脳の「自動操縦モード」へ対処して、自責や不安を軽減しよう
前回の記事では、脳の「自動操縦機能」であるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)に気をつけようという話をしました。
DMNは私たちにひらめきや創造力を与えてくれる一方で、脳疲労や不注意の原因でもあります。
さらに、DMNが働いている最中は、意識が「今ここ」になく、主語が「I(私)」から始まる自動思考が発生しやすいと言われます。
自分で気づかないうちに、意識が過去と未来を行ったり来たりして自分を苦しめています。
また、うつ病や発達障害を抱えている人は、一般の人と比較してDMNが働いている時間が長い、という話でした。
これから、DMNの抑え方や自分へのダメージの減らし方について解説します。
対処方法としては大きく「脳の構造を変化させる長期的な対策」と「すぐにできる即時的な対策」の2つに分かれます。
脳を鍛えることでDMNの稼働時間を減らし、不注意・不安・脳疲労から解放されましょう。
1.3つの情報処理ネットワークについて
本題に入る前に、脳の機能について少し学習しましょう。
脳には、大きく分けて3つの「情報処理ネットワーク」があると言われています。
そのうちの1つがDMNで、残りの2つが「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク」と「サリエンス・モード・ネットワーク」です。
DMNが「何も集中せずに、ぼんやりしている時」に働いているネットワークであるのに対し、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークは「何かに集中している時」に稼働しています。
読書に集中している時、スポーツに夢中になっている時、このモードがONになっています。
また、サリエンス・モード・ネットワークは、「注意を切り替える時」に働くネットワークだと考えてください。
例えば、運転中に運転以外の何か別のことを考えている時に、急に人が飛び出してきたとします。
ハッとして意識が運転に向くはずです。この時に働くのがこのネットワークです。
授業中にぼんやりとしていた自分に気づき、意識を先生の話に戻す時も、このネットワークが働いています。
つまり、サリエンス・モード・ネットワークは、DMNからセントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(集中モード)に切り替えるスイッチの役目を果たすと考えてください。
また、自分の思考や感情を客観的に眺めている時も、このサリエンス・モード・ネットワークが働いています。
この「客観的に思考や感情を眺めている状態」というのは、マインドフルネスと呼ばれます。
マインドフルネス状態にある時は、思考や感情が自分に及ぼすダメージを減らすことができます。
サリエンス・モード・ネットワークを保ち続けることでマインドフルネス状態を作り出し、結果として思考や感情を切り離すことができる、ということはとても大事なので、ここでしっかりと頭に入れてください。
2.長期的な対策には●●が最も有効である
さて、ここまでの話を踏まえると、DMNの働きを抑えるには、以下の2つが有効だということがわかります。
⑴サリエンス・モード・ネットワークを働かせて目の前のことに意識を戻す
⑵サリエンス・モード・ネットワークを維持してマインドフルネス状態を保つ
つまり、ネットワークが働く「回数」と「時間」を増やす必要があります。
そして、このネットワークを司るのが左右の脳に一つずつ存在する「島皮質」という部位です。
島皮質を鍛えることで、このネットワークを意識的にコントロールできるようになります。
島皮質の強化には瞑想が最も有効的であると言われています。
一般的な瞑想のやり方が「雑念が湧く→雑念に気付く→呼吸に注意を戻す」を繰り返す行為です。
そのため、「瞑想が切り替えの訓練」だということはなんとなくイメージしやすいでしょう。
この「呼吸に注意を戻す」というプロセスにおいて脳に一気に血液が流れ、脳の神経を太くすると言われています。
僕は瞑想を始める前まではDMNが稼働し放しでした。
しかし、通算2年近く実践した結果、現在はDMNのスイッチを切り替えることが上手になり、他の2つのネットワークが稼働している時間が長くなりました。
ちなみに、こんな面白い研究結果があります。
チベット密教の僧侶の脳に脳波計を繋いで、脳の働きを測定してみたところ、DMNの機能している時間がほとんどなく、常にサリエンス・モード・ネットワークが長い時間にわたって働いていたそうです。
彼らは毎日4〜5時間を瞑想を行います。
脳の構造が変化したことで、常に「気づき」が保たれているようです。
過去の記事でも瞑想以外の「気づき」を鍛えるトレーニングを紹介しています。
また音読も中長期的な対策では島皮質を鍛えるのに有効です。
