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生きること、学ぶこと


イノベーターを育てるカナダのICEモデル



 カナダで普及している学習者を育てるためのICEモデルを日本に導入し、広島県の公立中高校100校で取り組まれてから10年以上経つ。現在も全国の高校、大学で草の根的にICEを活用した教育実践は行われているが、今、社会人の教育、イノベーター育成への取り組みが始まっている。

ICEモデルはなぜ学習者を育てるのか?

 ICE(アイスと呼称する)は、Informations(知識や情報)- Connections(つなげる)- Extentions(応用する)の頭文字である。新しい知識を学んでも、そのままではいずれ忘れてしまう。自分のものにするためには、適切な問いと指導により、すでに持っている知識や経験などに結びつけることが必要になる。一旦自分のものとなった知識や知恵は、新たな創造を生む応用へと発展していく。これが学びの基本的なプロセスである。


ICEモデルの歯車


 学校教育では、学習と評価が別々に行われる。どういう問題が起きるのか?生徒や学生は、良い評価を得るために、教師の示す目標に叶うために勉強するようになる。本来、教育はそれぞれの個人が潜在的に持っている個性、才能を引き出すために行うものであるが、評価が別々にあると本来の学習ができなくなってしまう。これを変えるためには、スー・F・ヤング先生(カナダ・クィーンズ大学)は、アクティブラーニングにつなげる「学習と評価が一体となった」学びのモデルを開発した。それがICEモデルである。

なぜ学習と評価は一体でなければならないのか?

 現在、学校で行っている評価は、evaluationである。教師の目標にどれだけ近づいているかを減点評価するものである。つまり正解の数である。しかし、学習に必要なものは、正解の質である。これをassessmentという。目的とした学びのアウトプットがあれば学習者にとっては何らかの成果があることになる。本当の評価(assessment)は、加点評価とすべきである。学びは自ら設計して、目標を決めるもので他人から与えられるものではない。
従い、それを評価できるのは学習者である。メタ学習者になるということである。本当の学びには、失敗か、成功かしかない!

どのようにしてconnectionsするのか?

「Connectionsのやりかたですが、一番基本的なことは、得たIdeas(知識)にすべて???疑問を持つことです。疑問を投げかけるということは、即ち自分の脳が学び始めています。ハテナ?ハテナ?と自問自答することです。
「つなげる」は、英語では、”hook″と言い、釣り針に似た形をしている。この釣り針を逆さにすれば、クエッションマーク(?)の形になる。すなわち、「質問を投げかける」ことで脳裏に、”hook″され、記憶にいつまでも残り、深い学びとなります。hookには,理解するという意味もあります。それほど質問は大切なことです。」(Gary土持先生)

問いとフック


なぜ、問いは、connectionsを促すのか?

 問いには、基本的な問い・深化する問い・洞察のための問い・本質の問いがある。
基本的な問いは、What?Why? If? How? である。
深化させる問いは、本当にそうなのか?そもそも----? どうすれば-----? などがある。
洞察のための問いは、それが成り立つ条件は? にもかかわらず、そうなのかはなぜか?など対立や拮抗する概念との関係を問う。
本質の問いは、だから、何か?(so what?)それで、どうするのか?(so how?)どうあなたは関わっていくのか?などがある。
これらは、学習者の深い学びを促すので、深いconnectionsを誘発することになる。(柞磨昭孝先生「問いの構造化」より)

ICEモデルはドラッカーのイノベーションに適合する戦略

 ドラッカーのイノベーション(シュンペータは「新結合」と称する)とは、学び通して (ideas)、既存のものとつなげて新しい視点を見つけ (connections)、自分の世界感を新たな分野で創造すること(extensions)である。つまりICEのフレームワークそのものである。
Connectionsができないと、新事業や新しい開発などのイノベーションに発展していかない。

 ドラッカーのマネジメントは実践であり、成果を上げることを第一義とする。 科学を超える人間力が必要である。マネジメントとは結果があって初めてマネジメントできているという。結果を出すためには「学習」が必須。その「学習」の中身は①Art ②Craftという専門性、Identityを必要とする。経営マネジメントに必要なものは科学を超える人間力である。(AIにはできないもの)即ち、「モチベーション」「直感」「ビジョン」「洞察力」がより重要である、と言う。 
           
 社会の諸問題を解決することがイノベーションであり、これができるのは自分の持っているもの(つまりICEのConnectionsによるIdentity)が、社会に及ぼすインパクトをマネジメントできることが必要である。人間は社会的存在である。異文化に触れることで他者の存在を認めて、そこで自分を自由にすることができる。(Connectionsというプロセス)

イノベーターや事業の育成で大切な視点とは?

 ICEモデルは、学びのフレームワークで、たったの三段階というポータブルな設計である。
ひと、モノ、金の複雑な組み合わせを考える事業の評価はとても難しい。ベンチャーキャピタル悩ますところである。その要因は、量的評価と質評価を混在させて考えることにある。

 イノベーターの育成も同じことである。イノベーターになる資質のある人は、突き出た考えや能力を持っている。しかし、これを放って置くと、偏ってしまう。その人に内在するもう一つのコアとなる質的資質、批判的に自分を見る考え方を引き出すことができないと、自画自賛的な人間になってしまう。その質を見つけるのは加点法であるICEルーブリックが最適である。自分で信じているものをさらに磨きをかけるために批判的に見つめ直すことである。
ICEはそれぞれがレベルではなく、フェイズ(ステージ)であるので、無限に繰り返されることで、イノベーターはメタ学習者へと成長できる。


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