【読書感想_3】ムーミン谷の彗星

ムーミンシリーズの二作目。

前作「小さなトロールと大きな洪水」がふわりとした「始まりのお話」だったのに対して、こちらは意識的に「物語」として書かれている印象。
よく知るムーミンの世界が広がっていて、おおムーミンだ!と感じた。

■スニフの人間くささが胸に刺さる
スニフの臆病で欲張りで見栄っ張りでわがままなところが、ほんとーにもうあまりに愛おしくてびっくりした。
たぶん、子供の頃にはそう感じてなかったと思う。
大人になって読んでみたら、スニフの色んな言葉に共感して何度も頷いてしまった。

スニフが谷底の宝石を、あと少しのところで手に入れられなかったシーン。
スナフキンは、
「僕は見るだけにして、頭の中にしまっておくことにしているよ」
と慰めるけれど、スニフは、
「見るだけと、自分の手に持って自分のだと思うのは全然ちがうのに」
と悲しそうにしょげる。

ああ、、スニフ本当にその通り…!!!!!
本当にそうなんだよねと、めちゃくちゃ頷いてしまう…!!!!
スナフキンの言ってることは、とてもかっこいいし、それはそうなんだと思う。
でも、誰もがスナフキンのように思える訳じゃ無い。
あとちょっとで私のものになったのに!とってもあれが欲しかったのに!
て時、大人になってもあるよなあと胸が苦しかった笑

誰でもスニフのような部分は持っているけれど、それをおおっぴらに出すことはしない。
でも、スニフはいつもそれを素直に叫んでは、泣いたり怒ったり喜んだりしている。
そこがとても愛おしいなと感じた。

■冒頭の風景描写の美しさ
冒頭すぐにムーミンが森を抜け海にもぐる場面があり、その描写がとても美しく瑞々しい。
あれ、前作ではこんな描写あったっけと驚いた。
この後迫りくる彗星によって暗く変わる世界との対比かな。

■スノークのおじょうさんと出会うムーミン…微笑ましい
何というか、Boy Meets Girl!
普通ににやにやして読んだ。
スノークのおじょうさんの話を聞いたムーミンは、実際に会う前からそのことで頭がいっぱいになってしまって、何とも微笑ましい。
微笑ましいどころか、一連の行動は暴走と言ってもいいくらい笑
素直で露骨で滑稽で一生懸命。
女の子と出会った男の子は、多かれ少なかれこうなるのかなあと思うと、かわいい。
それを見守るスナフキンとスニフとのやり取りも面白くて好き。

■物語の進行に無関係なことが起こるけど、最後はおわりへとおさまる
全体を通して、物語に関係ないことやセリフが結構出てくる。
これ、ストーリーに関係ある?みたいなことが自由にたくさん。
ムーミン以外の物語だったら、大抵はどの場面もセリフも物語の進行に必要なもので、関係ないことって出てこない。

ムーミンたちはというと、時には物語に関係ないことを好き勝手喋り、色んなことを自由にしている。
けれど、物語がおわりに近づくにつれて、それらの関係ないことも、関係あることも、全部ひっくるめて物語が力強くまとまっておさまっていくのである。。!これはすごい。

言葉にするのがむずかしいけれど、おお…おさまった…!と驚きをもって感じる。
一見関係無さそうなことも、本当に関係ないことも、ムーミンの世界には必要なんだなと思う。
その曖昧さや意味を持たない何かは、大きな魅力であり読者を惹きつける。

■ムーミンにとってのムーミンママ
本作では、ムーミンのこの言葉がとても印象深かった。
「きっと、みんなどうやったらたすかるか、ママが知ってるよ」

何というか、色んな感情がぎゅうぎゅうになる一言。
小さな子どもにとっての母の存在や「好き」って、まさにこんな感じだ。
母は何でも知っていて、いつだって自分を守ってくれる。
当たり前にそう思っていた、自分も子どもだった頃の感覚を懐かしく思い出した。
そして、ネガティブな意味合いでなく、まだ本作の時点ではムーミンはムーミンママにぴったりくっついている状態なのだ。

■世界が戻ってくる場面のゆるやかな心地よさ
終始彗星のために翻弄され、不穏な気配が色濃い本作。
ムーミンたちの賑やかな冒険道中もとても読みごたえがあるけれど、物語最後「世界が戻ってくる」場面が何とも言えずいいなあと思った。
わずか数ページの短い場面。

少しずつ海は戻り、朝日がまた昇る。
ゆるやかに傷や病気が癒えていく感覚に似ていると言うか。
再生の喜びに自分もゆるゆると同調し、それが何とも心地よかった。

次は「たのしいムーミン一家」!

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