読書|なれのはて
最後のページを読み切った後、ふぅ…と漏れ出る吐息。読了後の充実感と壮大なストーリーが終わってしまった寂しさが、胸に広がりました。
「加藤シゲアキの第2章としてのスタート」のキャッチコピー。これまでの彼の作品を遥かに超えていった一冊は、読んで悔いなし、出会えてよかったと思える物語でした。
本書では、扱うテーマが多岐に渡ります。戦争・報道・著作権・家族・石油…。それぞれのテーマを貫くのが、無名の画家の絵でした。
報道の第一線で活躍していた守谷京斗は、ある事件をきっかけに、イベント事業部へと左遷されます。異動先で出会った吾妻に、昔から大切にしている不思議な絵を紹介されました。
そして吾妻の「作者不明の一枚の絵で、展示会を開きたい」という一見無謀に思える夢を叶えるべく、画家の正体を探り始めます。しかし、その調査は秋田のある一族が絡んだ壮大な秘密を明らかにしていくのでした。
物語のどこを辿っても「作者不明の一枚の絵で、展示会を開きたい」という軸はブレず、そのために守谷や吾妻は真実にむかって奮闘します。報道の血が騒ぐ守谷は、多くの人の話を聞き、状況を整理し、信じられない真実を知ることになりました。
過去と現代が入り混じる構造で、戦時中から2019年までの100年間にスポットがあてられています。
1945年8月15日終戦の前日に秋田県秋田市土崎地区で「日本で最後の空襲」があったこと。秋田県は油田があったため、外国からの標的になったこと。
一つひとつの事実が私の知らない歴史であり、いかに自分が平和な現代の中で呑気に生きているのかを気づかされました。戦時中の描写もありますが、悲痛な叫びや理不尽な痛みがありありと脳内に再生されます。
自分が守りたかったものは何なのか。家族なのか、友人なのか、恋人なのか。はたまた自分のプライドなのか。100年前から現在まで脈々と続く意志から、私たちは何を感じ取れるのでしょう。
旅の終着点に到達するまでに、深い渦の中へ自分が沈んでいく感覚を抱きました。まるで、油田に身を委ねるように。
最後に、守谷が胸に刻んだ一言を紹介したいと思います。
報道の力を使って、全てを公表すること。それが善とは限らない。この言葉を、芸能界で活躍されている方が伝えている重さを感じました。
作家としての彼の作品をこれからも楽しみにしています。未読の方にはぜひ、読んでいただきたい一作です!
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