『できない人』を『仕組み』で活かす
[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、人間の脳や体は、もともと、勉強や仕事をするようにつくられていないので、例えば、100人の従業員がいれば、そのうち10人くらいは自主的に努力をするものの、残りの90人は自主的に努力をしようとはしません。では、下位90人に対しても上位10人を基準に組織を運営すベきかというと、それよりも下位90人に合わせて仕組みを作り、全員を活かすようにしたほうが賢明であり、経営者にはどのための仕組みづくりをする役割が求められているということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、自らが経営する会社について、「自分がいないと回ってほしくない」と考える経営者もいますが、それをこじらせると、「自分がいなくなった後は、失敗すればいい」という曲がった考え方をしてしまうので、会社を残したいと考えるのであれば、「自分がいなくなってもうまくいってほしい」と考えて会社の体制をつくることが経営者の重要な役割だということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、人間はもともと楽をして生きようとする性質があるという考え方、すなわち、性弱説を前提に仕組みをつくることが重要だということについて述べておられます。「『なるベく早くメールを返信してほしい』という要望があるとします。経営者をしていると、意思決定のためのスピードが求められます。そのため、部下ヘの確認でメールを送った際、できるだけ早い返信がほレいのです。とはいえ、『なるベく早く』では、1人1人によって認識の違いが生まれます。『なるベく早くだから10分以内だ』という人もいます。
『その日中に返せば、なるベく早いほうでしょう』という人もいます。そのため、仕組みで解決して、もっと解像度を高く、ルールを設定すベきです。『私からメールが届いたら、3時間以内に返信してください』というように私は設定しました。なぜなら、3時間以内であれば、どんな状況でも1回はメールチェックができるからです。長い会議に入ったり、研修講義を受けていたりしていても、3時間以上、休憩がないシーンは考えられません。そこまで考えて、『3時間以内の返信』というルールを設定しました。これが、仕組みで問題を解決する発想です。
他者からの明確な指示があって初めて仕組みは機能します。自分だけの努力ではなく、他者の評価が絡むことで、動かざるをえなくなります。『やればできる』という便利な言葉があります。誰しもが同じことを考えています。しかし、放っておくと、人はラクを求めます。『なるベく早く』を『今日までに』と解釈します。『手が空いたら』を『完全にヒマになったら』と解釈します。そうやって、自分にとって都合のいいように考えてしまいがちです。勉強をしない。仕事をしない。そのほうが『自然な状態』だからです。勉強や仕事をするように人間の脳や体はつくられていません。
それを、『計画』や『習慣』によって変えていき、社会を形成してきたのが人類の歴史です。自然を変え、不自然を当たり前にしてきたのです。なぜ、私たちは集団で活動しているのでしょうか。別に、1人1人が個人として生きていけるのであれば、組織などつくらなくでもいいはずです。たとえば、100人いれば、そのうち10人くらいは、放っておいても頑張ります。
その人たちは、精神論だけで動くことができるのです。では、それを基準に組織を運営すベきでしょうか。『あの10人を見習って頑張らないと』と、個人を責めたほうがいいのでしょうか。違います。圧倒的多数である『できない人』に合わせて、仕組みを作り、全員を活かしたほうがいいのです。そのためには、『頑張らない理由』が何なのか。人間の本質を見抜き、それを前提にした『仕組み化』が必要なのです」(46ページ)
安藤さんは、「圧倒的多数である『できない人』に合わせて、仕組みを作り、全員を活かしたほうがいい」というご指摘は、多くの方がご理解されると思います。しかし、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、「仕事ができる上位10人を見習って頑張らなければいけない」と、下位90人の個人を責める経営者の方は少なくないということです。その理由として考えられることは、起業しようとする経営者の方のほとんどはビジネスパーソンとして優秀であり、また、これまで多くの努力を重ねてきたため、部下たちにもそれを求めてしまうからだと思います。
もちろん、経営者の方が後進のビジネスパーソンに対して、自分を手本にさせようとすることはよいことだと思います。しかし、部下に対してそれを行うことが適切かと言うと、私は、必ずしもそうではないと考えています。なぜなら、少し失礼な表現であることをご容赦いただきたいのですが、中小企業の従業員として働こうとしている人は、その会社の経営者の方のように大志を持っているとは限らないからです。すべての方がそうだとは言えませんが、従業員の方の多くは、経営者になろうとは考えていないのが現実であり、そうであれば、経営者の方は従業員の方に対し、自分と同じ価値観を持っていないという前提で育成をしたり、仕組みをつくったりすることが妥当と言えるでしょう。
そして、もうひとつの理由として考えられることは、経営者の方の多くは、仕組みをつくることの重要性を認識していなかったり、仕組みづくりのための経験やスキルを持っていなかったりするからだと思います。繰り返しになりますが、安藤さんは、「圧倒的多数である『できない人』に合わせて、仕組みを作り、全員を活かしたほうがいい」とご指摘しておられます。例えば、以前、ご紹介した、サイゼリヤの元社長の堀埜一成さんは、サイゼリヤは、1000店のお店を運営しており、それを円滑に運営するためには、あまりスキルが高くない従業員に働いてもらっても、顧客から不満を持たれないようにする仕組みをつくることを目指していると述べておられます。
この堀埜さんと同じ考え方をしている経営者の方は少なくないと思いますが、経営者全体の中では、まだまだ割合は少ないと思います。確かに、能力の高い従業員が多いことに越したことはありませんが、現実的には、それほど能力が高くなくても力を発揮できる仕組みをつくる方が会社全体の業績を高めることになります。したがって、経営者の方は、自分と同じような高い能力を持つ従業員を育成することよりも、まず、普通の能力の従業員でも力を発揮できる仕組みをつくることが重要であると、私は考えています。
2024/12/25 No.2933