[対話について]飛び石を据えるのをみた話
「冗談じゃない!そんなこと出来るか!!」
コーヒータイムに親方の怒号が飛ぶ。ちょっとものが飛んだりもする。
またか。
またやり直しの指示である。
デザイナー案件の茶庭。
この現場始まって以来
こんなことが絶えない。
「デザイナーだからわざとなんじゃないですか?」
私は言ってみた。
でもそんなことないのを私も知っている。
図面をみると全くもって違和感のない茶庭なのである。茶室もあるし、水琴窟まである。
なんのことか。
デザイナーは据えた飛び石を
もっと自由にバラバラに据えなおせと言ってきた。
特に、飛び石と飛び石の間が並行になっているのが気に食わないと。
ところが自然石の飛び石というのは
飛び石同士をなるべく並行になるよう据えるものなのだ。その間隔も着物の裾さばきに配慮したものになっている。
バラバラになんて据えれるかというのはもっともだ。自分の大切にしてきた職人人生否定されるような仕事である。
「そんなことないか。知らないんですよね。」
困ったなぁ。
デザイナーは親方より年上の女性なんである。
男性の多い建築業界で、ここまでやってこられた女性にもきっとプライドがある。
いうこと聞かない、舐めてくる職人なんか五万と見てきたはずだ。
私はそれもわかる。
「いっぺんデートに誘ってみればどうですか?」
親方に何言ってんだコイツの目でみられる。
「近くに国宝級の茶室あるじゃないですか。どうせこんな調子で工事進まないし、いっぺんデザイナーの先生連れてってみたらどうですか?」
「親方女性の扱い上手じゃないですか。飲み屋のママとか女の子とかすぐ仲良くなる。きっとできますよ。」
「誰があんなババアなんかとデートするか!!」
親方はさらに怒り狂った。
ただ怒り狂う方向性がおかしいので
周りの職人さんたちもちょっと緊張がとけた。
「ですよねー。変なこと言っちゃってスミマセン。」
休憩明け、まだどうなるかわからない飛び石には触らずに他の作業を進めた。
しばらくして、またその現場に行くことになった。
飛び石を据えなおしている。
ただし親方はご機嫌である。
話を聞いてみると
結局デートに行ったみたいだった。
国宝級の茶庭を一緒に見て歩いて
話すことで、こちらのいうこともわかってもらったようだ。
そして親方も相手のことがわかり、顔を立ててやろうと思ったようだ。
全部じゃない飛び石のやり直しは、2人の共同作業になっていた。
それからその現場は
多少のやり直しはあっても
一気に進むようになった。
まさしくあの瞬間
「飛び石」が据わったのだ。
デザイナーと親方の歩み寄りが教えてくれた。
胸筋をひらいてみるというのは大切である。