秘められたロマンスがありそうな。
テーブル3つとカウンターだけの小さなお店。
サラダとバタートーストとゆで卵。コーヒーはアイスで。
ごくごく一般的なモーニングメニュー、平凡な朝食。
だからこそ、良い。
神戸は私にとって第二の故郷。
普通が、落ち着く。
でも平均値をはるかに越えたアイス・コーヒーの美味しさは、寒い朝でもお腹に沁みる。
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「今日は寒くなりそうねえ」
カウンターでコーヒーを啜りながら、おばあちゃんが話しかける。
天気予報は雨のち曇りだった。けれど、朝、ホテルの窓のカーテンを開けると、かすかに青い空が見えた。
思っていたよりずっと暖かいと私が答えると、おばあちゃんは、うんうんと頷く。
他のテーブルには、常連さんだろうか。ご隠居様たちが、コーヒーを飲みながら、新聞を広げている。
あてどなく歩いて、ふと気になった店に入る。
大当たりもあれば、ハズレもある。それが、旅の醍醐味。
トアロードを歩いていてよかった。
マリーナに出会えてよかった。
笑顔で見送ってくれたおばあちゃんの耳たぶには、大きなイヤリングが揺れていた。
そして、この日の神戸には、見事な青空が広がった。
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