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不思議な海:チェスがくれた記憶と新たな冒険のはじまり
突然チェスがやりたくなった。
理由はよく分からない。
チェスと出会ったのは、随分と前のことだ。
正確な日付は、謎だ。
どのようにしてルールを覚えたのかも、ちょっと定かではない。
ただ、たった一回だけ、盤と駒を使って対局したことは鮮明に覚えている。
時は2005年、場所は東京。今から17年前のことだ。
なぜ、はっきり覚えているかと言うと、「第3回国際将棋フォーラム」というイベントを観戦に行ったからだ。
その中に、「世界の将棋コーナー」というフロアがあった。
チェスのコーナーには、誰も人がいなかった。
恐る恐る受付の人に申し込む。
「初心者なんですけど……」
担当の方は、笑顔で大丈夫ですよと告げると、さっそく対局に応じてくれた。将棋盤と駒とは違う、チェスの駒の感触。盤上は不思議な海に見えた。
勝負は一瞬だった。次々に駒を取られて、あっという間に投了に追い込まれた。柔道で言えば、組んだと同時に投げ飛ばされたような感覚だった。
これには、相手の方も苦笑い。一礼して席を立つと、入れ替わりにご年配の方が着席して挑戦した。
その様子を、後ろからじっと眺めることにした。
戦況はよく分からなかったが、大激戦と言うことだけは二人の表情から読み取れた。
勝負は、わずかに、ご年配の方が届かなかったようだ。
踵を返してブースを後にすると、
「本当にお強いですね。」という声が聞こえてきた。
なんだかそれが妙に羨ましくて、弱い自分がもどかしかった。
もっそりと、本棚から書籍を引っ張り出す。
「ボビーフィッシャーのチェス入門」
私の唯一持っているチェスの専門書籍だ。
ページをめくると、走り書きが残っていた。
どうやら購入した時に書き込んだものらしい。
日付を見ると、2017年4月とある。5年以上前のことだ。
なんでも、ドトールで友人から詰めチェスを出題されたことが
本を購入したきっかけらしい。
将棋にはない、クイーンの動きに感銘を受けたと記されている。
そこから本屋を3軒はしごして出会ったのが、ボビーフィッシャーのチェス入門というわけだ。
走り書きには、対局した感想も箇条書きで添えてあった。
どの駒を動かしていいかさっぱり分からない
ナイトの動きが強すぎて戸惑う
クイーンとキングの見分けがつかない
ポーンの動きが特殊だ
そういえば、そんなこともあったような気がする……
断片的な記憶を探りながら、なんとなく当時を思い出した。
チェスの旅は、始まったばかりだ。
これからも存分にチェスを楽しみたい。