理霊齋=6=Fletcher

元鬱ニート。 怪奇幻想文学を得意とする、と言うか怪奇幻想文学が好き。 日本文学よりも海外文学を好む傾向がある。 多分に漏れず変な人である。自覚は一応ある。

理霊齋=6=Fletcher

元鬱ニート。 怪奇幻想文学を得意とする、と言うか怪奇幻想文学が好き。 日本文学よりも海外文学を好む傾向がある。 多分に漏れず変な人である。自覚は一応ある。

最近の記事

マスター・タトゥーの後継者

 スヴェン城は間も無く陥落するだろう。夜中でありながら30000の包囲軍が煌々と篝火を焚き、門という門全てに陣を構えていた。この様子では包囲軍は明朝に総攻撃を仕掛けてくるだろう。場内に残るは忠臣200名と義理堅さで名高き傭兵集団『鉅の技師団』400名、計600名。兵力の差は歴然である。  死臭に満ちた城内でただ一室だけが異質な清浄さを湛えていた。この部屋では一人の少年が刺青を入れられていた。この少年、どう見てもティーン未満である。硬いベッドにうつ伏せになった少年の背中に男が

    • 地下運送業十八代目

       今は亡きお祖母ちゃん曰く、地下で長生きするコツは無謀を避ける事、無知を恥じる事、だそうだ。お祖母ちゃんは戦後の動乱をこのモットーで生き残ってきたと聞いた。どうやらお祖母ちゃんは地下じゃあ随分名の知れた大人物だったらしい。 「君が、桃代さんの孫息子かい」 「はい、私が十八代目進兵衛を襲名いたしました」  俺が地下業界に潜って早3か月、お祖母ちゃんの名前を使って営業するだけで随分な数の大物と繋がることが出来た。今回の依頼人もそうだ。森岡、表向きは大手旅行会社の創業者、裏の顔

      • 水が合わない

         21時の高松駅には案外人がいるものだ。既に駅ビルはシャッターを下ろし、空いているのはコンビニだけ。それでもコンコースには大荷物を抱えた人々が待合のベンチを占領している。かくいう私もその中の一人だ。現在高松駅にいる人間の殆どが目的を同じにしているのだろう。21時26分発サンライズ瀬戸。私の目的は帰省である。  夜のターミナル駅の雰囲気は何処か現実感が無い。東京とは違い人流がまばらな所為か、都市の生命力が感じられなかった。駅舎に明かりが灯っていても、まだ終電の時間でなくとも高

        • 夢見る少女達は魔道騎士団、或いは、元素神解放

           S県稲郷市、4月1日、6:00。三人の少女が悪夢を見た。  6:50。一人の少年が天を見上げた時、吉兆と凶兆を読み取った。  7:15。一人の少女がいつもはするはずのおかわりをしなかった。  8:30。一人の老婆が占星術と地相術でもって稲郷市の一年を占った。  9:20。一人の少女が全身の関節に違和感を覚えていた。  9:45。一人の男子高校生が小動物の様な何かが弧を描き飛ぶのを目撃した。  10:30。幽霊屋敷と呼ばれる洋館に一人の女性入居者が到着した。  

          長腕の剣 新当不動流事始

           これは夢だ。間違いない。何しろ天も地も真っ赤に染まっていやがるんだ。  赤茶けた大地と赤黒い大空にはこれまた真っ黒な影がうようよと蠢いている。どいつもこいつも皺だらけでがりがりに痩せ細っている。そいつらは目の前にあるものは何でも喰らい付く様だ。四方八方から肉を噛み千切る音、骨を噛み砕く音がする。  思わず左腕がずきずきと痛み出す。この前の戦で肘から先が無くなった筈なのにだ。可笑しなものだ。無い筈の左腕が痛みを訴える。ああ、可笑しい。何もかもが可笑しい。この光景も、左腕の

          長腕の剣 新当不動流事始

          渦に潰れる

           私が小学四年生の秋に隣に引っ越してきたその一家は、何処かこの街にそぐわない雰囲気をたたえたまま挨拶に来た。その家の母親は隠しているのだろうが、言動の端々からこちらを見下しているのが子供の目から見てもまる判りだった。無理矢理身に着けているように見えた数々のブランドと思しきファッションアイテムが、子供心に痛々しさを引き起こさせたのを覚えている。聞く所によると、いや彼女が聞いてもいないのに口を開いたのだが、どうやらその家の旦那さんは有名な大学を出て有名な建設会社に勤めているらしい

          余剰次元の先を越えて

          1 旧友からのメール  前から音信不通であった大学時代の友人である時任から突然メールが来た。“事情は知っている、お前と愛理を救えるかもしれない”という件名のメールだった。普段なら迷惑メールだとすぐさまゴミ箱に放り込むのだが、私はそのメールの送り主が確かに時任であるという確信があった。私はメールを開いて文面を見た瞬間、時任の文章だとはっきり理解した。 “突然の連絡で申し訳無い。急に君達の前から消えたと思ったらまた急にメールを寄越すなど通常であれば全く失礼だと思われるだろうが

