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「新しい資本主義」へのエトセトラ
斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』が出て早1年。
未だに私のスマホでは「人新世」という予測変換はでてこない。
2024年に「人新世」か否かが正式に決まるらしいので、変換候補になるのも少し先だろうが、それにしても昨今の日本でこんなにも反響を呼んだ本はないのではないか。
マルクスのことばに準えて「SDGsは大衆のアヘンである」と挑発的に始まり、気候変動とコロナ禍という時代を掴んで離さない。
ゆえに、言論界の著名人が次から次へと挑戦に応じる。
(1)『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』(池上彰・佐藤優 著)
池上彰さんと佐藤優さんの『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』は、中国共産党創設100周年、日本共産党創設100周年を迎えようとする今、日本における左翼の功罪を振り返り、コロナ後の社会を見据えて議論しようという趣旨だが、冒頭では日本で社会主義が再評価されている潮流の中心人物として斎藤幸平さんを挙げている。
格差の拡大によって社会が少なからず左翼的になるだろうとはお二人も予測しており、であれば歴史に学び、過去の過ちを繰り返さないように、この本を出さなければいけないと思ったそうだ。
(2)『コロナ時代の哲学』『新世紀のコミュニズムへ: 資本主義の内からの脱出』(大澤真幸 著)
大澤真幸さんのTHINKING「O」第16号『 コロナ時代の哲学』は、國分功一郎さんとの対談本で、『人新世の「資本論」』より2ヶ月半ほど前に出たものだ。
だから、そこには斎藤さんの名前は出てこないわけだけれども、この大澤真幸という人は発想や比喩が面白く魅了される。(※注)
なんたって、キリスト復活の「ノリ・メ・タンゲレ(私に触れるな)」とコロナ時代を照らし合わせている。
触れないことによる他者存在の尊重は、過去に触れた経験があるからこそ絶大な意味をもつのだ、と。
『新世紀のコミュニズムへ:資本主義の内からの脱出』は、この「ノリ・メ・タンゲレ」の話から始まるため、単なる焼き増しかとも思ったが、そこには斎藤幸平さんへの賛辞があり、大澤さんなりにコミュニズムを具現化するにはどうするかが論じられていた。
斎藤さんの場合、バルセロナのミュニシパリズムや日本のワーカーズ・コープ(労働者協同組合)の事例を引き合いに「脱成長コミュニズム」の実現性を説くが、資本主義にズブズブの現代人には想像がつきにくい点が、各界や読者らがざわついている理由の一つだと私は認識している。
大澤さんもその課題認識は共通しているのか、斎藤さんを擁護するかたちで、「共同所有自己申告税」という具体例を出し、また自然環境・ヒトゲノム・知的所有権の領域においてコモンズを一般化すべきであると説く。
マルクス研究者であるがゆえに斎藤さんが主張の拠りどころを終始マルクスにしているのとは対照的に、独自の視点で多角的に論じようとする大澤さんには大御所の風格を感じる。
現代貨幣理論MMTの非現実性を「裸の王様」の比喩で表しているのも秀逸だった。
※注:以前読んだ『資本主義はどこに向かうのか―資本主義と人間の未来』のなかの大澤さんの文章に「資本主義はサッカーのようなものである。手でボールを扱った方が格段に扱いやすいのに、あえて足で扱う難しさがあるゆえに、苦しみながら楽しんでいる」というような人間社会の複雑さを表す例えがあり、大変印象に残っている。
(3)『資本主義の終焉と歴史の危機』(水野和夫 著)
そして、この土日にふと「脱成長」の話なら、水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』ではなんて書いてあったかなどと思い至り、本棚から取り出してみた。
2014年の本だが、ペスト後の人口増加による価格革命、近代資本主義を駆動する「より速く、より遠くへ、より合理的に」という理念を「よりゆっくり、より近くへ、より曖昧に」転じなければならないなどという話は今でも古びれず示唆に富むものだと思う。
毎日新聞では「コロナ禍で多くの先進国は国債を大量に発行して巨額の財政出動をしているが、金利は上昇していない。これは貨幣が果実を生む種ではなく、自己増殖しない『石』になったことを意味している」と仰っていた。
さらに……
つい最近のニュースでは、2021年の「環境危機時計」は9時42分を指し、前年から5分戻ったとか。
前年より針が4分以上戻るのは8年ぶりとのことで、これはバイデン大統領就任により、アメリカがパリ協定に復帰したことが影響していると言われている。
ただ、コロナによる経済不活性が自然環境を救っている側面もあるのではないか。
また、ウィンストン・チャーチルの名言が、巷では「25歳までに共産主義に傾倒しない人間は情熱が足りない。40歳を過ぎて共産主義に傾倒する人間は頭脳が足りない」などと読み替えられて伝わっているというのを耳にして興味深かった。
コロナとともにあるこれからの社会、私たちの考え方はどうなっていくんでしょうね。
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![市野美怜(りすみん@大人の教養大学)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/25927568/profile_ca5e564c3b69c184dc8ef4bc99b7bdc1.jpg?width=600&crop=1:1,smart)