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『何でもできる』は『何もできない』

[要旨]

ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんによれば、頭痛がする人が、薬局に薬を買いに行った時、「下痢にも効いて、頭痛にも効いて、風邪にも効く薬」と、「頭痛専用の薬」の2つの選択肢があれば、「頭痛専用の薬」が選ばれます。すなわち、「何でもできる」は「何もできない」と顧客に認識されてしまうので、「自分が何屋なのか」、「何の専門家なのか」が、顧客に明確に伝わるようにすることが重要ということです。

[本文]

今回も、ブランディングコンサルタントの渡部直樹さんのご著書、「愛され続ける会社から学ぶ応援ブランディング」を読んで、私が気づいたことについてご説明したいと思います。前回は、渡部さんによれば、ブランドの世界観を伝える体験のことを「ブランド体験」と呼び、ブランド体験は、ホームページ、SNS、パンフレット、チラシ、店舗デザインや接客などで、ブランドの世界観を表現するものであり、顧客は、それらのブランド体験に振れることで、自身の心の中にある記憶のコップに水を貯めていくということについて説明しました。

これに続いて、渡部さんは、ブランディングを奏功させるためには、「強み」を絞り込むことが大切ということについて述べておられます。「多くの企業では、伝えたいことを絞り込めていないため、前項にもあったように、バラバラの記憶のコップに水を注いでしまっているのです。経営資源が潤沢にある大企業なら、それぞれのコップに水を満たすことができるかもしれませんが、小さな会社でそんなことをしていては、すべてが中途半端に終わるだけ。しかも、すべてのコップを満たしたとしても、確実に選べれるとは限りません。

例えば、あなたの大切な人が頭痛で苦しんでいたとします。薬局に薬を買いに行った時、次の2つの選択肢があれば、どちらを選ぶでしょうか?●下痢にも効いて、頭痛にも効いて、風邪にも効く薬。●頭痛専用の薬。恐らく、後者を選ぶはずです。何にでも効く万能薬が売れるのは、ゲームの世界だけ。ビジネスの世界での万能薬は、何でも屋さんみたいなものです。

本当に必要になった時、あるいは高くてもよいものを選びたい時、何でも屋さんから買うことはありません。その業界の専門家を選ぶと思います。『何でもできる』は『何もできない』と言っているのと同じです。そのためのブランディングでは、まず、自社ブランドの強み(価値)を、上位概念で絞り込み、それをひとつの軸にしてお客様に伝えていきます。そして、その価値を知ってもらった上で、関連性の高い順に残りの価値を伝えていくのです。

応援されるようになれば、細かな部分まで伝えなくても、お客様が勝手に調べてくれるようになります。ブランディングでつまずかないためのひとつ目の方法は、お客様がブランドを選ぶ時に、ノイズ(雑音)となるような情報を伝えないこと。『自分が何屋なのか』、『何の専門家なのか』、その1点をクリアに理解できる情報だけを届けるのです」(113ページ)

現在は、大企業でも標的顧客を細分化し、商品(製品)開発や店舗開発を行っています。例えば、作業服、アウトドア用品、スポーツウエア等を販売するワークマンは、ワークマン、ワークマンプラス、#ワークマン女子、ワークマンプラス2などの複数のストアブランドを開発しています。販売する側の都合で考えれば、1つの店舗で、一般人向け、事業者向け、女性向けの商品を販売できます。

しかし、ストアブランドを細分化することで、例えば、女性がアウトドアウェアを欲しいと考えたときは、ワークマン女子に行けばよいというように、「心の中の記憶」が思い起こされるのでしょう。これを、逆に述べると、「『何でもできる』は『何もできない』と言っているのと同じ」という、渡部さんのご指摘のようになるのでしょう。

2024/7/9 No.2764

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