          余剰次元の先を越えて

          南総里見八犬伝異聞 上総館山邪宗門【逆噴射小説大賞2022】

           この夜こそ、源金太素藤にとって最大の転機であった。京でクソ親父がやらかした所為で、気侭な山賊人生を送れると思っていたらあれよあれよという間に夜逃げ同然の体で坂東の端っこまで来てしまった。おまけに安房上総を治める里見とやらは随分な仁君で、仕官も悪行もやりにくいと来たものだ。  それが、たまたま神主もいない神社で野宿していたら、流行病の治療法がご神木の精と疫病神の会話から盗み聞き出来てしまった。ご神木の洞に溜まった水に金を一昼夜漬ければ疫病退散のご神水の完成だ。  これがあ

          南総里見八犬伝異聞 上総館山邪宗門【逆噴射小説大賞2022】

          東京は夜の七時【#逆噴射小説大賞2022】

           東京、渋谷、夜の七時。デートじゃなかったら決して来たくは無い場所と時刻だ。最悪な事に待ち合わせ場所として以前から利用していた店は潰れてしまった様だ。畜生、腹が減ってきやがった。手に持っている一輪のバラがやけに重く感じる。他に入れそうな店を探すしかない。それとも向こうからの提案を待つか? どうしたもんかね。  俺が溜息を吐くと同時に、メガネに仕込んだ骨伝導イヤホンがアラームを鳴らす。デート相手に何かあったのか? 「予定変更、今すぐ神南二丁目へ。コンサートの気分みたい」

          東京は夜の七時【#逆噴射小説大賞2022】

          読むたびに印象が変わるんです

          ―― 香田さんは近年読書家として知られるようになり、お仕事の幅が広がっていらっしゃいますね? 香田 そうですね、こうして雑誌やテレビで取り上げて頂いたことで随分色々な経験をさせてもらっているな、と感じます。コラムの連載や朗読会といったイベントに参加することで知見が広がり、俳優業の方にもいい影響があると思っています。おかげで着々と個性派俳優としてのキャリアを積めていますよ(笑)。 ―― すっかり若手の名バイプレーヤーとして世間に認知されてますね。 香田 ありがたい事です(笑)。

          読むたびに印象が変わるんです

          靴の中

           今日は本当についていない日だ。靴下に穴は開くし、そのせいで仕事に集中出来ずに凡ミスを連発で散々だった。こんな日は余計な事をせずに真っすぐ帰るべきだ。そう思っていた矢先、突然の夕立に遭ってしまった。当然傘なんて持っていないし、買う場所も近くに無かった。私はバス通勤なので下手すると雨の中ずっと待っていなきゃならないことになるし、時刻によっては一本逃すと一時間以上待たされることになる可能性がある。丁度次のバスを逃すと一時間待つことになる。仕方なしに私は濡鼠になるしかなかった。おか

          空間除菌

           Oさんは私たちのママ友グループの中ではやたらと仕切りたがる人でした。というよりも自分が物事の中心でないと気に入らない人でした。ですから自分の意見が通らなかったり自分に関係ない話題の時は露骨に不機嫌になり、癇癪を起こすなんて事はしょっちゅうでした。正直言いますとOさんをグループから追放したいという気持ちは皆さんあったと思います。しかし、Oさんは思い込みが激しい上行動力があるため、グループから外したら何をされるかわかったものじゃありません。仕方なく私たちはOさんのご機嫌を伺いな

          珠姫伝 第二十四回 春樹、珍走百鬼夜行に嵐をもたらす

           もう間も無く来るか―――十二歳と幼いながらも兵法者としての勘と科学者らしい統計による予測が見事に噛み合った。自ら設計した天体電波望遠鏡と電子顕微鏡に匹敵する春樹の広帯域千里眼が、龍脈国道122號線を南下するその姿を捉えていた。現在の時刻は23時43分、佐野龍穴インターチェンジを通過した所だ。このままだと丁度0時辺りに川口大龍穴ジャンクションに到達するだろう。最早一刻の猶予も無い。 「敵襲! 敵襲!」  稲城家の屋敷中に館内放送を飛ばしながら、春樹は敵の正体を広帯域千里眼で観

          珠姫伝 第二十四回 春樹、珍走百鬼夜行に嵐をもたらす

          図書館から脱出するもの

           生まれて初めて退屈に襲われた。  目眩と嘔吐感が同時に私を蝕んでいく。だが倒れることは出来ない。私は業務中で、倒れた所で助けてくれる同僚も近くに居ない。それどころか私の現状を正しく理解してくれる者など、この図書館には誰一人としていないだろう。私も現状を正しく理解出来ている訳では無い。ただ、退屈だ、と言う状態がひたすら続いているだけなのだが。いや、そもそも我々司書は退屈などと言う感情を持つことなど未だ嘗て無かったのではなかろうか。この世に生を受けてから、一言たりとて退屈、と言

          図書館から脱出するもの

          智と血を追求した日々

          2016年 3年F組 彫減=Luis=穂留辺  私の架空ヶ崎高校での三年間は、図書委員会とビブリオバトル部が中心にあったといえましょう。  読書と暴力が何よりも好きな私は、図書委員会では延滞者への制裁と人皮装丁に精を出し、年間延べ154人を『制裁』し本に作り替えました。これは歴代最多記録だそうです。その功績を称えられ、私は図書委員長として敏腕を振るうこととなったのは皆さんも知るとおりです。  また、ビブリオバトル部では標準装備であるタクティカルペンだけでなく、愛用の鉄杖

          智と血を追求した日々