【ジョアン・ミロ】版画 / 銅版画作品査定鑑定買取致します

井浦歳和　ロイドワークスギャラリー roidworksgallery 絵画鑑定•査定

2025年1月27日 22:08

ミロの銅版画作品を網羅的に収録したカタログレゾネとして、ジャック・デュパン（Jacques Dupin）編纂の『Miro Engraver』があります。このカタログレゾネは全3巻から成り、第1巻は1928年から1960年までの作品、第2巻は1961年から1973年までの作品、第3巻は1973年から1975年までの作品が収録されています。各巻には、2点のオリジナル銅版画が収められており、ミロの銅版画制作の全貌を知る上で貴重な資料となっています。

◎ジョアン・ミロの版画作品

ジョアン・ミロ（1893年–1983年）は、スペイン・カタルーニャ出身の画家であり、20世紀を代表する芸術家の一人です。彼の作品は、シュルレアリスムの影響を受けつつ、独自のスタイルを確立し、絵画、彫刻、陶芸、壁画など多岐にわたる分野で活躍しました。特に版画制作においては、リトグラフや銅版画などの技法を駆使し、独特の表現を追求しました。

ミロは、1948年にパリのラクリエール工房（銅版画）やムルロ工房（リトグラフ）と協力し始めてから、版画制作に深く没頭するようになりました。彼は、版画の持つ独特の質感や手作業による工程に強い愛着を抱き、生涯を通じて数多くの版画作品を生み出しました。

ミロの銅版画作品には、彼の特徴的なモチーフである月や星、女性、鳥などが多く描かれています。これらのモチーフは、彼の内面的な世界観や詩的な感性を反映しており、観る者に独特の幻想的な印象を与えます。また、彼の銅版画作品は、リトグラフとは異なる深みのある線や質感を持ち、ミロの多彩な表現力を感じさせます。

◎代表的なシリーズ

1. 『コンステレーション（Constellations）』シリーズ

『コンステレーション』シリーズは、1940年から1941年にかけて制作されたミロの代表的な作品群です。このシリーズは夜空や宇宙をテーマにしており、星、月、鳥などのモチーフが幻想的に描かれています。全23点から成るこの作品群は、第二次世界大戦中に制作され、混乱の中での希望や詩的な感性を表現しています。元々はガッシュと水彩を用いて制作されましたが、後にリトグラフとして再現されました。これにより、シリーズの幻想的な雰囲気とミロ独自の美学が広く知られるようになりました。

2. 『アラ・フォセール（A l’Encre）』シリーズ

『アラ・フォセール』シリーズは、エッチングやアクアチントといった銅版画技法を用いて制作されています。「アラ・フォセール」というフランス語のタイトルは「インクで」という意味を持ち、詩的要素と抽象的な表現が融合しています。このシリーズでは、鳥を中心としたミロ特有のモチーフが描かれており、深みのある線と形が際立っています。詩情豊かな世界観と抽象的なフォルムが組み合わさったこのシリーズは、ミロの銅版画の中でも特に詩的な作品群として知られています。

3. 『ユビュ王（Ubu Roi）』シリーズ

1966年に制作された『ユビュ王』シリーズは、フランスの劇作家アルフレッド・ジャリの戯曲『ユビュ王』にインスパイアされたリトグラフ作品です。このシリーズは全13点から成り、大胆な構図と鮮やかな色彩が特徴的です。社会風刺やユーモアが随所に感じられる作品で、ミロの独創性が際立っています。リトグラフの技法を駆使して描かれたこのシリーズは、ミロの多様な表現手法を象徴する作品群です。

4. 『カタルーニャの風景（Paysages de Catalogne）』シリーズ

ミロの故郷カタルーニャ地方への愛着を反映した『カタルーニャの風景』シリーズは、自然や文化を抽象的な形態で表現した作品群です。このシリーズでは、郷愁や愛情が詩的な形で描かれており、エッチングやアクアチント、リトグラフなどの技法が用いられました。カタルーニャ地方の自然の力強さと詩情が融合し、ミロの芸術的感性が存分に発揮されています。この作品群は、彼の故郷への深い思いを象徴しています。

5. 『詩人とのコラボレーション』シリーズ

ミロは詩人や作家との共同制作を積極的に行い、その結果として多くの版画作品が生まれました。このシリーズの代表例として、ルネ・クレヴェルの詩集『オーロラの指輪（La Bague d’Aurore）』の挿絵として制作された銅版画があります。1957年に制作されたこの作品は、エッチングとアクアチントの技法を用いて詩の世界観を視覚的に表現しています。また、他の詩人とのコラボレーションでも、詩的なモチーフとミロの抽象的なフォルムが調和しています。

6. 『象徴と夢（Symboles et Rêves）』シリーズ

『象徴と夢』シリーズは、1970年代に制作され、抽象的な記号やシンボルを多用した作品群です。このシリーズでは、夢と現実の融合がテーマとなっており、リトグラフの技法が用いられました。鮮やかな色彩と独特のフォルムが印象的で、ミロの創造的な想像力が遺憾なく発揮されています。このシリーズは、視覚的にも詩的にも観る者に強い印象を与えます。

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