リーダーを『二人三脚』で育成する
[要旨]
ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、同社社長時代に、社内に小さなチームをたくさんつくろうとしましたが、それにあたって、しばらくリーダー候補と行動をともにして、リーダーとしての行動や判断方法を見て学んでもらったそうです。このように、リーダーを養成するには、本人が学ぶだけでは限界があるため、経営者等からの積極的な関与が欠かせません。
[本文]
今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長だったとき、「リーダーと5人程度の小さな三角形」、すなわち、自律的に動けるリーダーと小さな組織をたくさんつくることで、会社全体を迅速に成長させることができるようにしたということを説明しました。これに続いて、迫さんは、リーダーを増やすために、「二人三脚」で指導を行ったということをご説明しておられます。
「ミスターミニットは、良くも悪くも、職人気質を持つ社員による現場がすべてで、そこにいわゆるマネジメントの発想は、あまりなかった。(迫さんが部長に抜擢した)清水だって、現場からは、ぶっちぎりの信頼があったけれど、マネジメントの経験が豊富にあったわけではない。いくら清水に並々ならぬやる気があったとしても、『じゃあ、これからは部長としてがんばってください』と放り投げたところで、うまくは行かなかっただろう。そこで行ったのが、『二人三脚』だ。
清水だけではない。現場から抜擢した社員たちとは、初めはがっぷり四つに組み、二人三脚でひとつのプロジェクトを動かした。僕は、現場に助けられ、たくさんの経営のヒントをもらったけれど、マネジメントや『仕組みづくり』に関してだけは、一日の長がある。今度は僕が伝えるターンだったというわけだ。共に戦略を立て、議論し、打ち合わせにも会議にも一緒に出る。どんな視点で、どんなことを考えているのか、どんな計算をして、どんな分析をしているのか、僕のやり方をすべて伝え、また、盗んでもらう。
そして、初めは僕主導で進めていた仕事を少しずつ渡して行き、僕の権限がゼロになったところで二人三脚を解散する。(中略)僕は、人を育てる上で最も適切な方法は、リーダーが一緒に働いて実際に仕事を見せることだと思っている。(中略)いまは、この二人三脚の役目は、僕ではなく、各リーダーが担っている」(153ページ)
私は、迫さんのようなリーダー育成の方法が、必ずしも、妥当であったり、普遍的であったりするとは考えていません。ただ、事業活動で功績がある従業員の方を論功行賞的に管理職に昇格させた結果、うまくマネジメントできず、業績を下げてしまうという例は珍しくありません。もちろん、マネジメント業務は適性もあるので、教えさえすれば誰でも身につけることができるという訳ではありません。でも、迫さんが実践したように、ある程度は時間をかけて経験を重ねてもらわなければ、経営者の期待するようなリーダーを育成することはできないことも事実だと思います。
しかし、現在でも、日本の会社の多くは、ほぼ「異動辞令」だけで管理職をつくり出していると思います。そのようなことが行われている理由はひとつだけではないと思いますが、マネジメントスキルは、そのポジションに就いた人が自ら学ぶことと考えられているからだと思います。しかし、それは、単に、経営者が、自分の分身を育成するための労力を惜しんでいたり、リーダー育成に関心がないということの裏返しだと思います。場合によっては、経営者自身に、リーダーを育成する能力がないために、育成そのものを避けているのかもしれません。したがって、事業を安定的に拡大していくためには、経営者は、リーダーを育成する役割を果たす役割を担わなければならないということです。
2023/10/18 No.2499