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夜勤明けで鎌倉に行ったら、1000匹のホタルが飛んでた話


鎌倉では、毎年梅雨のころにホタルが飛ぶ。
 

北鎌倉の山のほうではなく、海のほうでもない。鎌倉駅チカ徒歩10分あたりでホタルが飛ぶ。
 

そんなばかなと思うだろうが、本当である。



僕は介護士としての新人時代、夜勤明けで帰らずその足で遠出するのが好きだった。若気の至りである。
 

若気の至りの詳細はコチラ↓


その日も、夜勤が明け、職場近くのスーパー銭湯でひとまず心身を回復する。その足で駅に向かい、電車に飛び乗った。
 

向かう先は決めていなかったが、とりあえず来たやつが横須賀線直通だったので、鎌倉にした。
 

当時、ひそかにハマっていた遊びがある。
 

それは「PVの主人公ごっこ」というものだ。
 

この遊びを僕に伝授した同期入社のやつは、わりと頭がイカれていた。
 

これは街中を歩いたり、電車の車窓から流れる景色を見たり、家でぼーっとしているときでも、とにかくどんな場面でもできる。イヤホンを装着し適当に好きな曲をプレイすれば、もう準備は完了である。
 

あとは目の前の景色を下地にして、今聴いている曲の架空のプロモーションビデオを脳内に流し、その真ん中に自分を映しながら、酔う。自分に酔う。どこまでも自分のためだけの遊びである。
 

このクソしょーもない、0円でできるエコでオサレな自慰行為を、その同期は飲みの席で自信満々にプレゼンした。
 

他の同期達は軒並み鼻で笑ったが、僕だけが食いついた。その遊び、良い。お金いらんし。エコだし。考えたお前は天才か、と。
 

その後は他の同期に取り残されつつ、そいつと僕は、PV主人公ごっこがメンタルヘルスに悩む現代日本人を救う可能性について議論した。
 

というか後で気づいたのだが、PV主人公ごっこと名付けていなかっただけで、僕は音楽を聴くようになった13歳頃からずーっとこの手の遊びをやっていた。下手したらその同期よりキャリアが長いかもしれない。そいつ以上に自分がイカれていた。
 

てな訳で、鎌倉の街並みをオカズに、贅沢なPVごっこをやろうと思い立ち、意気揚々と電車に飛び乗った。

 
ちなみにその同期は情に厚く、近年マレに見るいいやつofいいやつであり、わりと尊敬している。イカれ仲間だし。
 
 

(小町通り入り口の鳥居。着いたら夕方だった)
 




スーパー銭湯でわりとダラダラしてしまったので、鎌倉に着いたころには日は暮れかけていた。
 

いやむしろ、暮れかけのほうが都合が良かった。僕はフォーマルな鎌倉観光をしに来た訳ではなく、鎌倉をオカズにするだけなのだから。薄暗いほうがいいに決まっている。
 

電灯の灯り始めた小町通りなどは実に雰囲気がよく、僕はジャミロクワイあたりを流しながら、ストリートのど真ん中を肩で風切って歩いた。そのままくるくると小躍りしそうな勢いだったが、通報が怖いのでそこまでしなかった。でもスキップくらいはしていたかもしれない。
 

そんなふうにひとりゴキゲンで鎌倉をくねくね歩いた。プレイリストが終わる頃に、鎌倉の総本山である鶴岡八幡宮にたどり着いた。
 

せっかく鎌倉に来たなら挨拶くらいしていくかと思い、赤い鳥居をくぐる。
 

するとなんと、夜の八幡宮にかなりの行列ができていた。
 

(鎌倉で食べた「湘南豚餃子・まる八」。うまい)
 


突然の行列。奥でタピオカでも売っているのか。
 

列の向かう先だが、八幡宮の本殿ではなく、その脇の暗がりに続いているようだ。客層は老若男女といった感じで、ファミリーもカップルも団塊のグループ客もいた。
 

好奇心のみでとりあえず並んでみる。
 

30分くらいは待っただろうか。列が長くて待っていたというよりは、なにかの準備中で「入場待ち」といった雰囲気だった。
 

係員がしきりに、「撮影禁止」「私語禁止」と呼びかけている。いったい何が始まるのか。鶴岡八幡宮の巫女によるシークレットライブだろうか。君の名はみたいなやつだろうか。
 

ただ、列の先は本当にガチの真っ暗である。
 

期待と不安を膨らませつつしばらく待っていると、ついに列が動き始めた。
 




列に沿って暗がりへと進み、電灯の光が届かなくなるころに、「1匹目」を見つけた。
 

私語禁止と言われた人々が、次々と続々と、ウィスパーボイスで「あっ、いた!」と囁き始める。
 

薄黄緑の淡い明かりが、いかにも迷い込んできたようなふわふわした軌道を描きながら、ほんのり点滅していた。
  

  
  

  


ホタルであった。
 

  
  
  





1匹目が見つかったあとは、もう圧巻だった。
 

上も下も前も後ろも右も左も斜め前もホタルだらけ。
 

ホタルがうじゃうじゃ。
 

田舎に行くと天の川が綺麗に見えたりするが、まさに天の川の中にいるみたいな感じだった。
 

東京都下育ちの僕は、ホタルを見たのが初めてくらいだった。
 

初めてでいきなり見たのがコレだった。
 

ひとりで来ていたが、「すげえ」と声に出た。
 

(鎌倉での写真たち。当時よくこうやって写真をコラージュにまとめてはオサレな気分に浸っていた)
 
 


これは毎年梅雨の時期恒例の、「蛍放生祭」という祭りの関連イベントらしい。
 

なんでも育てたホタルを八幡宮の池に一斉に放って、生き物に感謝する祭りだそうだ。
 

人が混み合いすぎるとホタルの健康状態に関わるのだろう、毎年大々的な告知はされていない、「地元の人は知っている」みたいな祭りだ。
 

公式ホームページより↓


"「蛍放生祭」は、蛍の生育と放生を通じて豊かな四季と生命の尊さを思い、その中で生きる私たちをお護り下さる神々に感謝の気持ちをお伝えするお祭りです。"

https://www.hachimangu.or.jp/
 

放つホタルの総数約1,000匹。
 

蛍放生祭の日から1週間、一般公開されるホタル鑑賞イベントが「ほたるまつり」だそうだ。だから僕が偶然参加したのは「ほたるまつり」ということになる。
 

なんだかもう偶然居合わせたにしちゃすごすぎるイベントだった。
 

計画も目的もなくぶらぶらと街歩きすると、思いがけずいい感じのお店やら公園やらに出会えるし、ごくたまーに出先で新しい友人もできたりするので、ノープランのお散歩は昔から好きだった。
 

そんな僕のお散歩歴の中でも、最大級の出会いが、鎌倉のホタルだ。
 

PVの主人公ごっこはしなくても良いが、なんかしらの発見があったりするので、お散歩はオススメである。特に夜勤明けなら尚更オススメである。
 

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