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(読書感想文)「猫を抱いて象と泳ぐ」

小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」読了。

「大きくなること、それは悲劇である」──この警句を胸に11歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指す。その名もリトル・アリョーヒン。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、自分の姿を見せずに指す独自のスタイルから、いつしか“盤下の詩人”と呼ばれ奇跡のように美しい棋譜を生み出す。架空の友人インディラとミイラ、海底チェス倶楽部、白い鳩を肩に載せた少女、老婆令嬢……少年の数奇な運命を切なく描く。小川洋子の到達点を示す傑作。

Amazon「本の概要」より

積読が多過ぎて追い立てられるように予習なしで読み始めたら、タイトルから受ける印象と内容が全然違うように感じ、最初戸惑った。

冒頭の部分、あまり内容が入ってこずページを進めていたが、中盤後半になって目が離せなくなり、結局前に何度と戻り、2周分くらい読んだ気がする。

チェスに出会い、その数奇な運命に身を委ねながら、生きていく少年の話。
何度読んでも造形が想像できなかった私は、想像力をなくしたつまらない大人になったのだろうか。

少年のためにボックスベッドを作成してくれる手先が器用で少年の想いも察して汲んでくれる優しい祖父と、愛情深い祖母。一緒にキッズランチを食べたりするのを心から喜ぶ弟。
そして、少年にチェスを教え、旅立った後も「慌てるな」と温かく見守ってくれるマスター。
少年に新たな道を示唆してくれる老婆令嬢。

少年の周りには優しい大人が多い。

「何となく駒を動かしちゃいかん。いいか。よく考えるんだ。あきらめず、粘り強く、もう駄目だと思ったところから更に、考えて考え抜く。それが大事だ。偶然は絶対に味方してくれない。考えるのをやめるのは負ける時だ。」
(中略)
「慌てるな、坊や」

マスターの教えはチェス以外にも通づる。
「何となく」選択することのなんと多いことよ。

周囲の優しい大人に囲まれる一方で、その世界は長くは続かない。

生まれの差があり貧富の差があり、カーストがある。

海底チェス倶楽部でのミイラと鳩の出来事はこのストーリーの中で 1 番暗い気持ちにさせられた。
世界は必ずしも正しさや個の尊厳を尊重してくれるようにはなっていない。

その中で強みを持ってどう強かに生きるか。

チェスに出会えた少年は幸運だ。
チェスや囲碁や将棋。あの盤面に宇宙を見出せる人は多くない。

最後に本(文庫)の見開きにあった、チェスの駒の説明がまるで擬人化されているようであった。

キング…決して追い詰められてはならない長老。全方向に1マスずつ、思慮深く。
クイーン…縦、横、斜め、どこへでも。最強の自由の象徴。
ビショップ…斜め移動の孤独な賢者。祖先に象を戴く。
ルーク…縦横に突進する戦車
ポーン♟️…決して後退しない、小さな勇者。

将棋の世界も同様に奥深い。

その世界を愛し愛され、没頭できることを、ちょっと羨ましくも感じる。

最後まで読み終わった後、タイトルを見たら、全く違和感はなかった。

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