(読書感想文)「猫を抱いて象と泳ぐ」
小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」読了。
積読が多過ぎて追い立てられるように予習なしで読み始めたら、タイトルから受ける印象と内容が全然違うように感じ、最初戸惑った。
冒頭の部分、あまり内容が入ってこずページを進めていたが、中盤後半になって目が離せなくなり、結局前に何度と戻り、2周分くらい読んだ気がする。
チェスに出会い、その数奇な運命に身を委ねながら、生きていく少年の話。
何度読んでも造形が想像できなかった私は、想像力をなくしたつまらない大人になったのだろうか。
少年のためにボックスベッドを作成してくれる手先が器用で少年の想いも察して汲んでくれる優しい祖父と、愛情深い祖母。一緒にキッズランチを食べたりするのを心から喜ぶ弟。
そして、少年にチェスを教え、旅立った後も「慌てるな」と温かく見守ってくれるマスター。
少年に新たな道を示唆してくれる老婆令嬢。
少年の周りには優しい大人が多い。
マスターの教えはチェス以外にも通づる。
「何となく」選択することのなんと多いことよ。
周囲の優しい大人に囲まれる一方で、その世界は長くは続かない。
生まれの差があり貧富の差があり、カーストがある。
海底チェス倶楽部でのミイラと鳩の出来事はこのストーリーの中で 1 番暗い気持ちにさせられた。
世界は必ずしも正しさや個の尊厳を尊重してくれるようにはなっていない。
その中で強みを持ってどう強かに生きるか。
チェスに出会えた少年は幸運だ。
チェスや囲碁や将棋。あの盤面に宇宙を見出せる人は多くない。
最後に本(文庫)の見開きにあった、チェスの駒の説明がまるで擬人化されているようであった。
将棋の世界も同様に奥深い。
その世界を愛し愛され、没頭できることを、ちょっと羨ましくも感じる。
最後まで読み終わった後、タイトルを見たら、全く違和感はなかった。