良かったらご参考ください。
3.自分へのダメージを減らすための即時的な対策
「DMNの働きを抑える方法」と、「DMNの働きは止めないものの、自分へのダメージを減らす方法」の2つに分けて解説します。
実際に試してみるなかで自分に合ったものストックしておくことをお勧めします。
ⅰ. DMNの働きを抑える方法
マインドワンダリングやモンキーマインドを止めるやり方です。
どれも些細なものに見えますが、実践してみると効果が大きいことが実感できると思います。
① 「あーーー」と声に出す
② 口を大きく開ける
③ 上を見上げる
④ 口に出して「STOP」と言ってみる
⑤ 自分の行動を実況中継する
⑥ 利き手の反対の手を使ってみる
僕の場合は、仕事から帰ってきてから就寝の間に反芻思考が止まらないことが多くあります。
「なんであんなミスしちゃったんだろう」と同じことをぐるぐると考え続けて、リラックスできません。
そのような場合に、上の方法を試してみると、思考をピタッと止めることができ、脳疲労を和らげることができます。
⑤の「自分の行動の実況中継」については、例えば手を洗っているとき「私は手を洗っている」、服を脱いでいるときは「私は今服を脱いでいる」と、今やっている行為を具体的に中継してみることです。
声に出してみるのも効果的です。
⑥の「利き手の反対の手を使う」に関しては、普段やっている行動(ご飯を食べる、歯を磨く)を反対の手を使って行うということです。
やってみるとなかなか難しく、意識がそちらに向いてしまい、反芻思考を止めることができます。
ⅱ. DMNによるダメージを軽減する方法
こちらは、頭のぐるぐる思考が続きながらも、それによる自分へのダメージを少しでも減らすことを目的とした方法です。
「DMNが働いている状態」と「DMNが働いていることに自分が気付いている状態」では自己否定によるダメージが大きく異なります。
「DMNが働いていることに気づかずに反芻思考による自責や不安に飲み込まれている」のと、「DMNが働きながらも自分の思考に気づき思考を切り離している」、両者は大きく違うのです。
思考を止めるのも良いですが、思考をただやり過ごすのも効果的です。
そのことを頭に入れたうえで、思考を切り離す方法について学びましょう。
① 思考の後に「~と思った」「~と考えた」とつける
例えば、「失敗を繰り返す自分はダメなやつだ」という思考が止まらなければ、
「失敗を繰り返す自分はダメなやつだ、と思った」と、加えてみましょう。
「~と思った」の部分を、口に出すのも効果的です。
さらに、「~と思ったけど、本当?」とつけると効果的です。
② 自分の思考にメロディをつける
これは少しバカらしく感じますが、「脱フュージョン」という名称で実際に取り入れられている立派な心理療法です。
メロディは実際にある歌でも、自分で即興で作った歌でも構いません。
例えば、「上司はいつも自分に対して厳しすぎる」という思考が止まらなければ、それを「森のクマさん」のメロディに合わせて口ずさんでみましょう。
気持ちが楽になるはずです。
これに似たようなもので、ミッキーなどのアニメのキャラの声真似で、自分の思考を口ずさんでみるという方法もあるようです。
③ 身体の感覚に目をむける
自分がネガティブな思考に陥っているときは、必ず身体に反応が出ているはずです。
例えば、怒りで上半身が熱くなったり、恥ずかしい思い出で呼吸が浅くなったり、といった感じです。
その身体の感覚を観察しましょう。
「あ、自分の心拍数が上がっている」と実際に口に出してみてもいいかもしれません。
これは日頃から習慣化すると、身体に意識を向けることが容易になっていきます。
④ 紙に書き出す
有名な方法ですが、紙に書き出すのは皆さんが考えている以上に効果があります。
「外在化」と言われ、自分の内面にあった思考を外に出してみることで自分の思考を客觀視することができます。
スマホやPCで書くのもアリですが、できればペンと紙で書くことをおすすめします。
以前、「ネガティブな思考を切り離す方法」という記事を書きました。
こちらでも、各々のテクニックについてより詳しく解説しています。
4.終わりに
いかがでしたでしょうか。
DMNは放っておくと脳疲労や不注意、自己肯定感低下の原因になります。
特に、発達障害を抱えていてDMNの切り替えに異常がある人は、常に脳が多動状態にあります。
「脳は可塑性がある」と言われている通り、毎日鍛えることで筋肉のように増強されていきます。
DMNの働いている時間が短い人ほど幸福度が高い、とも言われています。
脳を鍛えてDMNに負けない脳を作り出すことで、不注意を減らすだけでなく、幸福度まで高めていきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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