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#読書

田山花袋『重右衛門の最後』における没個性的な語り手による問題意識の顕在化について

田山花袋『重右衛門の最後』における没個性的な語り手による問題意識の顕在化について

 「重右衛門の最後」は田山花袋初期の名作として、「布団」と並び、高く評価されている。しかし、二者は全く異質な印象を読者に与える。そのことを、「共同体」と「個」の人生という対比で表現したい。
「布団」の語り手である竹中時雄は作家である。作家という職業は、少なくとも小説の中にあっては特権的な語り手たりうる存在であって、それは強い「個」を持っている。対して、「重右衛門の最後」における語り手、一人称を自分

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《元に戻ってほしくないこと》

《元に戻ってほしくないこと》

――パオロ・ジョルダーノ著『コロナ時代の僕ら』を読んで――

 カミュのペストに続いて、センセーショナルな本を読んだ。作品は27の細かな章と邦訳の際に著者あとがきとして付された断章「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」から構成されたエッセー集である。彼の住むイタリアの様子と、その混沌の中にあって彼が考える過去・現在・未来への痛切な批判が飾り気のない文体で語られる。
 著者ジョルダー

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