なぜ、精神科(心療内科)は予約が取れないのか?


① メンタルクリニックの新規予約は非常に困難

あなたは、精神的につらい状態=メンタルヘルス不調・疾患におちいっている可能性が高い状態、になった時にどうされますか?

ネットで調べたり、知人・友人に聞くかもしれません。しかし、現在のGoogleによる検索アルゴリズムでは、ヘルスケアにおける、正しい情報、エビデンスが高い情報には、キーワード検索で中々到達できません。もはや医師であったとしても、きちんとトレーニングを積んでいないと、キーワード検索では正しい情報にたどり着けない時代になっています(新型コロナに関するデマの流布もみれば明らかです)。

したがって、やはり、信頼に足る専門医の意見を聞くことが重要となってきます。早期発見・早期治療(=公衆衛生の2次予防)を行いたいと考えて、受診先を探す事となります。

現在、殆どの精神科/心療内科クリニック(メンタルクリニック)は完全予約制になってきています。しかしながら、どこのメンタルクリニックに問い合わせても、初診患者は予約がすぐに取れず、苦慮されることになります。私の友人が運営しているクリニックでは、初診患者予約は6ヵ月待ちで、これはさすがに長いとしても、過半数のクリニックで、新規予約は1ヵ月以上待たされるのではないでしょうか。

この背景には、大きく2つの要因があります。

② 需要(ニーズ)に対して供給(リソース)が圧倒的に足りていない。

メンタルヘルスケアは医療の中で最も重要な領域です。精神科医によって、健康損失の2割以上の要因となっている精神疾患・認知症の診療がなされていますが、精神科専門医は全医師の3%しかおりませんので、圧倒的にバランスを欠いた状態です。

専門的治療を行う専門医を増やす事はすぐには出来ません。日本は、先進国(OECD加盟国等)の中で、人口1000人当たりの医師数は2.4とOECD加盟37か国中33番目というように、かなり少ないです。医師の労働条件は過酷な事は知られているかと思いますが、医師のみ法的超過勤務が年間1860時間とする過渡的措置を2035年までに終了するとされています(2021年4月12日改正医療法にて、2024年3月に早期終了となりました)。これは、医師以外の職種の2倍以上の水準です。これだけ、過労が生じる背景は、医師不足でしかないのですが、厚労省は長年医師の過剰を主張しています。最近では専門医数が過剰だとして、各都道府県にて人数の制限を行うという施策が既に始まっています。
したがって、現在の状態が是正される日は、日本では決して来ないと私は考えております。

③ メンタルクリニックが対応できる上限診察数と受診抑制

現在、日本にはメンタルクリニック(精神科クリニック)が4,000以上あります。医療機関の状況は、厚生局(厚労省の出先機関)の保険医療機関の承認状況が、公開されていますので、各厚生局のデータを丹念に調べると分かります。私が調査したところ、3千数百にのぼるメンタルクリニックのうち、9割以上が、常勤医師は院長1人のみでした。常勤医2名のメンタルクリニックは、1割弱ですが、その殆どが医師が明らかに親子ないし夫婦であり、きちんと専門医としてのつながりを持って、事業として取り組んでいるクリニックは少ないのではないでしょうか。なお、常勤医3名以上のクリニックは、私の調べでは、全国に数カ所しかありませんでした。

したがって、メンタルクリニックはスモールビジネスの典型例です(そもそも、病院と違って街中のクリニックはどれもスモールビジネスですが)。そのなかで、診療所の税制特例もあり、メンタルクリニックでは、年間の総診察数を約9000回以下に抑えたいという強烈なインセンティブが働く事情があります。

1人の医師で質を担保しつつ診療できる人数にも限りがあります。私が考える、診察の上限人数は再診患者で1日52名です。全員、メンタルヘルス不調・疾患の方ばかりでですので、「死にたい」といった訴えを専門医が聞かない日はありません。1日8hr、片時も休まずに診療して達成できる人数ですので、相当のハードワークとなります。したがって、これを、週5日、1年を通して実施する事は、不可能と思います。精神科特有の事情として、書類業務が多く、毎日1hrは書類作成に時間を要する事情もあります。間違いなく、医師が倒れますよね…。
 年間の総診察数を9000回を年間診療日240日と仮定して計算すれば、1日平均38名の診察を行う事になりますので、質を担保する意味でも、決して、なまけている訳ではないといえます。ちなみに、これでも1人当たり12分しか診察には費やせません。

初診患者は再診患者数名分の、診療時間を要します。したがって、通院治療から数名が卒業してくれれば、初めて、初診患者1名を引き受けられる、という構造です。しかも、年間総診察数9000回という制約の下で診療を行っているので、おのずと、初診患者の受入が困難となるのです。

④ 解決策は?

メンタルヘルスケアにおける2次予防(早期発見・早期治療)を達成するのに、メンタルクリニックの精神科医に今以上の過労を要求する事は困難でしょう。そして、②の事情により、9割以上のクリニックでは収入減をも要求する事になります。

私は、1次予防(発症予防)を強化することこそが、急がば回れですが、一番の解決策になるとの考えから、メンタルヘルス・プロフェッショナルならではの1次予防の取り組みとして、精神科専門医からみて信頼に足る臨床心理士/公認心理師のみからなるカウンセリング・プラットフォーム マイシェルパを立ち上げ運営しています。

カウンセリングを受ける事によって、ストレス反応を緩和する、症状を本格化させない、様々なストレスや精神症状への対応スキルを向上させる、といったことを広めていくことが、現時点で現実的に取りうる解決策として、ベストではないかと考えております。

適切なカウンセリングを受ける事で、治療が必要な状況・状態におちいることを避ける事ができる、そういう社会を実現していく事が私たちのミッションです。

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